第118話 懐かしのあいつ

 俺達は結局依頼を受けずにあいつに会いに行った。


「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

 ロンが歌った瞬間に声が返ってきた。


「にいちゃあそこにいるぞ!」


「ゴラ・ゴラ・マンドラ・マンマン」

 声が聞こえた瞬間に俺達から走って行った。


 すると目的の場所に近づいたタイミングで向こうからなぜか寄ってきたのだ。


「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ゴラ!」

 今回は何か言うこともなくずっと歌っている。


「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

 ロンとニアは楽しそうに歌いながら思っている。以前来た時より強くなったが変わらない2人に俺は嬉しかった。


「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ゴラ!」


「オラ達も会いたかったよー!」

 ロンとニアはマンドラゴラを掴み俺の方を見てきた。


「にいちゃ!」

「お兄ちゃん!」


「2人ともどうしたの?」

 俺は2人の輝く瞳に吸い込まれるような近寄った。


「早く倒して!」

 重なり合う声に俺は戸惑った。聞き間違いだろう。


 あんなに楽しそうにしていて2人からそんな言葉が出てくるはずがないと思った。


「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」


「ゴラ・ゴラ・マンドラ・マンマン」

 ほら、マンドラゴラも楽しそうにしている。


「はーやーくー!」

 やはり2人はマンドラゴラを倒すことを望んでいた。


「なんか……成長したな」

 俺は匠の短剣を取り出してマンドラゴラに突き刺した。


「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ゴラ!」

 少し寂しい気持ちになりながら、魔石を取り出すとそこには鮮やかに光り輝く黄緑色の魔石が手の中にあった。


「すごい綺麗だね」


「スキルの影響で魔石もより高価な物になったんだね」

 2人はマンドラゴラから出る魔石に興味津々だ。兄はちょっぴり落ち込んでいるぞ。


「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

 その後も2人が歌うと沢山のマンドラゴラが出てきた。


 そんな中マンドラゴラドラドラゴンという変わった名前の魔物が出てきた。


「ゴラ・ゴラ・ワレハドラゴン」


「にいちゃ! あいつドラゴンだって」

 見た目はマンドラゴラに似ているが、形はドラゴンで大きさはめちゃくちゃ小さい。


 俺達は武器を構えると突然甲高い声で攻撃してきた。


「あー耳が痛い!」

 ロンとニアは聴覚が優れているため、俺より数倍も苦痛に感じるのだろう。


「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ゴラ!」

 歌の内容は確実に怒っている。やはり向こうは会いたかったのに襲ってきたから怒っているのだろう。


「やめてー」

 ニアはその場で崩れ落ちた。


「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ゴラ!」


「ナンデキテクレナカッタゴラ! ワタシハアイタカッタゾ! ナゼミステタンダ! スキナノニ! カナシイゴラゴラ!」

 どこかマンドラゴラドラドラゴンが不憫に思えてきた。愛する人を待っている人に見えてきたのだ。


「ナザダ! ナザダ! ダカラワタシハオマエラ……」

 突然歌が止まった。その間に俺は近づいた。


「辛い思いさせてごめ――」


「コロシテヤルウゥゥゥ! ホカニオンナガデキタノネ!」

 でも奴は違った。どこか嫉妬に狂う女のように泣き叫んだ。


「おい、ロンどうにかしてくれよ」


「無理だよー。 オラマンドラゴラが怖くなった」


「あいつは女の人と同じだ! 女性は――」


「怒らせたらダメ!」

 俺とロンでいつも言っている言葉だ。怒らせたから今の現状が起きているのなんだろう。


「マン・マン・マンドラ・オラガワルカッタ」


「ワタシハユルサナイ」


「ゴメン! ゴメン!」

 ロンは必死に謝ると次第に彼女は落ち着いた。


「ナンデミステタノ! イッショニイキタカッタノニ」

 彼女は単純にロンと居たかったのだろう。


「オラは強くなるために去ったんだ」


「ソウ……ソレガアナタノネガイナノネ」

 どこか彼女は寂しそうに向きを変えた。


「ごめん」

 立ち去ろうとする彼女にロンは後ろから抱きついた。いつのまにロンは成長したのだろうか。


 もうすでに立派な男になっていた。


「アナタ……」


「にいちゃ、はやくー!!」


「アナタアァァァァ!」

 どこか俺が思っている展開と違った。そのまま彼女が帰るか引き止めるのかと思ったら、まさかの倒すという選択肢だった。


 俺は彼女に近づくと匠の短剣とミスリルダガーを片手ずつで持ち切りつけた。


「ワタシハ――」

 彼女は何かを言おうとして息を引き取った。中から出てくる魔石は黄金に輝く立派な目を覚ますだった。


「ちゃんと大事にしろよ」

 俺はロンに魔石を渡すと頷いていた。今回は良い勉強になっただろう。


「じゃあ、ニアも帰ろ――」


「お兄ちゃん達最低! 私もいらなくなったら殺――」


「おいおい、それはないから大丈夫だ」


「大丈夫だ」


「うん……」

 優しくニアを抱きしめると安心したのだろう。マンドラゴラドラドラゴンは人の心を惑わす能力を持っていた。


「じゃあ、帰ろうか」

 俺はロンとニアの手を握り、都市ガイアスに戻ることにした。


「浮気は絶対に許さないからね」


「ん? ニア何か言ったか?」


「何も言ってないよ」

 ニアの声が聞こえた気がしたが、何も言っていなかったようだ。

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