第312話 駄々っ子祭りが始まりました

 さて。

 森の子ネコーが蒼い空間でプカプカしていた頃。

 魔法制御室へ取り残された面々は、というと――――。

 あまり深刻ではない感じに阿鼻叫喚だった。


「にゃ、にゃんごろーだけ、ずるいぞー! なんで、長老はお留守番なんじゃー!」


 長老は、にゃんごろーを心配するのではなく、子ネコーのシュルシュルシュポンを抜け駆けと決めつけ、責め立てていた。尻尾をもさもさ振り回し、空玉(大)を肉球でパンパンと叩いて涙目で喚いている。まるで、駄々っ子のようだ。

 それに触発されたのか、びっくりのあまり、お目目をハチハチお口ポカンだった三毛子ネコーたちも、ハッと我に返って駄々っ子祭りに参戦してきた。


「そ、そうよ、そうよ! にゃんごろーばっかりズルイー! わたしもお呼ばれしたーい! ズルイ、ズルイ、ズルーイ!」

「は、はははははい。わ、わわ、わたしも、精霊さんに、お呼ばれ、したいです」


 子ネコーたちも、「わあわあ、にゃあにゃあ」騒ぎながら、台座に駆け寄り、キララは長老の真似をして台座をパンパン叩き、大人しいたちのキラリはよそ様での蛮行に気が引けるのか台座をナデナデしている。空玉(大)ではなく台座の方なのは、辛うじての遠慮や配慮ではなく、単に身長の問題だった。空玉(大)には微妙に手が届かないのだ。

 遅れて我に返ったクロウとミフネは、まずはマグじーじの様子を窺った。

 マグじーじは、三毛柄子ネコーたちの様子に頬を緩めつつ長老に呆れた眼差しを送るという器用なことをしていて、事態そのものについては静観の構えだ。

 それを確認した二人は緊張を解き、顔を見合わせて苦笑い合った。

 つまりマグじーじの様子から、玉に吸い込まれた子ネコーの身に危険はなく、キラリが言ったように青猫号の精霊にお呼ばれをされただけなのだろう、と推測できたからだ。

 長老が玉そのものをパンパンしているのも気になったが、マグじーじが何も言わないということは玉には影響がないのだろうし、仲良しの友達がじゃれ合っているようなものなのだろうと納得することにした。


 長老は、もさもさパンパンを続けていたが、玉からは何の反応も返ってこないので、子ネコーふたりは早々に祭に飽きてしまった。

 ふたりは、台座の横でもふっと腕を組み、向かい合わせで話し始める。まずはキララが、キラリに質問をしつつもキラリに答えを言わせる隙を与えることなく、ダーッと喋りまくる。


「ねえねえ、キラリ。どうして、にゃんごろーだけが招待されたんだと思う? 長老さんも一緒にだったら、まだ分かるのよ! 長老さんは、精霊さんと一番の仲良しって言っていたし、メインは長老さんで、にゃんごろーは長老さんのところの子ネコーだから、一緒に招待ってことなのかなって思うんだけど。招待されたのは、にゃんごろーだけでしょ? あ、でも、そうだ! 招待したってことは、精霊さんは目を覚ましたってことよね? んー、でもずっと眠っていて、ようやく目を覚ましたばっかりだから、まだ寝ぼけている? だから、小さくて軽そうなにゃんごろーだけをご招待した? いえ、待って! 長老さんと一番の仲良しなのよね? ということは、わざとにゃんごろーだけを招待して、悔しがって地団太を踏んでいる長老さんを玉の中から見て大笑いをしている可能性もあるかも!? それじゃない!?」

「うぅん。ど、どうかなぁ…………」


 質問しておきながら、一人で勝手に結論に到達したキララは、自分の考えに大興奮だ。お目目をキラキラ、毛並みをざわっと逆立てて、ズズイとキラリに滲みよる。キラリは苦笑いで、それをいなした。キラリの引っ込み思案も姉ネコーであるキララには発動しないようだ。こんなやり取りはいつものことなのか、キラリは慣れた様子でキララをさばき、自分なりの考えを話そうとお口を開く。考えはまだまとまっていないようで、途切れ途切れになりながらも、キラリは言葉を紡いでいった。

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