第65話 秘密の部屋からの脱出

二か月ほど投稿出来なくてすいませんでした!

ある程度時間が出来たので、また今日からマイペースに投稿していきます!


三章の簡単なあらすじ

メイドのサティが誘拐された!→少数精鋭で乗り込むぞ!→牢獄内で再会を祝して焼肉パーティー→報復として聖王殺害→なんかアインと聖騎士長が戦ってる→何故か本物の聖王の捜索を依頼された→取り敢えず美味しいものでも食べよ→地下にある秘密の部屋で聖王と従者発見→逃がしてあげよう



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 隠し階段を降りてすぐの最初の部屋に戻ると、先程と同じスーツ姿の男がこちらへ話し掛けて来た。


「お疲れさまでした。お楽しみいただけたでしょうか。……おや、同伴ですか? こちらに話は来ておりませんが?」


 トイレを済ませてスッキリした僕と、まるで背後霊のように僕のすぐ後ろにピタリと張り付いているララとココ。

 そんな僕らに、スーツ姿の男は訝し気な視線を隠す事なく向けてくる。


 男の反応を見るに、どうやらここの女の子を外に連れ出すのは相応の許可やら手続きやらが必要なようだ。きっとララやココ同様、他の女の子達も外に出ては困る訳アリが揃っているのだろう。


 ふむ、強行突破でここを駆け抜けても良いが、トイレに繋がっている隠し階段を封鎖される可能性が高い。ならばここはこの男を納得させて上に向かう必要があるか。


 瞬時にそう判断した僕は、こちらにはまるで瑕疵なんか欠片も無いようなテイを装って男に言う。


「そっちの事情なんて知らないよ。僕は良いって言われたから二人を連れ出そうとしているだけだ。それともなに? 君はお客様である僕の行く手を遮るわけ? ふざけるな店長を呼べ、店長を! 文句言ってやる」  

「め、滅相もございません。ただ私といたしましても、上からの許可が無ければ――」

「だからこっちは許可は得てるんだってば。一体どんな権限があって僕をここに足止めするつもりなの? こっちは安くないお金を払ってるんだ。この後の予定だってぎっしりだよ」 


 上の定食屋ではヴィリアンの奢りの料理やデザートが山ほど待っているし、聖国の征服だってしなくちゃならない。こんな所でもたもたしている暇なんてないのだ。


 それと当然ながら僕はこの店の店長やお偉いさんから許可を貰ったりしていない。許可を出したのは何を隠そう、心の内のもう一人の僕だった。


 この二人を連れ出しても構わないよね僕?

 うん、勿論だよ(裏声) 天才でイケメンなハルト君なら何をしようと問題無いさ(裏声)


 近い将来、世界を制する覇者であるこの僕が他人から行動の許可なんて得るわけが無い。僕の行動を縛れるのは世界中で幼馴染達だけ。


 そんなある種自己判断とも言える僕の言葉を聞いた男は、都合よく許可の出し主を勘違いしてくれたらしい。

 不愉快そうな顔で一歩も引かない僕と対照的に、男は心底困ったようにハンカチで汗を拭う。


「(ここって店長とかそういうシステムでしたっけ?)」

「(いいえお姉様。恐らく変態がテキトー言ってるだけかと)」


 後ろでララとココがコソコソと話しているが、こういうのは気分だよ気分。

 それにいきなり高圧的に怒られたら誰だって委縮して頭が働かなくなってしまうものだ。今回はその混乱を突いてここを脱出する。


 アイン達と違って僕は平和主義だし、無駄な血が流れないに越したことは無い。

 ていうか早く戻らないと、食いしん坊なアインが僕の分の料理まで食べるに決まってる。急がなければ。


「大変申し訳ございません。すぐに確認を行いますので」

「すぐってどのくらい?」

「十分……いえ、五分頂ければ――」

「五分だって!? 五分もあれば僕は完全な睡眠状態に入れるよ? 夢の世界でキャッキャウフフと幸せいっぱいだ!」


 時間に追われているような演技をしつつ、部屋の時計にチラチラ視線を向ける僕。

 そして再び後ろの二人がひそひそ話し始めた。


「(そんなすぐに寝れるなんて、とても羨ましいです!)」

「(この変態は重責を担うお姉様と違って悩みとかなさそうですからね)」


 なにを馬鹿な事を。僕にだって悩みくらいあるぞ!


 リセアとどんな結婚式を挙げようかなとか、子供の名前はどうしようかなとか、アイン達と明日なにして遊ぼうかなとか!


「精一杯対応させていただきますので何卒なにとぞ……」


 困ったな。ここまで言っても折れてくれないとは。

 一体どうすればこの頑固な男を納得させられるだろう。


「仕方ない。君に言うつもりはなかったんだけど、実はこの二人……ドッペルゲンガーなんだ」


「「「 !? 」」」


 苦し紛れに僕の口から放たれた言葉に僕以外の三人が衝撃を受ける。


「実は先程、聖王に成り代わっているドッペルが忽然と行方をくらませてね。その代替としてこの二人が急遽必要になった」

「……確かにその情報は既に私の耳にも入っています。しかし、この二人は本物だったはずでは……?」

「万が一が起きても敵にドッペルのスペアがいる事を悟らせない必要があったんだ。我々には敵が多い。それは君だって理解している事だろう?」


 我々ってなに!? 敵って誰!?


 スラスラと僕の口から出るデマカセは、僕自身をして意味不明なものであった。 


 ま、まぁ一国のトップを攫って商品にしてしまうくらいだから敵くらいいるよね? 


「なるほど、どうりでボスが珍しく、この二人は丁重に扱えと念押ししてきたわけです。間違っても腕を切り落としたりはするな、と。こうなる事を見越していたのですか」

「…………その通りだ」


「希少なドッペルをさらに二体も抱えているなんて敵は想像すらしていない。ここで聖王が無事に復活する事で敵の意表を突き、計画を破綻させる事が出来る。素晴らしい作戦かと」

「………………まぁね」


「ですが聖王はともかく、付き人のドッペルまで作成した意図は……。はっ!? まさか未だこちらに従わない一部聖騎士と文官共を懐柔する為に……!?」

「……………………よく分かったね」


「私も長くこの世界で生きていますからね。その小娘の本体は聖王程ではなくともそれなりに人気と信頼を集めている。成功は間違いないでしょう」


 凄い、僕が何も言わなくても勝手に一人で考えて勝手に一人で納得してる。

 中途半端に賢い奴はなんて便利なんだ……。


「しかし何度見ても本物のようですね。とても魔物には見えません」


 男の中でララとココがドッペルゲンガーである事は既に確定したらしく、男は二人を至近距離でジッと見詰め始めた。

 それを受けてララは顔を強張こわばらせ、ココは目を閉じ息を止めて耐える。


「なにか見分ける方法はあるのですか?」

「そうだね、ドッペルなら本人が決して口にしない発言も平気でするって事くらいかな。――……あ、勿論口が軽くなるのは僕に対してだけだよ? だから実際見分けるのは不可能と言っていい、うん」


 だからもう鼻と鼻がくっつきそうな距離で二人をまじまじと見るのはやめてあげて!

 ココなんて息を止めてるからこのままじゃ窒息して死んじゃう!


「ではなにか本人が言わないような発言をして頂いても?」

「……良いだろう。さぁ二人共、簡単に自己紹介してみてくれ。本人だけの秘密にしている情報も添えてね」


 突然の無茶振りにララとココが嘘でしょ!?みたいな目をこちらに向けて来る。


 すまない二人共。でもこの場を穏便に切り抜けるには君達のカミングアウトが一番効果的なんだ。


 先に平静を取り戻したのはララだった。

 流石は聖王として君臨しているだけあり、すぐにスイッチを切り替えたように真顔になって口を開く。


「私はララ。聖王ララです。Gカップで処女、黒パンツのララです。この前紅茶を溢してしまい、ズボンとパンツがお漏らしをしたように濡れてしまったので、勘違いされないようわざと傘も差さずに外へ飛び出してずぶ濡れになりました」


「(お、お姉様、あの時はラトナ様の恵みを身体で感じたくなったなんてカッコよく言っていましたのに……!)」


 そしてお姉様が言ったのならば自分も言わない訳にはいかないとでも言うように、次はココが覚悟を決めた。


「わ、私はココよ! ギリギリBカップでクマさんパンツのココ! 勿論処女! お、お姉様の下着をいくつか拝借して枕カバーとして使っているわ!」 


「(たまに下着が消えるのは貴方の仕業だったんですかココ!?)」


 ココのまさかのカミングアウトにララが今日一の衝撃を受ける。



 下着を枕カバーにだと!?



 天才の僕ですらその発想はなかった。

 ヤバい、僕もその枕カバー欲しい!


「ふむ、確かにこの二人はドッペルのようですね。分かりました。二人を連れていく事を許可しましょう。ただ確認が済むまでは上の定食屋から外へ出ないようお願いします」


 ララのはともかく、ココのトンデモない秘密をまさか本人が口にしたとは夢にも思わない男は心から納得して上へ行く許可を出す。


 こうして僕達は謎の地下空間から脱出することに成功したのだった。




 トイレへと繋がる階段を上る際、顔を真っ赤にしたララとココから無言でパンチされ続けたのは言うまでもない。



~~~~~~



「お、ハルトようやく戻って来たな」

「遅いですわよハルト。わたくし達はもうほとんど食べ終わ――ラ、ララさ、ま?」


 定食屋に戻ると、僕達の席には幾つかの料理と食べ終わった大量の皿が積み重なっていた。


 アイン、サティ、ローズはともかく、ヴィリアンも文句を言いながらトンデモない量を食べたらしい。


 周囲の客や店員は化け物でも見るような目で僕らの席を眺めている。


「ヴィリアン。ここの料理は美味しかったですか? 私達が囚われていたというのに幸せそうですね」

「ヴィリアンお姉様、いくらなんでもこの量を人前で食べるのはラトナ淑女としてちょっとどうかと……」


 美味しい料理を食べて満腹になったヴィリアンにジト目を向けるララとココ。

 自分達が不自由な生活を送っていたのに、最も信頼する親友がこれでは文句を言いたくなる気持ちも分かる。


「ち、ちちち違いますわ! これは戦う前の腹ごしらえというやつでして、今からララ様奪還に動こうかと!」

「ふーん、良いですもーん。私達はハルトさんに助けてもらいましたしー。どうせ私は料理以下の存在ですよ―」


 一応周囲に声が漏れないよう小声で会話をしているが、ララの言葉のトゲは消えない。

 困ったヴィリアンは僕にその責任の所在をなすり付けてくる。


「ハルト! 救出するならちゃんと声を掛けて下さいまし! おかげでララ様が拗ねちゃったじゃありませんの!」

「私は拗ねてませんもーん」


 この二人本当に仲良いな。


 ララはローブで顔を隠しているため少し食べにくそうにしているが、ララもココも久し振りのシャバの食事を満喫している。


「いえヴィリアン様。ご主人様は怪しいポイントの一つがココだと事前に言っておられました。真っ先にここを訪れたという事はそれだけ可能性が高かったという事でしょう」

「そうそう。おまけにあるじは料理を三人前頼んでいた。てことは後から二人やって来るって事くらいあたしでも理解できる」


 いや一人で十人前頼む君がそれ言うの、ローズ?

 僕は普通に三人前食べたかった気分なだけだ。

 まぁ、そっちの方が天才っぽいから敢えて否定はしないけど。


「それでハルト。敵はどうだったんだ? 強かったか? 何人殺してきた? ちゃんと俺の分も残してるんだろ?」

「アインじゃないんだから、そんなポンポン殺したりしないよ……」

「なんだと!? つまり全部俺が殺していいって事か!? 流石はハルト、俺の大親友!」


 生贄を捧げる事で友情が深まる人間は君だけだ、アイン。


「それより、左腕を失くした状態で大丈夫? あまり慣れてないでしょ?」

「問題ねーよ。ガキの頃から何度もババアに斬られてるからな。両腕を失くしても戦えるから心配すんな」


 両腕を失っても戦える剣士って、それはもはや剣士ではないのでは?


 一体どうやって剣を振るうのか気になる所だが、聞くのはやめておこう。

 間違いなく先生とのバイオレンスな訓練内容まで聞く羽目になって食事の手が進まなくなる。


「一応左腕は回収してっから、シュカとシュリならすぐ治せる。このくらいはいいハンデだぜ」


 そう言ってアインは背中に背負っていたリュックから血まみれの左腕の指先をひょこっと見せて来た。


 食事中になんてものを見せるんだ君は……。


 幸い周囲の客からは見えなかったようで騒ぎにならずに済んだけど、定食屋に新鮮な切り落とされた腕を持って来るのはもはやテロ行為ではなかろうか。


「ヴィリアン、君の目と腕も僕らの仲間に治してもらおうか?」

「心配ありませんわ! わたくしなら数日もすれば完治いたしますから」

「……それは凄いね」


 もしかしたらヴィリアンの先祖にはトカゲでもいるのかもしれない。


「いや凄いってか異常ですよご主人様!」

「欠損を数日で回復って明らかに人間業じゃないぞあるじ!」

「まぁまぁ、世の中には色んな人がいるから……」  



 そんな会話をしながら食事を進めていると、何故かずっと店内で仁王立ちしていた謎の店員がこちらへ歩み寄って来た。

 それに続いて強面こわもてのおじさん達が僕らを囲う。


「お客様。聞いていたお話と違うようですが」

 

 店員の視線はララとココの二人に注がれる。


 なるほど、この店員は地下の店の関係者だったか。

 おおよそ、間違っても地下から商品が逃げ出さないよう見張っているとかそんな所だろう。


 僕は店員に返答をする前に急いでお皿の上の料理を口に放り込む。

 そしてコップに入ったオレンジジュースを一気飲みして口を開いた。


「ふぅ、ナイスタイミング。丁度こちらも食事が終わった所だ」

「それで、なにか申し開きはございますかお客様?」


「申し開き? そうだね、今度からはトイレも商品として並べておくべきだ」

「……舐めてんのか? テメェら全員死ぬぞ」


 殺気立った男達の異様な雰囲気を感じ取った客や一般店員は次々と店から逃げ出していく。

 残ったのは僕らと僕らを取り囲むムサい男達だけ。


 男達はナイフや剣を取り出し僕らを威嚇する。

 僕はそれを見て悠然と立ち上がり指示を出した。


「それじゃアイン、ヴィリアン、ローズ。コイツらと増援は君達に任せた。聖王が眠っている場所で会おう」

「そうこなくっちゃな! オラオラ、全員俺だけに掛かって来やがれ!!」

「仕方ありませんわね。わたくしの親友と妹分を救い出してくれたお礼にここは従いましょう」


 そうして定食屋での戦いが幕を開けた。




 先に定食屋を後にした僕達の耳には、ローズの悲痛な叫びが聞こえてきたとか、いないとか。


「ま、待てあるじ!! あたしをこんな化け物共と同じグループにしないでくれぇーーッ!!」

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