第80話 海街マルティー

 マルティーの道中は特に何か起きることもなく、たまにしか出ない魔物をロンとニアの3人で取り合いになったぐらいだ。


 魔虫の森も他の森と同様に魔物の姿は少なく、休憩最中に様子を見に行ったロンとニアはつまらなさそうに帰ってきていた。


 そのため出てきた魔物は早い者勝ちというルールでやってみたがロンがとにかく素早く、気がついた時には俺はいつも通りの魔石回収担当となっていた。


 魔虫の森を回り込むように進んでいくと突然海が見え始めた。


「海ってすごいですね!」

 俺は大きく広がる青一色の世界に心が弾んでいた。


「にいちゃ、まだ遊びに行ったらダメだよ?」

 ロンの言葉にニアは頷いていた。これでも俺は2人の兄のはずなんだが……。


「そろそろ街が見えてきますね」

 俺は馬車から降りると街まで走って行った。


「おーい、入り口こっちだ――」

 俺は馬車に手を振ると3人は笑ってこちらを見ていた。


「お兄ちゃんそんなに海に行きたいの?」

 近づいた馬車に乗っていたニアは俺に聞いてきた。


「いや……」

 ゴードンが見ている中、ここは兄として頷くことはできなかった。


「にいちゃ、オラは海に行きたいなー」


「私も行きたいなー」


「一度は見ておいた方がいいと思いますよ?」

 ゴードンがそう言うのであればと俺は頭を縦に振った。


「ふふふ、では早く用事を済ませましょうか」

 俺達は門を潜り抜けると王都と比べて人の人数は少ないが街は呼び込みの声で活気に溢れていた。


「ここでは海の生物や魔物が盛んです」

 露店にはサハギンのような顔の生物がたくさん並べられていた。


「ロン、ニアどうしたの?」

 立ち止まっていたロンとニアに声をかけると2人とも涎を垂らしていた。


「にいちゃお腹減った」


「私もここに来てからお腹が空きました」

 どうやら2人とも謎の生物を本能的に好んでいるのだろう。そう言われると俺もお腹が空いてきた。


「では私の依頼もここまでで構いません。 次は2日後にまた王都まで戻りますので、集合時間は冒険者ギルドにお伝えしておきますね」

 俺は依頼書にサインをもらうとロンとニアとともに冒険者ギルドに向かった。


「見た目はほぼサハギンと変わりないけど、焼いてるのも美味しそうだったな」

 

「海には変わった食べ物が多いのかな?」


「それはすぐに海に行か――」


――ドスン!


 歩いている最中に建物の隙間から外套を来た小さな人が出てくると俺にしがみついてきた。


「助けてください!」

 俺は戸惑っていると後ろから誰かが追いかけてきているのが見えた。


「2人ともひとまず走るよ!」

 俺はその子を抱きかかえると外套の中に入れて見えないように隠した。


 もちろん外套を着ているため追っての男達は俺の姿を認識しにくいのだろう。


 そのまま建物の隙間に姿を潜め男達がいなくなるまで待つことにした。


「あいつどこに消えやがった」


「この中じゃ見つけにくいだろ」

 追ってきた男達は露店通りで人が溢れているため俺達を見失っているのだろう。


「使い道の少ない愛玩だから最悪死んだことにすればいいが金をもらった瞬間に逃げ出すとはな」

 男達は引き続き外套に隠した人を探しに行った。それにしても愛玩とはどういう意味なんだろう。


「もう大丈夫だぞ」

 俺は外套の中から小さな人を出すと俺とロンやニアを交互に顔を見ていた。


「お兄さんが私を買って!」

 俺は突然の発言に何を言っているのかわからなかったがニアが尻尾を逆立てて怒っていた。


「お兄ちゃんは私のものよ」

 ニアはその子の何かが気に食わないのだろう。それにしても俺はニアのものらしい。


「にいちゃはニアのものなの?」


「いや、ロンのものでもあるぞ」

 もはや俺はこの子達のもの扱いなんだろう。どこか寂しそうに見ていたロンの頭を撫でると満足したのかニコニコと笑っていた。


「ロンだけずるい……」

 今度はさっきまで喧嘩していたニアが拗ねて近寄ってきた。


 最近大人ぽくなってきたと思ったけどこういうところはまだ子どもなんだろう。


 俺は2人を優しく抱きかかえると助けを求めた小さな人はずっとこちらを見ていた。


「なんで私ばかりこんな目に遭わないとダメなのよ!」

 小さな人はどこか寂しそうにその場を去ろうとしていた。


「君ちょっと待って」

 俺は去っていく人の手を取ろうと手を伸ばすが間違えて外套のフードを掴んでしまった。


「あっ……」

 フードが取れたところからぴょこんと大きな白い耳と長い髪の毛が出てきた。


 彼女がロンとニアを羨ましそうに見ていた理由がやっとわかった。


「獣人だったんだね」

 彼女は大きな耳が特徴的なウサギの獣人だった。

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