第36話 お詫び

「私達が悪かった」


「お詫びにスキル玉をたくさんあげるから許してくれ」

 俺と子供達の前でモーリンとメジストは頭を下げていた。


 あの後メジストの錬金術店はすごいことになっていた。


──30分前


「お前こんなところでどうしたんだ?」

 メジストの錬金術店にやってきたのはおっさんのロビンだった。一度もお店で会ったことはないが、人通りが少ないここに来る目的はメジストの錬金術店だろう。


 俺は少し道を開けるとロビンは横を通るときに俺が泣いていたことに気づいた。


 最近俺の涙腺は弱くなっているのだろうか。アドルにあれだけ酷いことをされたのにその時よりも今の方が悲しい気持ちになっていた。


「おっ、おいこれはどういうことだ?」

 店に入ろうとしたロビンはさらに驚いていた。


 それもそのはず入り口では成人になろうとしている俺が泣いているし、子供達は泣き叫ぶし、モーリンとメジストはどうしたらいいかわからず店の中であたふたして大パニックになっているのだ。


 そんな中問題を解決したのはおっさんのロビンだった。


 ロビンはまず子供と俺をその場から遠ざけて子供達の話を聞いていた。


 その後メジストの錬金術店に入ると中にいる2人に説教するように怒っていた。


 そして今現在に至っている。


「私達はお前達が心配で──」


「お兄ちゃんに謝ってくれたら許してあげる」


「そうだ! 泣かしたのはばあばとじいじだぞ!」

 俺のために必死になってくれている2人に俺は優しく抱きしめた。


「にいちゃスキル玉をもらえるって!」

「嘘泣きしたかいがあったね」

 どうやら2人は勘違いしていたようだ。モーリンが変なことを教えたため俺まで嘘泣きしたと思われていた。


 それならせっかくスキル玉をもらえるならと俺も2人の話に乗ることにした。


「じゃあ、サハギンのスキル玉作成費を無料にするのと今後も作って欲しいスキル玉は無料でお願いします」


「にいちゃ、それだとスキル玉をもらってないよ?」

 俺はすっかり忘れていた。メジストはスキル玉をたくさんくれると言っていたのだ。


「あとはアイテムボックスと俺達が持っていない属性のスキル玉をください」

 俺の言葉に2人は驚いた表情をしていた。


「おまっ…….それがどれだけの値段──」


「いいわよ」

 モーリンはメジストの口を塞いで承諾した。今の話だとメジストだけが被害を受けることになるが、そもそも事の発端はメジストが原因だから仕方ない。


「それだけじゃお兄ちゃんが可哀想だよ? スキルホルダーももちろんタダで作ってくれるよね?」

 さらにニアは要求を被せてきた。この中で1番賢いのは確実にニアだろう。


 メジストは必死に横へ首を振ろうとしたが、モーリンが強制的に首を縦に振る……いや、押し込んでいた。


「お前らじいじをなんだと思っているんだ……」

 メジストは落ち込んでいたがそこは誰も触れなかった。これで何事もなく問題は解決したのだ。


 それにしても魔金ってあまり手に入らない物だと思っていたが、そこまでレアな物だと俺も知らなかった。


 だから俺は驚かそうと魔金を取り出した。


「おっ、お前ら本当に魔金を持って……いや、これは魔金じゃないぞ!」

 さっきまで落ち込んでいたメジストは魔金を見て何か興奮していた。そんなに魔金を見ることが珍しいのだろうか。


「これは魔金じゃないか!」

 どうやらモーリンも魔金を見て驚いていた。普通の魔金とは何が違うのだろうか。


「これは魔金ですよね?」


「いや、魔金は魔金でも世界で数個しかない純魔金なんだぞ」

 俺は2人……いや、ロビンも含めて3人が驚いている理由がメジストの言葉で大体理解できた。


 俺が魔金だと思っていた純魔金は珍しい伝説の魔金で一般的にみんなが言っている魔金は他の金属が混ざった物を言うらしい。


「これ譲ってくれたらさっきの条件を飲んでやる」


「さっきの条件? それはこれと関係ないよね?」

 あれは許してもらうだけの条件で純魔金を譲る理由にはなっていない。


「うっ……」


「それって俺も買うことができるのか?」

 話に入ってきたのはロビンだった。別にロビンであればメジストからスキル玉をもらえたからタダであげても問題はない。


「別に大丈夫ですよ」


「わしが先に交渉したんだぞ!」

 メジストはロビンに必死に抵抗していたが俺はどちらでもよかった。


「じゃあ、今度一緒に王都へ行こうか!」


「王都?」

「美味しいものがあるの?」


「ここよりたくさん美味しいものがあるぞ? それを無料毎日食べさせてやる!」

 俺達はロビンの提案を優先することにした。子供達も王都の話が出た時に行きたそうにしていたし、それにタダ飯となれば話は別だ。


「そんな……俺の純魔金が……」

 メジストはその場で崩れるように落ち込んでいた。


 そんな様子を俺と子供達は笑いながら見ていた。

 

 だってメジストが純魔金を譲ってもらおうと必死になっているが、俺の鞄の中には純魔金がまだゴロゴロと入っていた。

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