僕の好きになった女の子は、やけに自転車に詳しいマニアックな女の子
ぴこたんすたー
第1話 自転車と警察官に恐るべき銃声と
『チャリンチャリーン!』
人口数千人にも満たない、農業が盛んな田舎の町フクジマ。
初夏の午前の日射しに照らされ、軽快にベルを鳴らしながら白い自転車で下り坂を下っていく若い男がいた。
僕の名前はダイチ。
年齢は二十歳越えで、白い半袖Tシャツに青のデニムという簡素な格好。
大学を卒業したばかりで就職活動をする身ながら、今日のようにいい天気の日は趣味でもあるサイクリングを楽しんでいる。
……とは言っても金がないので普通のママチャリだけど……。
『カリカリカリ……』
「うん、何か自転車の不調か?」
坂道から平坦な道になり、後輪から異音がするのを耳にして、自転車から降りて確認してみる。
「あれ、何かタイヤがホイールからずれてないか? あのおじいちゃん、どこを修理したんだよ?」
就活生としては痛手の四千円を払ったのに手抜き修理か。
タイヤ交換したのに自動的に交換されてどうするんだ。
予備のタイヤは持ち合わせて無いぞ。
「まったくもう、バイト先から近いからって、あの自転車屋さんに修理に寄ったのが間違いだったな」
僕は後輪の外れかけたタイヤを片手で押さえて、空いた手でペダルを回し、タイヤを空回ししてみる。
すると、黒いチューブの部分が餅のように膨らみだし……。
『パアーン!』
そのまま破裂して物凄い音を立てた!
「なっ、今の銃声? そこの貴方、大丈夫ですか‼」
すぐさま、異変を感じて駆け寄る女性警官。
「あれっ、君、ダイチちゃんじゃない。髮短かったから分からなかった。もしかしてイメチェン?」
「その枯れそうなか細い声、まさかミラか?」
「そう、君の未来の花嫁様だよ」
「嘘つけ、婚約した覚えはないぞ?」
「うん、今からお役所に行って婚約届の書類を書くんだよw」
冗談混じりに会話を交わし、幼馴染みで同世代もあるミラが警察官御用達のバイクの白いヘルメットを脱ぎ、長い金髪を揺らす。
150くらいの身長でスレンダーな体形に目鼻が整った童顔の美少女。
でも残念ながら胸は平らに近い。
その容姿のせいか、成人にも関わらず、私服姿で夜遊びをしていると、何も知らない私服警官から、よく補導されていたな。
ミラはそのうちのイケメンだった警察官に恋をして警察官への道を志望し、県外の東京へと配属されて行ったらしいけど……。
『うへぇー、警察官の仕事ってハード過ぎてめっちゃムリィー……』
……と盆や正月休みでここの実家に帰郷する度に弱音を吐いていたな。
「でも驚いたな。本当に自立した警察官になっていたとはな」
「まあね。昨日から憧れの町交番の勤務に転属になったのよ」
「どうせこんなへんぴな田舎の場所なら、迷子のペット探しばかりしてるんだろ」
「そうなの……。貴方のお家はココですか……?」
冗談を言っているようで目が笑っていないミラ。
首と指の関節をコキコキと鳴らしながら僕に近づいてくる。
ココって何だ?
ミラによって滅び去った人骨が地面に埋もれた地獄の
このご時世、ハラスメントという用語が出ていなければ間違いなく僕はミラから警棒でぶん殴られているだろう。
昔から気が短くて口より先に手が出る性格だったからな……。
「それよりも、その自転車平気なの?」
「ああ、あの体がプルプルと震えるおじいちゃんの腕前に騙されたからな」
「何とか修理できそう?」
「まあ、いつも世話になっている自転車屋さんに出張修理を頼むから問題ないさ」
「そう、ごめんね。勤務中じゃなかったら何とかしてあげたいんだけど」
「あの白バイじゃ無理だろ」
「いや、折り畳めば何とかなるよ」
「これ普通の自転車なんだけど……」
「ええ? そうなんだ!?」
ミラは日頃から折り畳みを愛用していたからな。
自転車じゃなくて携帯傘だったけどな。
「じゃあ、私は仕事があるから」
「ああ、ありがとう」
「また会おうね。未来の花婿ーw」
──僕はミラと別れを告げて、近くの駐車場に行き、持っていたスマホで電話をかける。
『──はい、『花丸自転車屋』ですが?』
耳に届くいつものおじさんの声。
良かった、今日は休業日じゃないようだ。
「もしもし、ダイチですが、自転車のタイヤの出張修理をお願いできますか?」
『分かりました。ダイチ君。今いる場所は分かりますか?』
「はい、『ヤーサン八百屋』という店の手前なんですが……」
『うーん、そこはどこですかね。詳しい住所は分かりますか?』
「はい、分かりました。調べたら後ほどかけ直します」
僕はスマホの通話を切り、目の前の八百屋の前に立つ。
「ヤーサンだけにヤバい店じゃないことを祈るぜ」
ネットの地図アプリに
****
「へい、いらっしゃい! お兄さん何をお望みで?」
「すいません、真っ当な人生を送りたいので、ナスに紛れて銃の横流しをするのだけは止めて下さい」
「はははっ、面白いお兄さんだな」
青のビニールエプロンを着けた丸刈りの店員さんが、すぐに僕の心情を理解し、この店の住所をカレンダーのメモ紙にさらさらと書き、僕に手渡してくれた。
顔は強面だったけど、親切で優しいクマさんみたいな人で良かったな。
今度、美味しい塩鮭を買ってこの店に持って来よう。
****
『はい、分かりました。今から車で行きますので少々待っていて下さい』
ああ、こんな時、車があったら便利だな。
何でもちょちょいと運べるからな。
可愛い女の子を車でお持ち帰りしたい気持ちも納得だな。
まあ、実際にやったら犯罪だけど……。
「ねえ、お母さん。あのお兄ちゃん、誘拐に興味があるんだって」
「まあ、どこでそんな言葉を覚えてきたの?」
しまった、思わず心の声が漏れだしていたか。
小学生低学年の少女に聞こえたのもハズいが、その隣にヤンママのようなお母さんがいるから、さらに危険な香りがする。
「えっ、あのお兄ちゃん、誘拐垢舐めじゃないの?」
「こらっ、それは妖怪でしょ!」
僕はその場でスッ転びそうになった。
何だ、気のせいか。
「ふう、やれやれ。ミラに現行犯逮捕されなくて良かったぜ」
僕はホッと一息をついて、駐車場の近くにあった自販機へ向かう。
何か、色々ありすぎて喉が渇いたな。
「お母さん、あのお兄ちゃん、リカちゃん人形に興味があるんだって」
「嫌だわ、ロリコンならまだしも、お人形が好きなの? キモいわ……」
おい、幼女よ。
どんな耳をしてるんだ?
リカじゃなくてミラだぞ……。
僕は缶コーラを飲みながら、いけすかない二人の親子を見やる。
それにしても、ここの自販機の温度設定はどうなっている。
生ぬるいジュースだな……。
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