第2話 悪魔はなのる

 天汰、テンタ、てんた……。そう言う一人の声が聞こえてくるが幻聴か?



「あなた、天汰って言ったよね! ちょっと人格的な不安があったけど大丈夫そう」



 この声はさっきの悪魔。初めに来た変な空間に戻ってきていた。やはり悪魔は奇妙な格好をしている。ただ、僕は体を動かせず、仰向けにされられる。しかも、直接脳内に話しかけられているようだ。



「って、人格的不安とか失礼なこと言うな。お前のせいで死んでもおかしくなかったんだぞ? マジで悪魔だな……」


「ぷふーっ! アレで死ぬわけ無いじゃん! しっかり全滅しないタイミングに落としてるんだから。でも、あの体に同化出来ないのは想定外だったな。まあ上手く行けば思い通りに動いてくれそう」


「思い通りに動く? 僕をここまでつれて何の目的があるんだ。そう言えばさっき説明しなかったよな?」


「そうだね、ワタシの目的を教える。ワタシは。だからあなた……というよりこの世界で強くて、一人で行動してる人を選んだの」


「単独……? 他にも二人いたが。おい、まさか姉ちゃんを馬鹿にしてるのか? 一人の何が悪いんだ」


「あー、そこの説明はいずれ知ることになるから省くとして、ま、要するにお互い協力しようってことよ。ワタシが天汰の願いを叶える代わりに、天汰がワタシの存在を作り出せばいいの」


「なるほど。何でも叶えられるのか? なら、家に帰りたい。この世界で最強になれなくていいし、ここで幸せになれなくてもいいから、んだ!」



「帰りたい……意外だなー。でもいいよ、悪魔は契約を守るからね。でも、条件は決めさせてもらう。それはさっき言いかけた奴だけど、簡単だよ。さっきの蹴りとか銃を打ったときに数字が見えたよね?」



 僕達が攻撃するたびに表示されたあの数字の意味、勿論そういうことだろうな。



「そう! あの数字、つまりしたら元の天汰の世界に帰れるって約束はどうかな?」



 カンストとは、カウンターストップのことだ。物にもよるがある一定の数値を超える数値は表示出来なくなり、決められた数値以上のダメージを出しても一定の数値までしか表示されない。


 実際はそれ以上の数字が出ているなんてこともゲームではあるあるだけど……。


 僕もゲームをそこそこやってるから分かるが、悪魔が語るほどそれは容易じゃない。それに加えて、もしシュウの攻撃でもカンスト出来ないなら尚更厳しいだろう。



「そうかな、今の所999999999999万9999ダメージでカンスト、8桁ね。シュウの最高ダメージは大体6000万くらいだったし」


「待ってよ! それじゃあ誰もカンスト出来ないじゃないか!」


「チっチッチッ。ここにいるじゃない、最強の悪魔が! ふふーん」



 自慢げに小さな体を張って見せているが、なにを言いたいのか僕は理解できない。とりあえず黙ってみる。



「そ、それにね、シュウの戦闘スタイルはアタッカーじゃなく、補助なんだよ。最強の悪魔と最強の補助戦士、ワタシ達が居ればあなたは──」

「一番強くなれるよ」



「一番強く……それは手段と目的が繋がってるようには思えないが。」



「手段じゃなくて目的なんだよ。あなたはカンストしないと帰れない。ほら、早く。もうすぐ意識戻すんだから、しばらく話せないよ? 約束してよ、ワタシの夢も叶えるって」



「……分かったよ。僕も戻りたいから協力する。だから裏切るなよ」



「……うん。するよ」



「……なんか、口約束だと軽いな。もっと大きな契約をしよう。指切りげんまんだ!」


「ええっ!? それって小指同士でやるやつだよね。天汰、自分の体見えてないでしょう。面白い冗談言うね!」


 ゆーびきり――


「ちょちょえっ?」



 悪魔のバカにした声に苛ついてしまった僕は有無を言わせる前に口に出したところ、悪魔は焦る様子を見せていた。やったぜ。


「──げーんまん、嘘ついたらシャー芯千本のーます! 指切った!」


「な、なーにそれ」



 照れた表情を見せているが、指の形は完璧だ。



「僕の地元ではこれが流行りなんだよ。ここではそう言わないの?」


「初めて聞いたよ! ああっ、無意識にやっちゃったじゃない」


「なんか……面白いな。そういえば名前なんて言うんだ?」



 耳も真っ赤にして額から汗が少し垂れる様子も面白く見えてきた。悪魔も意外と人間らしく見えるな。


「ワタシの名前? ふふっ、だよ」


「ヘラルねぇ……。いい名前だね。誰が付けたんだ?」



 言葉が面白いように溢れてくる。ここが夢ならすぐに紙に残そうかな。なんだか楽しいや。



「……この名前を付けたのは



 ***

「ああっ! 目、覚ましましたよ! 天汰くんこの指見える?」

「すまない。俺と君は疲労で気絶してしまったんだ。ここは馬車の中だから気にするな」

「……天汰、本物なのか?」



 揺れる車内、荒い3つの呼吸。あまりに三人の顔が近すぎるせいか三人の汗の匂いも感じ取れる。それにこの人達はちょっと冷静になれていないのか、見えているのか確認しようとする手が4つ見えた。



「……ダイアさん指3本、ゼルちゃん指2本ずつ、姉ちゃんは小指1本、難易度上げないで」



 僕が完璧な回答をすると、三人は安堵して喜びの声をあげた。



「良かったぁ! あっ、ほんとごめんね手を離しちゃって」


「お前の蹴り、かなり良かったぞ。鍛えてやろうか?」


「天汰……。良かった、いやどうなんだ……?」



 それぞれの喜ぶ様子を見て、思わず僕も言葉が漏れ出した。



「夢じゃなかった……っ!!」

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