09話.[いつも通りだね]

「それはまた……なんともいえない告白の仕方ね」

「確かに、部屋でという点は悪くないんだけどさ」

「まあ、相手は私だからこんなものだよ」


 しかもいまからなにかを変えられるわけではないから仕方がない。

 今日は女の子だけで集まっているから純がいないというのも影響している。

 ちなみに純は端君と公園で過ごしているから会おうと思えばすぐに会えるけどね。


「これが微妙だと感じるのなら志津は頑張って変えないとね」

「実はもう告白をするつもりなんだ」

「じゃあ行く?」

「うん、行く」


 よし、それなら眞屋さんの家から出よう。

 ここもエアコンのおかげで快適な場所だけど、快適な場所だからこそ長くいるのは危険だった。

 内側に存在しているわがままな自分が出てくるまでに動かなければならない。


「私は行かないわ」

「じゃ、また明日行くね」

「そう、いつでも来ればいいわ」


 元々彼女が来てくれるとは期待していなかった。

 暑いのが苦手だとはっきり言っていたし、何度も誘うことはそもそもできないからこうなることは確定していた。


「おーい!」


 志津は公園に着くなり走ってふたりに近づく。

 いまから告白をしようとしている人間には見えなかった。

 余裕があって、笑顔が可愛くて、あくまで自然だからいつも通りの志津にしか見えない。


「久間さんはいつも通りだね」

「志津だからね――っと、まさか端君が来るなんて珍しいね」

「って、別に避けていたわけではないですからね」


 ああ、志津に睨まれている気がする。

 向こうの方でひとりぽつんと立っていて、こちらが悪いわけでもないのに申し訳ない気持ちになった。


「杉本さん、僕は久間さんのことが好きになりました」

「うん」

「だから今日――」

「それじゃあともかと高安君はふたりでゆっくりしてね」


 あらま、一瞬で距離を縮めてきて、一瞬で彼を連れて行ってしまった。

 純の方を見ると「サッカーとかをやった方がいいね」なんて言って笑っている。


「あ、これあげる」

「ありがとう、丁度飲み物が欲しかったんだよね」

「ボールを蹴っているだけでもずっと熱中してしまいそうだから怖いよ、熱中症にならないようにね」

「上手いね、ついでにこれも美味いよ」

「そういうのはいいから、心配して言っているんだからね?」


 あ、でも、いまのはなんか気持ちが悪いな。

 もう彼女面をしているというか、うん、そんな感じで。


「そんな顔をしなくても大丈夫だよ」

「あ、いや、いまのは違うから」

「大丈夫、でも、心配してくれてありがとね」


 頭撫で攻撃を避けて距離を作る。

 関係が変わってもそれだけは直してほしかった。

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