七十九話 盗賊の力業です!

 毒の沼はブクブクと泡をたてながらどんどん広がっていった。


「なんだこれは! 貴様ら、カティーヌの仲間らしいが、何者だ。」


「ただの盗賊ですよ。」


ミヤビはここぞとばかりにカッコつけている。


 毒の沼のせいで、ホグミーは真っ直ぐこちら側に来ることができない。


「くそ! 小癪なことをしおって。ただの時間稼ぎにしかならないというのに。」


「それはどうですかね!」


間を割ってトルクがハンマーを振り上げながら出てくると、それを下から打ち上げるように振り抜いた。


「ズバーン!」


毒の沼にハンマーをくぐらせたので、毒が飛び散った。それも、全てホグミーの方へ。


「ジュ!」


「ウギャ!」


ホグミーの体に毒のしずくが降りかかり、彼は怯んだ。


 ホグミーは怒り心頭の様子。


「貴様ら! 卑怯だぞ!」


「盗賊なんだから、卑怯も何もないでしょう。あなたみたいに斧を振り回すことしか知らない脳筋とは違うんですよ。悔しかったらそこを飛び越えてこっちに来てみてくださいよ、ほら、ほら!」


え、押してるとわかった途端めっちゃ煽るじゃん。


 調子のると痛い目みそうなものだが……


「おるるるるぁ!」


「ズドーン!」


ホグミーは、トルクがたった今したように、地面を斧ですくい上げるように振った。


「ザバーン!」


馬力の違いなのか、トルクがやったときよりも強い力で毒の沼は叩かれて、今度は毒のしずくが俺たちの方に飛んできた。


「ひえー!」


この娘、同じことが向こうにだってできることを考えていなかったのかな?


 「下がれ!」


急いで飛び退くものの、少し被ってしまった。


「お前ら! 自分が仕掛けた攻撃で逆に反撃されるなんて世話ないな。」


「ずるいですよ! あんなの!」


「それお前が言うなよ!」


みんな少なからずダメージを負ってしまった。


 体力的に、毒が回ると俺たちの方が先に倒れてしまう。逆転どころか崖っぷちに立たされてしまった。


「ヤバいな、これ。」


「初のゲームオーバーが見えてきましたね。」


「縁起の悪いこと言わないでよ。」


毒は、他のゲームと同じく持続ダメージになっている。この毒は味方のミヤビが出したものだが、通常の攻撃とは違って、毒は味方にも効いてしまうのだ。


 それが今俺たちに牙を剥いている。俺たちは曲がりなりにも盗賊だから、体力が少ない。毒の持続ダメージが少ないとはいえ、長時間重なってしまえば立派な致命傷である。


 体力はあとどれぐらい持つだろうか? 何もしなければあと一分も持たないだろうな。まったく、とんでもない毒を撒き散らしてくれたものだ。


 残りの二人も、ステータスは俺と対して変わらないだろうから、同じような状況だろう。一分足らずで全滅という結末が見えてきた。


 回復してもよかったが、回復アイテムを使ったところで焼け石に水。ああ、これは思わぬところで足元をすくわれたものだ。


 このままジ・エンドかと観念しそうになった矢先だった。


「『キュア・ザ・イル』!」


「フワワン。」


薄緑のカーテンのような光が俺たちとカティーヌを包み込んだ。


「なんだなんだ?」


「さすがだな、こういうときに頼りになるんだよ、オレの嫁は。」


 体の中にある毒がみるみるうちに抜けていく感触があった。


「凄いですよ、体が楽になってきました!」


「見てください、表示からも毒がなくなってますよ!」


何が起こった? 


 振り返ると、リリィ王女が両手を合わせて祈っていた。彼女の周りには淡い光のオーラ。俺たちの毒を消し去ったのは、間違いなく彼女だろう。


 王女は魔法が使えたのか! しかも俺たちのパーティーには一人もいないヒーラーだ。


 これで俺たちもまだ戦える。


「ミヤビ、お前あの毒沼消せないのか?」


「ええと……無理ですね。出しちゃったものはもう戻せないです。」


「完全に邪魔になっちゃったじゃないか!」


「仕方ないでしょ! 上手くいくと思ったんだから。」


どうするんだよ。もはやただのギミックじゃないか。


 こう着状態だ。不用意に近づけばまた毒をお互いに浴びせ合うことになる。


「どうしようかな。」


「どうしようって、今のところロータスさんだけ何もしてないじゃないですか!」


「味方にダメージ入れてるお前よりマシだよ。」


とはいいつつ、たしかに俺、今のところ活躍が全くないな。


 毒の沼を挟んでいるこの状況で、全員が近接である。無論大剣の俺もだ。


「言っても俺、大剣だしな。」


「いやいや、なに自分の技忘れちゃってるんですか!」


「技ってなに?」


「ほら、あれですよ。あの竜巻出すやつ。」


「あー! 忘れてたな。あれめちゃくちゃ周りに迷惑かけちゃうから心のどこかで封印してたわ。」


あれやると周りがぶっ壊れるから、この綺麗な世界に来てからは戦闘で一回も使っていなかった。


「それじゃあ、やってみるか。」


大剣を振り上げた。


「ちょっと! 言ったのは私ですけど、ちょっと待ってくださいよ! また私たちも巻き込まれちゃいますよ。」


「退避しようかミヤビちゃん。」


急いで二人は後ろに下がった。


「なんだ急に?」


「そんなところで振り上げていても当たるわけなかろう。貴様、なんのつもりだ?」


若干一名退避していないが、構わないか。


「オルゥアアア!!」

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