第62話 突然の訪問 ※一部ロビン視点

 あれからエヴァンとプリシラは元気に過ごしている。ニアの回復魔法のおかげか傷跡もなく、今もエヴァンはルースにお腹を見せていた。


「いやぁー、やめてください!」


「ほら、綺麗になったでしょ?」


「問題はそこじゃないんですよ!!」

 ルースいわく腹筋は世界中の乙女を救うと言っていた。この世界の男は基本的に腹筋が出ているけどな……。


「お兄ちゃん見っともないからやめなさい!」

 毎回プリシラが止めてこの遊びは終わるのだ。


「そういえばお父様がウォーレンさん達に会いたいと言ってたんですけど一度会ってみませんか?」

 プリシラの急な話に俺は飲み物を口から噴きこぼしそうになっていた。


「にいちゃ汚いよ?」

 俺に布を渡してきたのはロンだった。2人は急に言われて驚かなかったのだろうか。エヴァンとプリシラの父親ということは本物の貴族に会うということだ。


「俺達礼儀作法とかなんも知らないぞ?」


「あー、その辺は気にしてないから大丈夫だと思う」

 気にしていないと言っても流石に無礼なことはできない。


「服の準備もいるだろうし、ロビンさんにもある程度のマナーは──」

 俺はそんなことを思っているとエヴァンとプリシラは宿屋の入り口に向かっていった。


「あっ、そういえば言ってなかったけどもう既に来てるんだよな」


「へっ!? えー!」

 俺は急いで立ち上がり身なりを整えた。そんな俺をロンとニアは笑っていた。いつのまにかこの2人の方が俺より落ち着いてきている気がするのは気のせいだろうか。


 扉から入ってきたのはエヴァンとプリシラの父親とわかる風貌をした男性だった。


 なんというのか常に光属性の魔法が発動しているような人だ。


「君がウォーレンくんかね?」

 ああ、オーラが眩しい。あまりのキラキラ加減に目がチカチカするような気がしていた。


「父さんそろそろスキルの発動止めた方がいいよ? ウォーレンが眩しそうだよ」

 どうやら本当に魔法を発動していたようだ。


「ああ、ちょっと威厳を保とうかと思ってな!」

 何かのスキルの影響だったのかエヴァンが声をかけた瞬間に光は収まっていった。


「ウォーレン大丈夫か?」


「ああ、少し眩しかっただけだ」

 めちゃくちゃ強がっているが本当は目を開けるのか辛かったぐらいだ。今も目が開けづらくて半開きになっている。


 もはや礼儀作法どころではない。


「これは推し変だ……いや、むしろ親子でサンドイッチでも……」

 近くにいたルースなんてあまりのオーラに壁際に行って頭を下げて拝んでいるぐらいだ。何か小言を言っていても俺もそれどころではなかった。


「今日は単純に息子と娘の様子を見に来ただけなんだがな! この間は助けてくれてありがとう」


「いえいえ、自分達ができることをしただけです」

 どこか貴族らしくない姿が好印象な男だ。それと同時に自分に父親がいたらこういう風なのかとどこか心の奥で思っていた。


「ってかエヴァンのお父さんめちゃくちゃいい人じゃんか! だって無理矢理やらされてるって──」

 俺の言葉にエヴァンと彼の父親は笑っていた。


「無理矢理は間違えじゃないけど選択肢は色々と用意していたよ?」

 どうやらプリシラが言うように無理矢理ではあるものの高等学校に行くなら冒険者になるという選択だったらしい。


「だって勉強し終わってるから高等学校で学ぶこともないしな」

 エヴァンの発言に俺は忘れていた。この男は高水準での器用貧乏だったということを……。


「やっとエヴァンにも友達が出来て父さんは嬉しいよ」


「ちょっ、父さんそれは言うなよ」

 エヴァンはどこか照れ臭くそうに笑っていた。


 その後エヴァンの父親は俺の装備を興味深そうに見て、また別の日にお礼がしたいから屋敷に招待させて欲しいと言って帰って行った。


 帰るときも来た時と変わらずスキルを発動させながら帰る変わったエヴァンの父親だった。


 ああ、次に会うときはスキルを抑えてほしいものだ。





「なんでお前がここに来てるんだ?」

 俺の前には次期国王のウィリアムが座っている。少し依頼から帰ってきと思ったら屋敷の中がバタバタとしていたのだ。


「ちょっと息子達の様子を見てきたのさ」


「ああ、この前死にそうになってたってローガンが言ってたぞ」


「ああ、俺もそれを聞いた時はびっくりしたけど良い仲間に出会えたようだな」

 ああ、話の流れから息子の様子を見にきたと言っているが目的はウォーレン達なんだろう。


「それであいつはどうだった?」


「いやー、実力はあまりないが装備と人は良さそうだな」

 確かにウォーレンに実力がないのは確かだ。それを装備とスキル玉で補っているからな。


「ただ、どこか懐かしい感じがするのはなんだ? ロビンもそう感じないか?」


「あー、それは俺も思っていたがそういうのに敏感なのはお前の方だろ? 統一者様」


「ははは、久しぶりに二つ名を聞いたぞ」

 ウィリアムは戦術で"勇者"の称号をもらった男だった。そのため人の強さや関係性、心情を見抜くのが早い。


 難点なのはスキル発動中は普段の華やかさからさらに追加されて輝かしくなるということだった。


「それでここに寄った理由はなんだ?」


「ああ、ローガンからも聞いたんだが今回息子を殺そうとしていた魔物がスライムだったらしいからな」

 その話は俺も聞いている。実際に相手をしていたのがまさにウォーレン達だ。ウォーレンは鑑定を使った結果、魔物がスライムだったと言っていた。


「またあの時と同じことが起きなければいいんだがな」


「それはないだろ。 そう簡単に魔物に転生者が現れるわけがない。 俺も頻繁にこの辺を見て回っているがそんな様子はないぞ?」

 ウィリアムに勇者の称号が与えられたのは過去に転生者のスライムが王都を襲ってきた時に得たものだ。


「そうだよな」

 その時とどこか似た胸騒ぎを感じているのかもしれない。しばらく何かを考えると用があるのかウィリアムは帰って行った。


「また何かあったら連絡を頼むよ。 あっ、今度ウォーレン達を王宮に案内したからよろしくな」


「おい、あいつに関わるなと……はぁー」

 俺はウォーレンに貴族と関わるなと言っておいたはずが、知らぬ間に王族と関係を作り巻き込まれていたとはな……。




 

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