第244話 お弁当の楽しみ方

 お豆腐暴徒が沈静化したところで、指揮官役のバトンタッチが行われた。

 キララが、もふシャキッと片手を上げて、自ら名乗り上げたのだ。


「はい! お弁当のセッティングは、わたしたちキラキラ組でやります!」

「おー、そうか、そうか。それじゃあ、キララちゃんたちにお願いしようかの」

「やったぁ! ありがとうございます! マグさん!」

「いやいや、なんのなんの。こちらこそ、準備をお願いして、ありがとうなのじゃ」


 特に予定にない突発的な交代劇だったが、子ネコー愛好家のマグじーじに否などあるわけがない。次の俵ミサイルをスタンバイしつつ、マグじーじはデレリと相好を崩して、子ネコーのおねだりを受け入れた。

 こうして、お弁当準備の仕切り役は、円満かつ円滑にキララに譲られた。


「じゃあ、にゃんごろーは、机の端に立って! あ、机の方に背中を向けてね!」

「ほ、ほえ? ろーゆうこちょ?」

「お昼の準備は、わたしたちキラキラ組でするから、にゃんごろーたちは後ろを向いて待っていてってこと!」

「ほえほえ? にゃんごろーも、おてちゅらい、しゅるよ?」

「んっふっふー♪」


 早速仕切り始めたキララに、にゃんごろーがお手伝いを申し出ると、キララはワクワクを湛えたお目目で含み笑った。片手を、口元に当てたポーズで。


「お弁当はね! ひとり一つのお弁当なら、『パカッとしてわぁっ!』ってなるのが楽しくて嬉しいんだけど! 今回は、みんなで食べるように、大きい入れ物に詰めて、取り皿で分ける方式なの! だから、にゃんごろーには『クルッてしてわぁっ!』ってして欲しいの!」

「ほ、ほほぅ? クルッちぇしちぇ、わぁ?」

「そうそう! だからね、にゃんごろーたちは、通路の方を向いていて! わたしが、『いいよ!』って合図をするまで、クルッて、こっちを見たらダメだからね!」

「ほ、ほほぅ?」


 キララは、まだお目目をパチクリしているにゃんごろーの片腕を掴んで、もふっとしている背中にお手々を当てると、「さあさあ!」とばかりにクルッとひっくり返した。

 にゃんごろーは未練がましく背後のおにぎりを振り返ったが、キララはにゃんごろーのお顔にお手々を当てて、強引にグイッと前向きに戻す。


「はいはいはい! おにぎりもお弁当も、ちゃんと『いただきます!』をしてからよ!」

「はっ! しょれは、しょう…………うう、ジュルッ」

「いい子に待ってたら、とびっきりの『わあっ!』をプレゼントしてあげるから! あっち向いて、待っていて! ね?」

「プレレンチョ…………クルッちょしちぇ、わぁっ…………はっ! しょ、しょーゆーこちょか! こっちをむいちぇまっちぇちゃら、キララら、おべんちょーのよーいをしちぇくりぇりゅ! しょれれ、『いーよ!』っちぇ、いわれちぇ、クルッちぇしちゃら、おいしいしぇかいら、まっちぇいちぇ、『わあっ!』っちぇなりゅ! しょーゆーこちょなんらね?」

「そーよ! ぜったいに、『わあっ!』ってさせてあげるから、楽しみに待っていて!」

「う、うん! わかっちゃ! しょーゆーこちょにゃら、にゃんごろー、ちゃんちょ、おぎょーぎよきゅ、まっちぇる! うふふ! ちゃのしみ!」

「うふふふふ! わたしも、にゃんごろーに『わぁっ!』ってしてもらうの、楽しみ♪ 


 にゃんごろーをもてなそうとするキララの意図を、ようやく察したにゃんごろーは、言われた通り、“その時”を楽しみに待つことにした。ドキドキと胸を高鳴らせながら、和室のドアを見つめる。和室のドアには、キラキラとした美味しい未来が映っていた。

 キララは満足そうに笑うと、お次は、対長老用のフォーメーションを完成させるべく、青猫メンバーに指令を出した。

 キララの指導の元、青猫メンバーは言われた通りの配置につく。

 カザンは長老を取り押さえたまま、にゃんごろーの隣に座り、クロウはその正面に陣取った。マグじーじは、にゃんごろーとの間に長老を挟み込む位置で、俵ミサイルをスタンバイしている。にゃんごろーとカザン&長老が机の前に、机を背にして並び、マグじーじは机からはみ出た場所で、長老を見張るように座っている。

 俵ミサイルの効果が切れたら、いつでも次弾が発射できるように備えは万端だ。


「よぉーし! 準備前の準備完了! それじゃあ、にゃんごろーまで長老さんみたいな“しかばね”とか“お豆腐なならず者”になっちゃう前に、ちゃちゃっとお弁当を並べちゃうわよ! キラキラ軍団、とつげきー!」

「は、はーい…………」

「はーい♪」


 キララは、張り切ってキラキラ組に号令をかけた。

 控えめなお返事と、ノリノリなお返事が、それに答える。


 その後は、バッグを漁る物音と、楽しそうに相談し合う声と、パカッという音が聞こえてきたと思ったら、ホカホカしたものとは違う、落ち着いているけれど華やかな、美味しい匂いが漂ってくる。

 お豆腐子ネコーが、もふビクッと体を揺らしながら、グキュルルグオオとお腹を鳴らした。

 その隣では、真っ白いもふぁもふぁに“ならず者スイッチ”が入りかけたが、発動する前に俵ミサイルが間に合った。

 その後は、お豆腐先生と助手のやり取りを経て、助手の端っこマスターが発動し、畳の上で書きかけのノートがご披露される運びとなったのである。

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