第255話 魔王からは……



「災厄の本体はまだ別にいると?」


「確信がある訳ではない。ただ、先程見せた災厄の行動……本体が地中深くに居てもおかしくないのではないかと思ってな」


 体を分裂させたり、地中からピンポイントで触手を伸ばしてきたり、融合したりと……中々いち生物としては無茶な動きをしてたよね。


 スライム的な存在ならありなのかなぁって思わなくもないけど、そもそもスライムってファンタジーものの創作物でしか知らないし……本当にこの世界に居るのかどうかもわからん。


 まぁ、相手がスライムだろうと全く別の存在だろうとなんでもいいけど、災厄が完全に倒せたかどうかは別問題。


「地中深くか……」


「アレがどうやって地中に潜んでいたのかもわからないしな。俺たちを攻撃する時は大地を割って出てきたが、最初の巨大な木の姿で出現した時は大地が荒れている様子はなかった」


 あの木が派手に登場していたら、もっと早くリーンフェリアたちが気付いていただろう。


 ってことは、どこかからこそこそ移動してきてからあそこで急に巨大化したか、地面から染み出るように現れてから急成長したか……あとは空から降ってきたか?


「エインヘリア王が倒した災厄ともう一箇所の災厄。その二匹が分体に過ぎない可能性か……確かに災厄の生態は全く把握できていないし、その可能性は否定できないな」


「一応、災厄の体の一部は回収を試みたが、普通の袋では回収出来なくてな。魔道具にも回収を試みたが、そちらも上手くいったかどうかはまだわからん。我が国の研究者たちも予測しか出来なかったからな……」


「いや、我が国は当事者にも拘らず災厄の調査すら出来ていなかったのだ。色々な可能性を考え動いてくれた貴国の研究者たちには頭が上がらないよ」


 そういいながら困ったような表情を見せる魔王。


 確かに百年以上その脅威に晒されていたのに、全くといっていい程災厄の情報が無かったからな。


 昨日今日災厄の存在を知った俺たちが災厄の生態について知らないのは当然にしても、魔王国も同じレベルってのはあまり宜しい状況とはいえない。


 まぁ、調査する事自体が不可能に近かったとは思うんだけど。


「討伐自体は成功だが……厄介な問題が残ってしまったな」


 俺がそういうと魔王は唸る様にしながら頷く。


「民への説明は慎重にせねばな」


「王都のあの盛り上がり様を見たからな。伝えにくいだろうが……」


 参加したくなかったとはいえ、セレモニーで民の熱狂を目の当たりにした時はやはりこう……がんばらないとなって気持ちにはなった。


 そんな民に、とりあえず出て来た災厄倒してきたけどまだ終わって無いかもー、知らんけど!みたいなことは言えんよねぇ。


 でも……。


「民には包み隠さず伝えるしかないな。今回出現した災厄は討伐できたが、災厄がこの二匹だけとは限らないと」


「それがいいだろう。災厄については我が国も調査を続けるが……災厄の本体がまだいるというのも可能性でしかないからな。あまり気にしすぎるのも良くないだろう」


 そう。


 いる可能性もあるけど、居ない可能性も十分ある。


 これが物語なら百パーいるだろうけど、これは物語じゃなく現実だからね。


「そうだな……」


「また予知夢を見ることがあったら教えてくれ。今回に限らず、我が国は災厄討伐に手を貸すことを約束しよう」


「……感謝する」


 深く頭を下げる魔王に俺は肩を竦めてみせる。


「災厄の討伐は不可能ではなかった。その事実だけでも悪くない話だろう?」


「あぁ。その通りだ、エインヘリア王。そうだな……災厄の討伐は成功した。その事実だけでも国中が湧きたつだろう」


 今まで同時に現れた災厄は二匹。


 それが本当に毎回同一の個体だったかどうかはわからないし、確かめようがない。


 しかし、それを気にして今の喜びを素直に受け取れないのは……やはり健全とは言い辛いよね。


 『夢見の識者』による災厄の予知は確度が高いみたいだし、仮に災厄がまだ生きているのであれば、一年かそこらでまた予知夢を見るだろう。


 最近は出現頻度が上がってきているってことだったしね。


「それを国中に知らしめるためにも……式典は盛大にやらないとな」


 にやりと笑みを浮かべながら、俺に向かって言う魔王。


 その笑みに嫌なものを覚えた俺は、突き放すように言葉を返す。


「精々派手にやるといい」


「当然、お前たちにも参加してもらうぞ?」


「……俺はいなくてもいいだろう?」


「何を言っているんだ。災厄を討伐した英雄……今回の式典の主役だろう?」


 やれやれとでも言いたそうにしながら魔王がそういうけど……正直今回に関しては俺じゃなくてもいいと思う。


 確かに災厄の討伐はしたけど、魔王国の民的には魔王を主役に討伐成功したぜ!ってやったほうが絶対盛り上がるだろうし、納得するはずだ。


 他国の王が災厄やっつけたぞ!って全面に押し出していくよりもいいんじゃないかな?


 別にそこまで魔王国の人たちの好感度は必要ないし、魔王には今まで以上に国内人気を稼いでもらいたい。


 魔王国に限らずだけど、近隣諸国は安定している方が俺としては助かるし、成果としても十分だ。


 こちらの世界に来た直後と違い懐も温かいどころじゃないくらいに余裕があるし、何より……キリクたちはもう次の場所に目を向けている。


 こちらの大陸でのけじめはもう十分つけた。


 災厄に関しては俺の個人的な理由で討伐させて貰ったけど、後はお互い友好的に近所付き合いをしていきたいと思う。


 そしてそこに式典参加の必要性を感じない我覇王。


「……さすがに式典ともなれば、それなりに準備期間を要するだろう?俺はお前たちを王都に送ったらそのまま帰国する。予想より早く討伐完了したとはいえ、あまり国を空けておくわけにもいかんしな」


「そうだな……確かに、今度の式典は盛大にやるつもりだし、準備期間はそれなりに必要だ。災厄の討伐もこんなあっさり終わるとは思っていなかったし、凱旋セレモニーはすぐにやるとしても……正式な式典は最低でも一ヵ月はかかるだろう」


 一ヵ月でも十分早いと思うけど……どちらにしても一ヵ月も待てないね。


 残念!


 凱旋セレモニーは……さすがに参加してあげようと思うけどさ。


「しかし、つい先日災厄討伐に向かうと演説を打ったばかりなのに、もう凱旋か……王都民の呆気に取られる顔が目に浮かぶな」


「くくっ……それは仕方ないな。式典の方はノーフェイス……いや、誰かまた寄越すとしよう」


 エインヘリア国内だったら問題ないけど、さすがに他所んちでノーフェイスの格好は……マズい気がする。


 いや、変装しちゃえばあり……いやいや、いっそのこと俺に変装して貰えば!


 ありよりのありじゃね?


 ……いや、ダメだ。


 ノーフェイスに面倒事を押し付けるのは間違ってる。


 外交官の仕事として頼むのであれば、俺に変装するのではなくノーフェイス本人として参加してもらうべきだ。


「……今、ノーフェイス殿に自分の格好させて式典に出れば……みたいなこと考えなかったか?」


「……さてな」


 バレとる!?


 まさかこの魔王……心が読めるのか!?


「もし俺にノーフェイス殿のような部下が居たら……代理に出席させただろうな」


 苦笑しながら言う魔王。


 考えることはみんな同じって事か……ノーフェイスの能力ばらすんじゃなかったかな。


 

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