第184話 本日のおまけ(キラキラ編)
キララとの出会い編から始まったにゃんごろーのお話は、魔法の通路見学編を経て早朝の小さな大冒険編へと遡り、またキララ編へと舞い戻った。
ミルゥの膝の上で、にゃんごろーは小さなお手々をもふもふと動かし、お話に該当する“本日の名画”を見てもらいながら、弾む声でお話を続けていた。
「しょれれね、しょれれね! キラリャはね、おしゃれりのまほーら、ちょっちぇも、おりょーるにゃ、こねこーらったんらよ!」
「そうなんだー」
子ネコーのお話に相槌を打つ、ミルゥの声も弾んでいた。にゃんごろーの頭と、もふもふ元気に動き回るお手々を見下ろしながら、柔らかい子ネコーの腹毛を堪能している。大層、ご満悦だ。
外野たちはと言えば。その一部は、にゃんごろーを独り占めしているミルゥにジェラッとしたものを感じつつも、楽しくも一生懸命に本日の出来事を報告してくれる子ネコーのお話に聞き入っていた。ご機嫌な子ネコーを眺め、お話に耳を傾ける長老も、ご機嫌だった。腹毛を撫で回しながら、「にょほほ」と笑っている。カフェでの醜態はサラッと忘れて(覚えていないだけかもしれないが)、見学会が大成功したことに満足しているようだ。
クロウだけは不貞腐れた顔で、テーブルにだらしなくうつ伏せていた。お話の途中で興奮しすぎたにゃんごろーの言葉の乱れが激しくなり、何を言っているか分からなくなったため、通訳を試みようとしたのだが、「余計な雑音を入れるな」とミルゥに睨まれてしまったのだ。にゃんごろーの助手を気取るつもりなんて毛頭ないし、にゃんごろー語の通訳で活躍して喝采を浴びたいわけでもなかったが、「雑音」呼ばわりは面白くない。そうかと言って、苦情を申し立てようものなら倍返しどころでは済まなくなることも分かっているので、こうして無言で不貞腐れているのだ。
クロウを黙らせたミルゥは、外野たちの存在など意識の場外へ追いやって、にゃんごろーの全てを楽しんでいた。今にも涎を垂らさんばかりの緩み切った顔で。
「うふふ! にゃんごろーも、キラリャをみにゃらっちぇ、もっちょ、おしゃれりのまほー、れんしゅーしにゃいちょ!」
「え?」
話の流れで、にゃんごろーが元気に張り切って宣言をした。
にゃんごろータイムに浸り切り、蕩け切っていたミルゥは、聞いた途端に顔を引きつらせた。話が思わぬ――――かつ望まぬ方向へ転がっていってしまったからだ。
ミルゥの動揺には気がつかずに、にゃんごろーはキラキラと未来を語り続けた。
「しょれれー、ちゅぎにキラリャにあうちょきまれに、もっちょりょーりゅになっちぇ、キラリャをおろろかしゅんらー! うふふー! キラリャ、りっくりしゅるかにゃ? ちゃのしみ! らんらっちぇ、れんしゅーしにゃいちょ!」
「う、うううううん。そ、そうだね? きっと、キララちゃん、びっくりして、褒めて、くれるよ、ね? う、うん? がんばって? 応援する、から?」
「うん! ありあちょー! ミルゥしゃん! にゃんごろー、らんらる!」
にゃんごろーは素敵な未来予想を語るだけで嬉しいらしく、キラキラを爆発させていた。爆発した後のキラキラの破片が舞い散って、眩しいくらいだ。
あまりの眩しさに目を細めつつ、ぎこちないエールを送ったミルゥは、内心激しく身悶えていた。
『その、ちょっとつたないところが、可愛いのにぃ!』
――――というのが、ミルゥの本心だったからだ。
ミルゥとしては、にゃんごろーには、拙い話し方のままでいて欲しいのだ。なぜなら、それが可愛いからだ。そこが可愛いからだ。たまに拙すぎて意味不明であっても、それすらも可愛い。むしろそこが可愛い、と思っている。
だから、もしも。この宣言が、誰かにそそのかされてのものだったならば。誰かに何かを言われたせいで、おしゃべり魔法の上達を誓っているのならば、その犯人を物理的に沈黙させてから、今のままでいて欲しいとにゃんごろーを説得するところだった。
だが、今回はそう言うわけにもいかない。
おしゃべり魔法を練習する理由が、おしゃべり上手な女の子ネコーに触発されて、その子をびっくりさせたいからと聞いては、水を差すわけにはいかないのだ。
だって、そんな可愛い理由、もう応援するしかないではないか。
にゃんごろーには、拙いままでいて欲しい。
でも、キララのために頑張るにゃんごろーを応援したい。
二律背反。複雑な子ネコー愛心に翻弄され、ミルゥだけでなく、カザンを除く子ネコー親衛隊も身悶えていた。
カザンは素直に子ネコーを応援しているようだが、他の親衛隊たちは、この時だけはミルゥと心が一つになったようだ。
ちなみにクロウは、通訳の必要がなくなるかもしれないことを、ちょっぴり残念に思っていた。
そして、長老は――――。
「にょっほっほっ。まあ、あれじゃ。落ち着いて、発声魔法に集中すれば、今よりはよくなるじゃろう。森にいた頃は、もう少し上手に喋っておったしのー」
「みょ! ら、らって、しょれは! おふねら、ちゃのしくちぇ、おしゃれりをしちぇいるらあいじゃ、にゃかっちゃんらもん!」
「おしゃべりは、しておったじゃろう?」
「みゅぐぅ! しょーらけろ! しょーらなくちぇ!」
にゃんごろーの保護者であるところの長老は、おしゃべり魔法上達に全面賛成、全力応援だった。もちろん、長老らしく子ネコーを揶揄って遊ぶことも忘れていないが。
賛成したいけれど反対もしたい面々は、黙って大人しくネコーたちのやり取りを聞いていた。保護者である長老が子ネコーの成長を願うのは当然のことだから…………という良識的な何かが働いた――――というのも、少しはあるかもしれないが、それよりも。長老に翻弄されてプンとむくれる子ネコーの愛らしさに絶賛ノックアウト中だったからだ。
「みょっほっほっ。分かっておるわい。お船生活が楽しすぎて、あっちゃこっちゃに気を散らしているから、発声魔法にちゃんと集中できていないんじゃろ。まあ、長老くらいになれば、頑張って集中しなくても、発声魔法くらいは“ちょちょいのちょい”じゃがのー。にゃんごろーは、“まだまだ”じゃのー」
「みゅぐっ!」
「みょほっ。じゃが、“まだまだにゃんごろー”でも、もう少し練習すれば、キララといる間くらいは、上手に喋れるようになるじゃろう。頑張るとよい」
「……………………! う、うん! にゃんごろー、にゃんにゃる!」
絶賛継続中だったネコーたちの掛け合いは、十分に楽しんだ長老のお言葉により終焉を迎えた。長老の肉球の上で転がされまくりのにゃんごろーは、長老がちょっとおだてて励ますと、それまでのアレそれを忘れてすぐにその気になって張りきった。
張り切り過ぎて、上達を誓ったはずのおしゃべり魔法が可愛く崩れて、「頑張る」が「にゃんにゃる」になっている。
ミルゥと子ネコー親衛隊は、そのあまりの愛らしさに胸を打ち抜かれ、息を詰まらせた。
おしゃべり魔法の練習を「にゃんにゃる」ことを誓ったにゃんごろーは、テーブルに散らばる数々の名作の中から、本日一番の傑作を拾い上げて、頭上に掲げた。
「にゃふっ」
掲げたそれを見上げて、にゃんごろーは笑みを零した。
見上げるお目目は、キラキラだ。
そして、掲げられた画用紙の中では。
キラキラアクセサリーを体いっぱいに纏った三毛子ネコーもまた、キラキラに輝く笑顔で、にゃんごろーを見つめ返していた。
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