第12話 帰宅
俺は上機嫌で街に戻るとモーリンの薬屋に向かった。普段と変わらない速さで森から歩いたつもりだが、いつもより時間が半分程度に感じた。
「モーリンさん──」
「ウォーレン無事だったか!」
俺は扉を開けた瞬間にモーリンがカウンターから乗り出してきた。おばあちゃんがあんなに動いて平気なんだろうか。
「どうしたんですか?」
「どうしたって……無事ならよかったわい」
モーリンは安心したのかまたカウンターを飛び越えて椅子に座っていた。
「えっ? 何かあったんですか?」
俺はなぜそんなに心配されているのかわからなくなっていた。
「あんな顔で出て行ったと思ったら、いつも来る時間に来なかったから心配しただけだ! リーチェも心配して探し回ってたわい」
モーリンはどこか遠くを見て話していた。
「ご迷惑おかけしてすみませんでした」
家族もいない俺に心配してくれる人はいないと思っていた。だけどどこかそっぽ向いているモーリンや冒険者ギルドのリーチェは俺心配してくれていた。
俺はそれだけでどこか心が熱くなっていた。もう無理することだけはやめよう。過信はしないようにしようと改めて俺は思った。
「それでどうしたんだ?」
「ああ、いつもの薬草を持ってきました」
俺は薬草を入れた袋をモーリンは確認のために中を開けるとすぐに袋を閉じた。
「おおおおい、これはなんじゃ?」
「なにって薬草……あー!」
俺は薬草の袋の中に琥珀色の魔石を入れていたのを忘れていた。
「こんな物を見せびらかすんじゃないわよ!」
モーリンは急いで小さい袋に魔石を入れると渡してきた。やはりそこまでレアな魔石なんだろうか。
「これって売れそうですか?」
「売るんか!?」
価値がわからない俺にはこの魔石は必要なかった。むしろ高く売れるならお金に変えて証券口座に入れておいた方が今後の俺にとってはいいのだ。
「売れませんか?」
「いや、変なところで売るよりは……よし、都市ガイナスに行くんだ」
都市ガイナスは今のいる街から離れたところにある大きな都市だった。
「なんでガイアスなんですか?」
「そこに私の知人がいるからそこで売るといい。 やつなら高く買い取ってくれるだろう」
モーリンは"メジストの錬金術店"までの地図と手紙を渡してきた。
「早くリーチェのところにも顔を出しておやり!」
モーリンはどこか照れくさそうに俺を店から追い出した。
俺はその足でそのまま冒険者ギルドに帰った。まだ朝のため冒険者ギルドは人で溢れていた。
「ただい──」
「ウォーくん!」
カウンターで仕事をしていたリーチェは手を止めて心配そうに俺の元へ駆け寄ってきた。
ああ、かわいいなと思っていると周りの視線が俺の方へ向いていた。
「今までどこ行ってたんですか! 心配したんですよ!」
リーチェは俺の顔を覗き込むように上目遣いで見つめていた。
「怪我はしていないですか?」
「大丈夫です。 ご迷惑をおかけしてすみません」
リーチェは俺の顔を見るとどこか安心したのか普段より笑顔になっていた。
「おいおい、リーチェはポーターの心配ばかりするんか? そいつなんて使えないだろう」
「そんなことない──」
冒険者はリーチェの腕を強引に掴み自分の方へ引き込むとそのまま勢いよく倒れた。
俺は手に持っていた外套に身を包み短剣を取り出した。
「ほら、リーチェも俺を選んで……」
「リーチェはお前みたいなやつが触れていい人じゃない」
俺は冒険者の首元に短剣を突きつけた。外套で存在感が薄くなった俺を気づけたのはギルド内で多くはないだろう。しかも、靴のおかげで一瞬で冒険者の後ろに回ることができたのだ。
「おいおい、冗談だよ。 そんなに怒るなよ」
「ならその汚い手を離せ」
冒険者はゆっくりとリーチェの手を離すと俺はそのままそっと抱え込んで後ろに下がった。
「大丈夫ですか?」
「ウォーくん?」
どうやら外套で俺の認識がしにくいため誰が助けたのかもわかっていないらしい。俺はフードを外すとやっと誰なのか分かったのか、腕の中のリーチェは顔を赤らめてこちらを見ていた。
「ありがとう」
ああ、かわいい。俺は単純にそう思った。どこか俺の鼓動も早くなり急いでリーチェを下ろした。
「眠たいので部屋に戻りますね」
俺は恥ずかしさのあまりそのまま部屋に戻った。その後冒険者ギルドではウォーレンの実力に対してかリーチェの可愛さでなのか騒ぎになっていたことを俺は知らなかった。
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