第87話 募集
探協長───ガイウス・ルイズベルトとの面会から翌日。
僕達は今日も探索者協会に訪れていた。
時刻は午前10時をちょうど回った頃。中にいる探索者の数はぼちぼちだが、探協の職員たちは何やら忙しなくしていた。
今日の探索は休みだ……と言うよりは暫くは休むつもりでいた。理由としては3つ。
1つ目は、地上に戻ってきてからまだ数日、体は快調と言っても、精神的な落ち着きが必要だ、とルミネに言われたから。
2つ目は装備の点検だ。予想していなかった長期探索によって、新調したばかりの装備はかなりボロボロになってしまった。その装備たちのメンテナンスを今、ヴィオラさんに頼んでいる。
そして3つ目。この3つ目の理由が、今回、探索を暫く休むことにした一番の理由だ。
そもそも、なんで探索にも行かないのに探索者協会に来ているのか?
その理由は────
「パーティメンバーを募集しよう」
「ですね」
───仲間集めだ。
のんびりとした空気が流れる探協に併設してあるカフェテリアへと入る。窓際の席へと案内されて、僕とルミネは適当な飲み物を飲みながら作戦会議をしていた。
以前から考えていて、前回の探索を経験して痛感した。
僕達2人だけではこの先の大迷宮の探索を続けるには物理的に厳しい。
ルミネと改めて強くなるを決めた。
それは個々の力はもちろんの事だが、パーティー全体の戦力も増強することを意味する。
今までは〈紅蓮の剣戟〉を追放されたトラウマやスキル【取捨選択】の件で、誰かと……ルミネとすらパーティーを組むことに抵抗があったが、もうそんなことも言っていられない。
過去のトラウマに囚われて、隠し通すことの出来ないことにいつまでも気を取られるのは時間の無駄だ。
それに、トラウマに関してはもう完全に清算したつもりだ。恐れもなければ未練なんてものは無い。
ならば、この先を安全に確実に進む為に新しい仲間が必要だった。
「と、言ってもいきなり何人も仲間を増やすのは抵抗がある。とりあえず今回は一人だけ募集しよう」
「異論はありません!」
ルミネに確かめるように言う。
白紙の紙に仲間を募集するにあたっての確認事項や条件などを書き記していく。
ペンは紙に走らせたまま僕は言葉を続けた。
「それじゃあ具体的にどんな人材を募集するかだけど……今の僕達のパーティーに必要なのは
「そうなんですか?」
「うん。最低でもあと一人、前衛で戦える人材、その中でもモンスターの
僕達は2人パーティーで、戦闘になれば一定の距離ができて互いに孤立してしまう。上層での戦闘ならモンスターはそこまで強くないし、個々で孤立してしまってもフォローが間に合う。けれどこれから本格的に探索をしていく中層や下層、はたまた深層はそんなに甘くない。
これまでだって危ない場面はいくつもあった。毎度の戦闘で危ない綱渡りをするのは、精神的疲労が凄いし、効率も悪い。
ここに中間で溜めを作れる
───いや、確実に変わる。
ヴィオラさんと3人で探索をした時、彼女は
あれが本職の盾役だったら更にやりやすくなるだろう。
「だから募集するなら
「なるほど……」
僕の説明を聞いてルミネは納得したように頷く。
「できればレベル3か4で、それなりに経験が豊富な人がいいんだけど……」
スラスラと希望する条件を書いていくにつれて、今まで軽快に走っていたペン先の動きが鈍くなる。
そこで一度、紙に書いた内容を見て僕は思い直す。
───自分で書いといてなんだけど、こんな好条件の探索者なんていないよなぁ……。
高望みにも程がある。
・レベル3か4。
・
・こんな弱小パーティーに入ってくれる優しい人。
大きく分けて、この3つの要素に当て嵌る探索者なんて、普通に考えているはずがない。
多分、この条件でメンバー募集をしても、待ち人なんていつまで経っても現れることは無いだろう。
この条件に当てはまる人なんて、普通はもう既にどこかのパーティーに所属しているだろう。
「無理だよなぁ……」
項垂れるようにテーブルに突っ伏す。
───タダでさえ無名の弱小パーティー。それも正式なパーティーですらない二人組の仮パーティー。完全に望み薄だ。
基本的に探索者協会から正式に活動を認められるパーティーの最低人数は3人から。それ以下は
そもそも、正式パーティーと仮パーティーの主な違いはなにか?
と問われれば、探協から受けられる恩恵が全く違う。
例えば正式パーティーであればそのパーティーランクに応じて素材の換金率が全く違う。ランクが高ければ高いほど色を付けてくれるのだ。これが結構バカにできない。
それと、様々な探協管理の施設が無料や安い額で使える。宿屋や酒場、ここのカフェテリアなんかもそうだ。
Aランクパーティーにでもなれた日には、この迷宮都市で暮らすには金なんて必要ないと言われるほどだ。
あと、正式パーティーはパーティーネームを付けることが出来る。
〈紅蓮の剣戟〉とか〈聖なる覇者〉とかそう言った感じの名前を自由に付けることが出来るのだ。
これらの恩恵を
だから基本的に探索者は3人以上で徒党を組んで活動するのが常だ。
ぼっちには厳しいような制度にも思えるが、常に危険が付きまとう大迷宮で生存率を上げるのに最も早い方法が多くの仲間を作ることだ。少しでも死人を減らすための制度でもあるのだ。
「大丈夫ですか、テイクくん?」
「あ、うん。だいじょうぶ、だいじょうぶ」
テーブルに突っ伏して低い唸り声を上げる僕をルミネは不思議そうに見つめる。
うだうだと考え込んでしまったが結局のところ、今上げた条件に当て嵌る人材が必要不可欠なことには変わりなかった。
「とりあえず、ダメ元で募集してみようか」
「大丈夫ですよ!きっといい人が見つかります!」
「うん、そうだね。ポジティブは大事だよね」
机に突っ伏すのを止めて体を起こす。すっかりぬるくなった飲み物を飲み干して僕は席から立ち上がった。
改めて書き起こした募集要項を一瞥して、重い足取りで僕達はカフェテリアを後にする。向かう先は受付カウンターだ。
―――――――――――
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