(四)-3

 彼は下を向いて小さくそう言った。遠くの大人数が入れる個室の方からは大笑いする声がこっちまで響いてきていた。だから彼の小さい声は聞き取りづらかった。だから私は「え? もっと大きな声で言ってよ」と返した。

 すると彼は、私の方を見た。目が真剣だった。そして彼は言った。

「俺、お前のことが好きだったんだ」

 衝立の向こうでは会社員たちが乾杯のためにグラスをぶつけあっていた。隣のテーブル席では店員さんが注文を取っていた。さらに、店に客が入ってきたようで、店員がそちらの方へ向かっていた。

 女性の店員が、大きな鶏の胸肉の唐揚げが四枚乗った大きなさらを持ってきて、私の目の前に置いた。揚げたてだった。

 私は視線を唐揚げから上げた。正面には彼の顔があった。


(続く)

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