第20話 スキル【吸収】

 俺はオークから離れるとすぐに子供達に近づいた。妹だと思われる女の子がずっと大事そうに兄を抱えていた。


「お兄ちゃんが……」

 男の子はわずかに息はしているが手足は脱力していた。


 俺は【回復魔法】と【鑑定】のスキル玉を取り出して右手に回復魔法、左手に鑑定のスキル玉を持って強く握った


「頑張ってくれ!」

 俺は同時にスキル玉を発動させた。今まで鑑定しか使ってはいないが、人間に使えば詳しく体の状態が見えるのではないかと判断した。


《ステータス》

[名前] ロン

[種族] 獣人/男

[能力値] 力D/B 魔力D/C 速度C/A

[スキル] 収集

[状態] 腹部外傷による内臓破裂および血腫あり


 俺が思っていた通り鑑定で情報を詳細に見えることができた。


「スキル【鑑定】を吸収しました」


「とりあえずお腹を中心に回復魔法をかければいいんだな」

 俺は鑑定に書いてある状態に意識を向けて回復魔法のスキル玉を使った。その時も鑑定は使ったままだ。


「スキル【鑑定】を吸収しました」

「スキル【回復魔法】を吸収しました」

 何かまたへんな声が脳内に聞こえてきたが今は男の子を助けるのに精一杯だった。


「お兄ちゃん頑張って!」

 妹であろう女の子も必死に兄の手を握っていた。その姿に俺は絶対に目の前にある命を救おうと思った。


「スキル【鑑定】を吸収しました」

「スキル【回復魔法】を吸収しました」

 少しずつ回復魔法が効いてきたのか状態の欄に書いてある血腫がなくなり内臓も損傷程度になってきた。


「あと少しだぞ」

 俺はさらにスキル玉を使い続けた。


「スキル【鑑定】を吸収しました」

「スキル【回復魔法】を吸収しました」

 脳内に流れる声は止まらないが男の子の呼吸はゆっくりと落ち着いてきていた。


《ステータス》

[名前] ロン

[種族] 獣人/男

[能力値] 力D/B 魔力D/C 速度C/A

[スキル] 収集

[状態] 気絶


 必死に治療していたからかいつのまにか男の子の状態は改善されていた。


 どこかフワッとした感覚を感じると俺は全身の力が抜けてそのまま倒れた。手からはスキルを使い切った中身がないスキル玉がコロコロと転がっていた。


「お兄ちゃんを助けてくれてありがとう」

 そんな俺の顔を女の子が覗いていた。よく見たら頭の上に少し外側にカールした耳が付いていた。


《ステータス》

[名前] ニア

[種族] 獣人/女

[能力値] 力D/C 魔力C/A 速度C/B

[スキル] 空間魔法

[状態] 呪い状態によりスキル使用不可


「ああ、大丈夫だよ。 ちょっと疲れたから寝かしてくれ」

 俺はそのまま瞼を閉じると意識が自然と遠退ていった。





 俺は目を覚ますと見慣れた天井があった。記憶の中ではさっきまで外にいたはずがいつのまにか見慣れた宿屋の部屋にいたのだ。


「あっ、ロンとニアは!?」

 俺は勢いよく体を起こすと筋肉痛なのか、今まで感じたことのない痛みが体中を走った。


「そのまま寝ていろ」

 俺は声をする方に目を向けるとそこにはおっさんが座っていた。


「なんで俺は部屋にいるんですか?」


「俺が森を歩いていたら子供達が騒いでいたからな。 そこにちょうどお前が倒れていた」

 どうやら俺はあの後に気絶していたらしく、子供達が驚いているところをちょうどおっさんが通りかかったらしい。


 その後俺が気絶しているだけだとわかったおっさんは俺を抱えて子供達と一緒に宿屋に戻ってきたらしい。


「あの子達は元気ですか?」


「ああ、今は元気に飯でも食べてるぞ」

 子供達は特に怪我もなく倒れていたロンも一生懸命ご飯を食べているらしい。


「ならよかったです。 あとで子供達の分のお金を払わないといけないですね」


「それは今回俺が払っておいたから気にするな。 とりあえずお前はゆっくり休め」

 子供達が一緒に来ているなら俺が助けたということもあり、お金を払う必要があると思っていた。しかし、実際は代わりにおっさんが払っていた。


 いつもは若干子供ぽくて俺を追いかけてくるが、こういう時は頼りになるおっさんだ。


 俺は子供達の安全を聞くと今までどうにか張り詰めていた糸が切れたのか体中が重くなってきた。


「お兄ちゃんは起きた?」


「また眠りについたところだ」


「お礼を言いそびれちゃったな」


「お前達はもう大丈夫なのか?」


「私もロン兄も大丈夫だよ」


「そうか。 俺がちょうどあの時に通りかかってよかったな」


「うん? おじさんってずっとお兄ちゃんを見てい──」


「それは秘密だ」


「はーい」

 どこか夢の中でおっさんが話していたような気がしていたが、俺の頭は働かずそのまま気絶するように眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る