倖をの返答にりんは素直に驚く。意外だ。

 偏見を持っているつもりはなかったのだが、興味なさそう、と決めつけてしまっていたらしい。

「どんな本を?」

「んー、何でも読むけど。」

 何でも、とは?

 疑問に思っているのが伝わったのか、倖はニヤリと笑いこちらを覗き込む。

「まぁ、エロいのからエロいのまで?」

「そ、そーですか。」

「あ、けっこう時間かかる?」

「……倖くんがいいなら1時間くらいはゆっくり見たいなと思ってるんですが。時間大丈夫ですか?」

「大丈夫ー、おれ、あっちで雑誌読んでるわ。」

 終わったらこいよな、と、とっととソファ席の方へ行ってしまった。

 はたしてあの場所にエロい雑誌があっただろうか。

 雑誌コーナーでしゃがみこむ倖を目で追いながら、りんはいそいそと推理小説コーナーへと足を向けた。



 りんが本を3冊借り、さて倖はどこにいるだろうかかと探していると、少し奥まった場所にあるソファ席で彼は熱心に雑誌に見入っていた。

 りんが来ていることにはまったく気づいた様子もない。雑に組んだ足に大きめの雑誌を広げ、倖は文字を追っていた。

 ソファの前にあるローテーブルには雑誌が山となっている。

 読み終わったのか、それとも今から読むのか。

 すぐそばまで近づいても、集中しているのか、倖は一向にりんに気づく気配がない。

 そっと彼の手元にある本を覗き込むと、何やら宇宙の絵がダイナミックに画かれている。

 どうやらエロい雑誌ではないようだ。

 声をかけようか、もう少し待つか、りんは少しだけ迷うと、倖の邪魔をしないようそっと向かいのソファに腰を下ろした。

 空調がしっかり効いた図書館は、りんには少し肌寒い。しかし、この席は背後から西日があたり、ぽかぽかとして何とも気持ちがよかった。

 これからの太陽の傾きを考えると、この席全体が日差しに包まれてしまうのも時間の問題だろう。そうしたらきっと日の光に当たって倖の髪がキラキラと、きっと綺麗に違いない。

 黙々とページを捲る倖を見ながらりんはそう想像し、気持ちのよい暖かさに誘われるように目を閉じた。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 眩しい。


 俯いていても差しこんでくる強い日射しに、倖は眉をしかめた。紙面も斜めに照らされて白み、ひどく読みにくくなっている。

 集中が途切れてため息をつくと、倖は顔をあげた。

 目の前にある、一面の掃き出し窓からの西日が、ちょうど倖の顔あたりまでを照らしていた。

 まだまだ夏の終わりで日中は暑いが、ここのところ朝晩は冷え込むようになってきている。 

 斜陽は倖の座る左側を照らしポカポカと暖かかいけれど、これでは眩しくて本を読むどころではない。

 窓にはロールカーテンが設置されているが、あれを閉めにいくより横にずれた方がよさそうだ。

 ソファはカップル席となっているが、影となっている倖の右となりには誰も座っていない。金髪だと人があまり近寄ってこないが、こういう時にはプラスになる。

 ずり、と僅かに横にずれただけで西日がそれ、視界が少しましになる。軽く瞬いて暗さに目を順応させながら雑誌へと視線を落としかけ、倖は驚いて目を見開いた。

 倖の目の前にはローテーブルを挟んでもう一つ、ソファのカップル席がある。


 そこで、林田りんが寝ていた。


 倖からみてソファの左側に座り肘置きに体を預けるようにやや斜めになりながら器用に寝ている。

 しかし。

 その横にいる、そう、横にずれたおかげで倖の目の前に座っている、このデブのおっさんは誰だ。

 ソファはカップル席だが、そうはいってもある程度のゆとりはある。なのにこのおっさんのりんへの密着ぶりは何だというのか。

 おっさんは仕事帰りなのか、背広の上着をりんと自分の膝に半分ずつ(!)にかけ、その上に何かの雑誌を広げている。その白いシャツは空調がきいている室内にいるとはとても思えないほど汗でびっしょりと濡れている。

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