幼馴染の恋を邪魔して何が悪い ~陽キャイケメンの幼馴染だった俺、実は陰で美少女達に好かれていた件~

佳奈星

一章 幼馴染の恋を邪魔して何が悪い!

第1話 世渡り上手(自称)

 とある放課後の教室。

 俺は教室に残る最後の一人になるが嫌になって、先に出て行こうとした幼馴染を引き留めた。

 優しい彼女が呆れながらも踵を返してくれたことに喜びを覚える。

 だから……ついでに告白をしておこうと思った。


 一見奇行に思えるだろう。しかし何事も慣れればライフワークってやつだ。

 窓の外から聞こえて来る喧騒が俺の声と心を震わせながら、想いを告げる。


「翠星、俺やっぱり翠星のこと好きで諦めたくないんだ。だから、付き合ってくれないか?」

「ごめん陸。まだ、その……無理かな」

「……そう、か。やっぱり彰人には敵わないか」

「……うん」


 何度目の玉砕なんだろう。

 俺、かいどうりくは幼馴染であるとせすいせいに数え切れない回数失恋した。


 彼女の本命……好きな相手は知っている。

 それは同じく幼馴染であるこうあき

 俺にとって気の良い親友であり、勉強以外なら何でもできる男である。

 そして彼に対して度重なる敗北感が、また積み上げてしまったらしい。


「じゃあ、私……帰るね?」

「あ、ああ」


 結局、俺は教室に取り残されてしまった。

 座席から見える窓の外を見れば、サッカー部の練習試合が目に入る。

 その中に彰人の姿を見つけた。

 ボールを巧みに操る足さばきで、相手を何人も見事に抜いていく。


「……彰人はすごいなぁ。俺もあんな風に……ははっ、なれやしないか」


 そう、彰人はすごい。

 俺に悪いところがあるのではない。ただ彰人に良いところがありすぎるのだ。

 だから彰人に嫉妬なんてしない。

 確かに翠星の気持ちは依然として変わらないかもしれない。

 しかし、いつか変化は訪れるはずだと俺は信じている。

 その日が来るまで、耐え抜いて見せる。


 まあ、それでも失恋のショックが無いと言えば嘘になる。

 何度目からか忘れたけど、俺は心の底から笑えなくなってしまった。

 だが、そんな事気にしない。

 将来的に翠星と付き合えるなら必要経費だ。


「おっ、あぶねぇ」


 ふと、校舎の出口を出たあたりで三人組の女子達とぶつかりそうになった。

 背が低いから足場を置いて、彼女達はサッカー部の練習を見ているようだ。


「ねえ、転げ落ちたらどうしてくれんの!」

「会堂さ、前見て歩きなよ」


 そして、相変わらず俺に対して口が悪い。

 一時期、彰人につき纏っていた彼女達に俺は注意したしたことがある。

 それからというものの、相当嫌われているみたいだ。


 でもまぁ、こいつらに構うのも面倒くさいし無視して通り過ぎることにした。


「だんまりかよ。彰人くんの腰巾着の癖に」


 中々手厳しい言い方である。

 流石の俺も、その言葉には振り返った。

 幼馴染だから一緒にいる。そもそも俺達の関係に他人が口を挟まないでほしい。


「失礼だな。世渡り上手だって言ってほしいね」

「は? 意味わかんないし」

「きっも。カッコつけんな」


 返って来たのは困った時の常套句。

 でもいいさ、充分皮肉を込めて言っただけ気分は楽になったのだから。

 これ以上相手するのはどの道疲れるだけだろうし、俺は今度こそ歩き出す。

 その後も背後では侮蔑の御託が並べられていたが、全て無視した。

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