二章 相棒も変わり者でした!

六話 パートナーは物理系杖使いでした!

 ミヤビは水色の髪の小柄な少女という見た目。身に余る巨大な杖を装備しているので、格好を除けば完全に魔法使いだ。


 彼女のステータスを見てみると、攻撃力13、防御力27、魔法攻撃力114、素早さ83。


 魔法が使えないというのに、魔法攻撃力が高いのは、重い大剣を背負って、まともに走れないのに素早さが無駄に高い俺に通じるものがある。


 俺たち二人は意気揚々とギルドに向かった。ギルド加入の、パーティー欄を埋めるためだ。ようやく正式にギルドに加入できる喜びが俺たちの足を速めた。


 受付に二人で行くと、前いたのと同じ受付嬢のお姉さんがいた。


「こんばんは。あら、確か昼にギルド加入にいらっしゃった方です? そちらのお嬢さんも確か。」


「ええ、そうなんです。正式に加入できそうなので、また伺いました。」


「あら、ではパーティーを?」


「ええ、俺たち二人ですけど。」


「二人でも立派なパーティーですから、全然問題ないですよ。」


お姉さんはニッコリと笑った。


「それでですけれど、パーティー名はどうしますか?」


パーティー名とかあるのか。チーム名みたいなのと捉えればいいのだろうか。俺たちは一旦下がって相談を始めた。


「どうするよ。名前なんて全く考えてなかったけれど。」


「私もですよ。組めたらそれでいいとばかり。」


急に考えろと言われると困ってしまうのが名前というものだ。ああいうのは自然と浮かび上がってくるからいいのであって、無理矢理出すと、ロクな名前にならない。


「ごめん、俺こういうの苦手で。決めちゃってくれない?」


「私も得意じゃないですけど、そう言うなら決めちゃいますよ。」


ミヤビはアゴをつまんで唸りながら考え込んだ。頑張ったところで出てくるのかと疑っていたが、彼女は案外早めに閃いたよう。


「あの、私たちってバグのせいで変わり者のはぐれ者の盗賊になっちゃったじゃないですか? 」


「まあそうだね。」


「なので、『バグ・バンデット』とかどうですか?」


なんか、それっぽい名前が出てきたな。でも……


「その名前じゃ普通のやつが全然入ってくれなくなるじゃないか!」


「もとよりこんなパーティーに入りたがる物好きなんていませんから、大丈夫ですよ。」


そうなのだけれど、自分で言っちゃうかな。


「まあとりあえずそれでいいんじゃない? 多分あとからでも変えられるしね。」


 俺たちはまた受付に戻って


「名前が決まりました。」


とお姉さんに言った。彼女は俺たち二人分の紙を取り出すと


「じゃあ名前を教えて下さい。」


と、ペンを抜いた。ミヤビが


「『バグ・バンデット』です、よろしくお願いします。」


と言うと、お姉さんはちょっと笑いそうになっていた。完全に自虐にしか聞こえない名前だからな。お姉さんは笑いそうなのを見られまいと、必要以上に顔を紙に近づけて書いていた。


 ギルド加入の書類の空欄はパーティー名一つしかなかったから、それだけを書くと手続きは終わってしまった。これで晴れてパーティー結成だ。


 何より喜ばしいのは、次に進めるということだ。ようやくゲーム内で進展をみることができる。




 「町の外に出ませんか?」とミヤビが言うので、俺たちは二人でそうした。パーティーでの戦闘がどんなものなのかが気になったというのもある。


 彼女は軽い足取りで、わずかに整えられた砂利道を進んでいく。もう外は暗くなり、足元があまりよくは見えていなかったが、それでもお構いなしだ。


「そういえば、君って今何レベルなの?」


気になって聞いてみた。


「8ですよ。」


8か、結構高いな。しかし魔法が使えないのに杖でどうやって敵をそんなに倒したのだろうか? 


「杖なんかで倒せるのかい?」


「ああ、最初はちょっと苦労したんですけどね。頑張って杖で殴り倒しました。すると、しばらくして『隠密』っていうスキルを覚えて、そこからはかなりラクでしたね。『隠密』で見えなくなってから敵に忍び寄って、そこから杖でめった打ちにしてました!」


やっぱり似た境遇だと似た行動を取るようになるのだろうか。とりあえず、バグに見舞われた俺たちにとって『隠密』のスキルは救世主に違いないのだろう。


 話していると、敵が現れた。大きなコウモリが二匹だ。夜だから出てきたのだろう。出てきた名前は「ヒュージバット」。そのままだ。


 うっかりしたことに、俺たちはさっきまで話していた『隠密』を使っていなかった。なので、敵にはもうすでに見つかっているという状況。


 「後ろに下がって!」


俺が大剣、ミヤビが杖なので俺が前に出て、彼女が後ろに下がった。


 当然コウモリは俺の方を狙ってくる。一直線に飛び込んでくると、ヒュージバットは噛み付いてきた。


 だがもちろん大剣で防ぐ。もう何回も繰り返しているので、慣れたものだ。コウモリたちは剣にキバを立てた。


 そのタイミングで、ミヤビはすでにすぐ横まで来ていた。彼女は杖を構えると、思いっきりフルスイング。片方のヒュージバットの頭を振り抜いてしまった。


「「「ドゴオオオン!!」」」


 凄まじい音がした。効果音なのだろうか、普通と違う音がした。頭を打ち抜かれて下に落ち、動かなくなってしまったコウモリの上には「Critical !!!」の文字。クリティカルヒットなんだ! 


「すごいな、君。」


「いやあ、なんでか分からないんですけどね。毎回この文字が出てきちゃうんですよ。」


「え、ほんとに?」


俺が疑うように言ったので、彼女はもう一匹に狙いを定めた。


 残った一匹も、ミヤビに噛みつこうと近づいた。


「「「ドゴオオオン!!」」」


再びフルスイングはコウモリの頭を捉えて、やはりクリティカルヒットした。


「マジかよ……。」


「言ったでしょ? 全部クリティカルになっちゃうんですって。」


……この娘、もしやかなりの逸材なのでは……?

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