「……したぞ、身辺調査。後をつけたらこいつん家、入って行ったから。……こいつの親戚かと思ったんだけど。」

 人違いかもしれないとは覚悟してたけど、性別違うとは思わなかったよ、と倖がまた深々とため息をついた。

「……うちまで、つけてきたんですか……?」

「うわぁ、ストーカーだね、君。」

 動揺のあまり、うっかり口をすべらしてしまった倖が、しまった、という顔で2人から目をそらす。

 りんがじっとりと倖を見れば、ふと視線が合い、またすぐに逸らされた。

「見間違いだったんじゃないか?」

 慶が疲れたように柱にもたれながら、若干気の毒そうに言う。

「間違えねーよ。」

 間髪入れず、ぼそりと倖が答えた。

 その倖の様子を慶はしばらく眺めたあと、そう、と腕組みをして、何やら考え込みはじめる。

 首を傾げチラリとりんを見ると、視線を彷徨わせながら倖に問うた。

「あのさ、君の好きな子って、かわいいの?」

「……かわいくないのは、好きにならない。」

「ふーん。……めちゃくちゃかわいい?」

「今までみた中で、一番。」

 倖は慶を真っ直ぐに見据え迷うことなく、間髪入れずに答えていく。

 その倖の真っ直ぐな返答に、本当にその子のことが好きなんだな、と、りんは素直に感動した。

 感動しつつも、想いを向けられている子に対しては、少しだけ、羨ましくもあった。

「なるほどねー、うんうん。」

 慶は何やら納得したというようなしたり顔で顎に手をあて、また考えこむ。

 そんな慶に、りんは訝しげに眉を寄せスーツの袖をちょんと掴んだ。

「慶くん、もしかして、その子のこと何か心当たりあるの?」

 先程からの慶の思わせぶりな言動に、まさか、と不思議に思いりんが聞いてみる。

「いや?何も知らないな。」

 と、心なしかニヤけた表情で言うので、りんは更に眉をしかめた。

「何か知ってるんだったら、教えて?」

「いやいや、ホントわかんないから。そもそもりんの家のことを俺が知ってる訳ないだろ?」

「そ、それは、お父さん達と、何か結託してるとか、」

「どんな秘密結社だよ。りん、本当に知らないから。」

「……はぁー。」

 慶とりんの押し問を黙って見ていた倖が、やおら大きなため息をついてしゃがみ込んだ。

 今日は何度、倖のため息を聞いただろうか。

 力無くしゃがみこみ、倖は床につかんばかりに頭を下げうなだれている。

 それはそうだろう。

 今日ここで、告白するつもりだったのだから。

 直前まで緊張しまくっていたことを考えると、力も抜けようというものだ。

「そういや、おまえこそ心当たりないのか?」

 おまえんちに入ってったんだけど、と倖が勢いよく顔をあげて言いながら、りんを凝視した。

「い、いやいや、全然ないですよ。だって、倖くんが後をつけた人って、えっと、……女性、てことですよね?」

「ったりめーだ。」

 倖は半眼でりんを見上げ呻いた。

「あの、うちで女性って母と私しかいませんし、まだ遊びにきてくれるようなお友達もいませんし、正直、全く心当たりありません。」

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