第81話 ウサギの獣人

 フードが取れたウサギの獣人は俺の方をずっと見つめていた。


「私を買わないなら離してください」

 彼女の言葉を聞いた俺の心は手で心臓を掴まれているかのように締め付けられた。


「なんで君はそこまでして自分を買ってもらいたいんだ?」

 俺が気になっていたのは逃げ切れた今となっては買われる必要がないと思ったのだ。


「私達は1人じゃ生きていけないのよ。 あなたなら……獣人を2人も買ったあなたなら私の言いたいことぐらいわかるでしょ」


「いや……俺はロンとニアを買ったつもりもないし大事な家族だ」

 実際に2人は魔物に襲われているところを助けたため買ったわけではない。


「獣人が家族なんておかしいじゃない。 だって私達は人間に飼われるためだけに生まれてきた奴隷じゃないの!」

 彼女は息を荒げて吐き捨てるように思っていることをぶつけてきた。


「使えないやつは安く売られるか愛玩として飼われるのよ。 死ぬまで――」

 俺は咄嗟に彼女を抱きかかえた。もうこれ以上聞くに耐えられなかったのだ。


「辛いこと聞いてごめんな」


「うっ……なんで私にはこんな耳があるのよ」

 必死に自分の耳を引っ張る彼女の手を優しくニアは手に取った。


「私も事情を知らないのにごめんね」

 ニアもさっきまでのことを悪く思ったのか彼女に謝っていた。自分がやったことを素直を謝れるのはいいことだ。


「みんなみんな死んじゃったよ。 もっと早く助けてよ」


「遅くなってごめんな」

 俺は泣き崩れる彼女を優しく撫でていると落ち着いたのかいつのまにか眠りについていた。


「落ち着いたのかな?」


「少し興奮していたけどもう大丈夫だと思うよ」

 ロンも彼女のことを心配していたのだろう。俺の胸でスヤスヤ寝ている彼女の顔を覗き込んでいた。


 その後俺達は冒険者ギルドに行く前に宿屋を探して彼女を寝かせることにした。


 海が見える街ということも宿屋に泊まる人が多く、初めは獣人を連れているだけで宿泊を断られることもあった。


 だが金額を倍払うことで泊まる場所は無事確保できた。


 俺は彼女をベッドで寝かせると何も話さずにずっと付いてきた2人が口を開いた。


「お兄ちゃん……私達って売られるために生まれてきたのかな……」

 ロンとニアは自分達がどのように生まれたのかを知らなかった。


 何も知らずに育てられた2人は奴隷畜舎のことを聞かされない限りは知らないのだろう。


「オラ達はお腹いっぱいご飯を食べさせてくれるって言われて馬車に乗ったけどこの子は買われるって知ってたよ」

 ロンとニアも自分に今まで起きたことと彼女の話を照らし合わせながら整理しているのだろう。


「俺もいまいちわからないけど、彼女みたいに売られるために生まれた子がいるという話は聞いたことがある。 ただ、それが本当かどうかもわからないんだ」

 今までロンとニアのことについては触れては来なかったが、彼女が現れたことで2人も彼女のように売られる存在だったと噂がより事実に近づいていた。


「そうか……ならオラはその子らも助けれるように強くなるね」


「さすがロンだな!」


「じゃあ、俺は冒険者ギルドに行ってくるから2人はこの子の様子を見ておいて! 何かあったら連絡してくれると助かる」

 俺は指輪を指差すとロンとニアは頷いた。


 俺は装備を身につけると海に向かった。2人には伝えてないがここからが俺の仕事だ。

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