五話 パーティーを組んでくれる変わり者が見つかりました!

 防具はもちろん盗賊のものしか身につけることができない。そのくせ盗賊の装備といったら、機動性重視の薄めのやつばっかりだ。大剣装備のせいでそもそも機動性が死んでる俺にとっては、ただただ防御力が低いだけなのだ。


 盗賊のリストには防具がいくつかあったが、一番防御力が高い「盗賊のローブ」を買った。


 受け取った「盗賊のローブ」は本当にただのローブのようだった。


「これ何も防げてなくないか? 防具とか名乗っちゃダメだろうよ。」


 でもまあこれで防御力が38になった。ここら辺の雑魚敵に攻撃されてもほとんど貫通しないくらいの数値だ。のちのち問題にはなってくるかもしれないが、今のところは盗賊装備でも十分にやっていけそうだ。


 防具屋を出ると、運営から通知が来ていた。


「Lotus様

最初のエリアだけは、次に行くための条件が指定されています。それは、『パーティーを組む』ことです。ですから、早めに他プレイヤーとパーティーを組むことをおすすめします。」


とのことだった。


「え、詰んだじゃないか! 」


 仲間が居なくてもある程度までは進むことはできるが、耳が痛い話だ。俺だってできることなら早く組みたいよ。でも組んでくれる人がいないから困ってるんだ。


 俺は状況にちょっと疲れて、また広場の噴水のふちに腰を下ろした。


 人は重なって見えるほどに多くいる。そのなかで、目についた影が一つ。広場を忙しなく動き回っては、いろんな人に話しかけている女の子がいた。


 なにやら頼みごとをしているよう。……だが、軒並み断られているようだった。


 それからしばらく彼女のことを目で追っていたが、誰も彼女の頼みを聞いてくれる人はいなかった。一体どんな頼みをしているかな。


 それにしても、声をかけてもかけても断られる姿は、自分と重なるところがあって、どうしようもなく切なくなってしまう。


 ゲームでこんなにも孤独を味わおうとは。沈みかけの夕日に傷心を浮かべていると、女の子がこちらにとぼとぼと歩いてきた。かなり疲れているし、落ち込んでいるようだった。


 彼女は僕の近くに、同じように噴水に座った。そこで俺は初めて彼女の姿を近くで見た。


 奇遇にも彼女は盗賊だった。装備は初期装備よりも少し良い程度のものだった。でもあれ、違和感が……。


 違和感の正体はすぐに判明した。というか、多分みんな気づくし、さっき頼みごとを断られ続けていたのは多分このせいだ。


 彼女、なぜか杖を背負っているのだ。盗賊なのに、多分魔法なんて使えないのに。いやはや、本当に奇遇なものだ。多分俺と全く同じ境遇なのだろう。


 女の子は大きくため息をついた。


「どうしたの? 」


分かってるくせに、白々しく事情を尋ねてみた。


「ああ、すいません。あのですね……」


あんなに大きなため息をついたくせに、無意識でのことだったらしく、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「恥ずかしながら! 私とパーティを組んでくれる人が見つからないのです! 」


でしょうね。逆に違ってたら違ってたで興味あるけど。


 つまりはこの女の子、俺と同じ悩みというか問題に直面しているのである。多分、盗賊なのに杖しか装備できないんだろう。俺と同じバグで。とすれば逆にこれはチャンスではなかろうか。


「実を言うとね、俺もおんなじような状況なんだ。」


女の子は目を丸くしている。


「これ、見えるだろう? 大剣だよ。バグのせいで、盗賊なのに大剣しか装備できないんだ。これじゃあ誰も俺とはパーティーを組んではくれないんだよ。」


「たしかに変ですね。大剣なんて。」


「そうだけど君には言われたくないよ! 」


 ただ彼女があまりに素直に言うものだから、咎める気にもさらさらならなかった。


「私もバグのせいで杖しか装備できなくて。しかも戦闘に使っちゃったからという理由でそのバグが修正できなくなっちゃったらしくて。途方に暮れてるんです。もしかしたら、あなたと同じバグなんですかね。」


事の経緯まで俺と全く同じだ。というか、もしかしたら同じ状況の人は他にも結構いるんじゃなかろうか。


「あのさ、もしよかったらだけど。」


「なんでしょう? 」


「独りぼっち同士、どうせこのままじゃ次のエリアに進めないからさ。俺たちパーティーを組まないか? 」



 女の子はキョトンとしていた。


「あの、それは私とパーティーを組むってことですか? 」


「だからそう言ってるだろう。」


「ええ! 本当? 本当にですか? 」


彼女は驚くあまりに意味もなく立っては座ってを繰り返した。


 俺の方こそ同じ境遇のプレイヤーが見つかったことは驚きだ。そして何より、彼女が俺と組んでくれるだろう唯一のプレイヤーだろう。


 女の子はしばらく両手で両頬を押さえてショート気味だったが、落ち着いたよう。


「本当に私で、杖しか使えない盗賊なんかでいいのなら、どうぞよろしくお願いします! 」


「おお! よかった! 一生ここから進めないと思っていたよ! 」


本当によかった。ありがたい。変わり者、はぐれ者同士だから繋がったパーティー。それはそれで縁がありそうなものだ。


 そういえば自己紹介がまだだったな。


「俺のプレイヤー名はLotusロータス、よろしくね。君のプレイヤー名は? 」


「わたし、Miyabiミヤビっていいます! 」


勢いでパーティーを組んでしまったが、いい子そうで助かった。ホッとして力が抜けた俺はもう一度落ちるように座った。

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