ゴミスキル【捨てる】が【取捨選択】に覚醒したので、最高難度の大迷宮を完全攻略する ~無能だとパーティーを追放された少年が最強に至るまで~
EAT
プロローグ
小さい頃は泣き虫だった。
よく、近所にいたいじめっ子達の標的にされて嫌がらせを受けていたのを覚えている。
反撃をする度胸なんてなくて、いつもやられっぱなしでただ泣くことしか出来なかった。一人では何もできないし決断もできない、うじうじとした子供だった。
それが幼いながらに彼らは気に食わなかったのだろう。
僕を見つけるといつも難癖をつけて、暴力を振るったり、罵詈雑言を浴びせられた。
そんな僕をいつも助けてくれた女の子がいた。
「何やってるのよアンタ達!!」
「うげっ!暴力女だ!」
「逃げろ逃げろ!」
「女に守られるなんて情けないやつ!!」
その女の子とは生まれた時から一緒にいて、所謂幼なじみというやつだった。
どこでいじめられていようとも颯爽と駆けつけて、いじめっ子たちを追い払ってくれる。その姿は物語のヒーローのようでとてもカッコよかった。
「もう大丈夫よ、テイク」
「うぐっ……ごめんね、アリシアちゃん……」
「テイクが謝る必要なんてないわよ!悪いのは全部あいつらなんだから!」
「でも……」
「もう!私が良いって言ったらいいの!それよりほら!今日もアソコに行くでしょ?」
「っ……うん!!」
泣きじゃくる僕を慰めて、泣き止んだ後には決まってと僕と彼女はとある場所へと向かった。
そこは子ども二人で行くには少しためらうような見栄えの悪い、小汚い酒場だ。
昼間から酒を煽るどうしようもない大人たちの溜まり場。そこは傍から見ればゴミの掃き溜めのように見られたが、僕たちにとっては未知の話が聞ける、とても探究心を擽られる場所だった。
「おう!今日も来たのか2人とも!」
「「こんにちはマスター!」」
元気な声で挨拶をすれば酒場の店主が強面な顔を破顔させて歓迎してくれる。他の顔なじみの客も嬉しそうな声で話かけてきてくれる。
僕たちはそこの酒場の常連だった。
「ねえ!今日も探検してきたお話聞かせてよ!」
「おういいぜ!俺様たちの超絶カッコイイ武勇伝を聞かせてやる!」
「やったぁ!!」
酒場に来てすることと言えば、大人達が座っているテーブルに適当に押しかけて、普通の人からでは聞くことの出来ない冒険の話を日が暮れるまで聞くこと。
目をキラキラと輝かせて冒険の話を聞かせて欲しいとせがむ僕たちに、その酒場にいた多くの大人たちは嬉々としてたくさんの話を聞かせてくれた。
やれ、推定10mを超える巨大なオーガのモンスターを倒したとか。やれ、七色に輝く宝石を見つけたとか。やれ、水晶のように透き通った体の魚を捕まえたとか。
彼らから聞く話の全てはどれもが刺激的で、いつも興奮して聞き入っていた。
そして、話を聞き終わって思うことは決まっていつも、
「絶対に2人で探索者になりましょうね、テイク!私たちで大迷宮の謎を全て解き明かすの!」
「うん!!」
そんな子供らしいこと。
「全ての謎を解き明かす……か、大きく出たな2人とも!」
「当然よ!やるからには全力だわ!それに私とテイクの2人なら余裕なんだから!」
「ガハハっ!なんとも頼もしいな!」
純粋な子供の夢物語を聞いて大人たちは楽しそうに笑う。
その大人たちの笑い声が妙に気に入らず、女の子は大きな声で言った。
「なによ!私たちは本気よ!」
「ああ、わかってるよ。お前ら2人の名前がこの迷宮都市に轟く日を楽しみにしてるよ」
決まって最後は大口を叩く僕たちを大人たちは楽しそうに揶揄って、怒ったところを宥める。
「また来いよ〜!」
それで完全に気を悪くした女の子が酒場を飛び出してしまうのだ。
「いつか見てなさい!絶対にやってやるんだから!」
息を荒らげながら帰り道を歩く女の子の後ろをいつも僕は追いかけていた。
その後ろ姿がとても頼もしくて、かっこよくて、憧れだった。
いつか僕も彼女のような強い人間に、彼女の隣に胸を張って立てる男に────
「絶対に2人でやってやりましょうねテイク!!」
振り返って太陽のように笑う女の子はとても眩しくて、僕はずっと彼女と一緒に夢を追いかけられるものだと思っていた。
けれどそんなのは僕の勘違いで、世の中っていうのはそんなに都合よくできていなかった。
「テイク!私、今日〈天啓〉を聞いてスキルが発現したわ!しかも攻撃特化のスキルでね【白銀の刃】って言うの!スゴいでしょ!!」
8歳の時、女の子はその才能を発現させた。
この世界には″スキル″と呼ばれる特殊な力がある。スキルの大まかな発現期間は5歳〜10歳の間でその人間の体験、思考に応じて発現するスキルが決まる。人によって発現する数はバラバラで複数個発現する者もいればい一つしか発言しない者もいる。
女の子の発現したスキルは一つだけであったが、そんなスキルの中でも希少と呼ばれる攻撃特化のスキルを授かった。
そこから女の子と僕の間には決定的な差ができた。
女の子は発現したスキルと、持ち前の運動能力を活かして齢10歳で有名な探索者パーティーにスカウトされて、夢であった探索者になった。
僕はと言えばそれまで自分の身に何かが起こるというわけでもなく。ただ彼女が自分とは別世界の遠い存在の人間になっていくのを見ていることしか出来なかった。
所詮はこんなものかと絶望したのをよく覚えてる。
結局のところ、僕には最初から彼女の隣に並び立つ資格なんてのはなくて、彼女が遠くの世界に旅立って行くのを呆然と眺めることしか出来ないモブなのだと。
「……ふざけるな。だからなんだって言うんだ」
それでも僕は諦めることができなかった。
どんなに哀れでも、惨めでも、情けなくても、僕は彼女と交わした夢を諦めることなんてできなかった。
どんな手を使ってでも、この身を投げ捨てでも僕は彼女の隣に並び立ち、小さい頃に交わした約束を果たしたいと思った。
そんな諦めの悪い思いが通じたのか、奇跡は起きた。
それはスキルの発現だ。
唐突にその無機質な声は聞こえてきた。
『特定の条件を満たしました。スキル【捨てる】の獲得に成功しました』
その声は世界の声、或いは神様の啓司。
人々はその自分にだけ聴こえる無機質な声を〈天啓〉と呼んだ。
そして諦めの悪い僕はスキルの発現と同時に彼女の後を追いかけて探索者になった。
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