仲良くなる、の線引き。


 ただ、これはもう、仲良く、というよりも。

「正直、わたしもけっこう倖くんと仲良くなってきているのかな、と思います。というか、仲良く、という言葉を使うからややこしくなるわけで。倖くんにいとこの連絡先教えても大丈夫だ、と思えるかどうか、だと思うんですけど。」

 そう、それは信頼とか信用とか、そういう類のものだ。

「まだ大丈夫だ、とは思えない、と。」

 倖が悲しそうな顔で呟くので、りんは慌ててフォローする。

「思えない、とまではいかないんですけど、……うーん、50%くらい、でしょう、か、」

 本当は、もう教えてもいい、と思っている。

 けれど、まだもう少し友達ごっこをしていたくて慌ててりんは嘘をつく。

「……それって俺のこと50%は信用してくれてるってことか。」

 そうとも言いますね、とりんが頷く。

「一週間で50%てことはあと一週間で100%だな?」

「え?……そんな単純計算、されても、」

「なんでだよ。可能性はあるだろ?最短であと一週間って、な。」

 倖は明るくそう言うと、よし!と両手を突き上げ、がんばるぞー!と叫んでいる。 

「おまえも頑張れよな。他のやつらと話す暇があるんだったら、まず俺と話せ。」

 なぜ私が頑張らなきゃいけないのか、と思ったけれど、少し面倒くさくなってきたのでぞんざいに頷き、倖を置いて歩き出した。

「はいはい、ほら行きますよー。」

「あ、面倒くさいって思っただろ今。」

「思いました。」

 おまえなー、ぼそりとごちる倖は続けて口を開いた。

「てか、そういやどこ行くんだ、今日。」

 俺もうネタ切れだけど、と続ける倖にりんは動きを止める。倖がネタ切れしているのであれば、りんなど言うに及ばずだ。

「一度行ったところでよければ、また本を返したいなーと思ってるんですが。」

「図書館か。」

「倖くんがよければ。」

「別にイヤではない。」

 じゃあ、図書館に行くということで、と倖に返事をして、正門に向かって歩く彼をりんはさりげなく右側に誘導する。

「お、なんでこっち寄ってくんだよ。」

「いいじゃないですか別に。」

 いつも校庭のど真ん中を占拠して走り回っているサッカー部員は、今日はまだいない。

 大きなサッカーコートを真っ直ぐ正門へと突っ切る先には、特に障害物などは見当たらない。

 が、若干左に寄ると、あるのだ。 


 障害物が。


 先ほどからチラチラと端から見えていたそ・れ・を倖を見る振りをして、再度位置の確認をする。

 それとなくは難しいので、嫌がらせのように右に倖を押していった。

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