もろもろ短編集
@chon266
鯉
鯉が〝のろのろ〟と泳いでいた。それはたいへん太った鯉で、かわいそうなほど絶望的であった。ならば、『食べない』そうすれば、端的に改善は図れるのだが、もともと太る体質である鯉にとって、それは無理難題なものであった。結果、さんざん他の魚類共にいじめられて、ひとり孤独に泳ぐ鯉。鯉の心は、オホーツク海のように凍え、
そんなある日のこと、例のごとく鯉は、
「まずい・・・」
鯉は不安気に声をあげると、次の瞬間、
それから二日三日と日は過ぎてゆき、鯉のからだもそれに比例し、衰弱していった。でもこういった状況は、鯉にとってまんざら
「海」
ある日、鯉はどん底の中でそんなことを思い浮かべた。常日頃、海というものを見てみたかったせいもある。が、こんな誰も来ない薄暗い場所に何日も縛られていれば、誰でも頭の奥底に眠っているもっとも贅沢な夢か欲望を思い巡らせるものであろう。鯉は〝海〟を思い巡らせた。夢に挫折しかけた若者が救いの光を見つけたように、鯉は〝海〟を見つけたのである。
「必ず海で泳いでやる」
鯉は一からやり直したかった。海の魚類連中は鯉をまるっきり知らない。いわゆる鯉はストレンジャーなのである。もしこのまま肥満から痩せっぽちに変貌したとしても、おそらく、いじめられることに変わりはない。なら、どうにかここを脱出して、あの広大な海に行こう。鯉の胸は処女のように高鳴った。
そうは言っても、もう丸二週間である。もともと体力のない鯉にとって、それは限界も限界、
その後、何日過ぎたであろうか、とにかく鯉は死んだ。皮肉にも、
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