【試読版】この恋は元カノの提供でお送りします。

第1話 プロローグ

元カノ柚木（ゆずき）真波（まなみ）は際立つ〝個〞だった。

教室という場所はかなり特殊な環境だ。

同い年の数十人が同じ空間に、丸一年も閉じ込められる。

あれが何度も繰り返されるなんて、学生時代以外にありえない。

そして小学校から高校を卒業するまでの歳月で生徒は学ぶ。

どんな環境下でも集団の意思が尊重され、定められた枠から脱しようとする〝個〞は大抵歓迎されない。

しかし際立つ〝個〞になれば、集団の意思も容易くひっくり返してしまえるのだと。

元カノ、柚木真波はそんな存在だった。

美人でノリも良く、クラスの中心人物。

その彼女と俺が付き合った期間は周囲から『奇跡』と評された。

だが、結局別れた。

理由はたった一つ。

──恋人関係そのものが偽物だったから。

互いに好き合っていないのだから、必要無くなれば終わるのが至極当然の帰結。

別れてから一切言葉を交わさなくなったのもそのためだ。

高校を卒業し、大学も別々。

次に会うのはいつか開かれるであろう同窓会だと思っていた。

本気で、そう思っていたのだ。