第138話 ほうれんそう
ランティクス帝とヒルマテル公爵の事をすっかり忘れていたけど、寸前でレヴィアナの事を思い出したおかげで、何食わぬ顔で連中に一言挨拶をしてから帰路へと着いた。
まぁ、ホストが真っ先に帰るってのおかしな話だとは思うけど、今はそれどころではないので勘弁してもらいたい。
というか、向こうも早く帰りたそうだったし……あそこは別に俺の家って訳じゃないし、後はご自由にお帰り下さいってなもんですよ。
ヒエーレッソ王国の連中は何か俺と物凄く話したそうにしていたけど、ヒルマテル公爵が牽制しているようにも見えた。
俺は特に用事がないから請われてもスルーするだけだけどね。
それよりも、本当はレヴィアナを連れて帰って来たかったんだけど、流石に接待役だったレヴィアナまでお先に失礼します……とはいかなかった。
まぁ、レヴィアナの所にはアシェラートが残り、撤収が済み次第連れて帰って来てくれることになったのは、本当に助かったと言える。
アシェラートやレヴィアナも飛行船に興味津々だったし、乗りたかったとは思うけど……今度改めて遊覧飛行にでも連れて行ってあげるから許してください。
さて、そんなわけで一路、レグリア地方の城に向かって飛んでいる訳だけど……まぁ、一時間もかからないで到着するはずだ。
この間に俺がやるべきは……。
「「……」」
色々終わって飛行船に戻って来た瞬間、崩れ落ちるように甲板に伏せてしまった三人を立ち上がらせることだろう。
「リーンフェリア、エイシャ、オトノハ。顔を上げてくれ……」
「申し訳……申し訳ありません……。私達は、フェルズ様を御守りすることが……」
今まで戦場に居たという事で色々我慢していたのかもしれない。
彼女達の悲痛な想いは、言葉にされずとも伝わってくるが……俺の方は頑張って言葉を尽くすしかない。
「アレはお前達のせいではないだろう?俺も咄嗟に反応できなかったし、事故のようなものだ。お前達が気に病む様な事は一切ない」
「ですが!私はフェルズ様の近衛騎士……フェルズ様の盾なのです!なのに……」
「リーンフェリア、エイシャ、オトノハ……そしてこの場に居ない皆の気持ちを完全に理解してやれるとは言わん。悔しかっただろう。怒りを、無念を、無力感を覚えただろう。しかし、それはお前達の責任ではない……いや、その可能性を知りながらも対策を講じなかった俺の責任だ。だから、謝らないでくれ……お前達がこうして俺を迎えに来てくれた。その事実だけで、俺は心の底から喜んでいる。それが偽りなき想いだ」
「「……」」
「悔恨に沈む姿よりも、再会を喜ぶ姿を見せてくれないか?」
「……はっ!」
「
「アタイも……フェルズ様にそう言われちゃぁね。反省と対策は引き続きやらせてもらうけど……後悔はさっきので終わりにするよ」
俺の言葉にようやく三人が顔を上げてくれる。
よ、良かった。
アシェラートのお陰で一度空気は軽くなったけど、俺達だけになった途端飛行船が墜落するんじゃないかってくらい空気が重くなったからな。
まぁ、命令して切り替えさせたようなもんだけど……彼女達の表情から暗いものが一切消えているので、大丈夫だと思いたい。
「ひとまず船内に移動するか。積もる話もあるが……今後のことについて話をする必要がある」
「「はっ!」」
俺の言葉に頷いた三人を連れて、俺は飛行船の船内へと移動する。
……正直、今すぐにでもフィオに連絡をしたい。
でも、ちょっと奥さんに連絡したいから一人になりたいんじゃけど……って非常に言いにくいよね。
いや、普段であれば……部屋に入らないでくれってひと事言えば済むんだけど、今このタイミングで一人にしてくれって言っても絶対リーンフェリアは納得してくれないと思う。
かと言って、リーンフェリアに見られながらフィオと話をするのは難易度が高い。
フィオとの会話は……素が出ちゃうからな。
そんな事を考えながらサロンに辿り着いた俺は適当な椅子に腰を掛ける。
すぐにリーンフェリア達も椅子に座り……いつ用意したの?って手際でプレアがお茶を淹れる。
それはそうと、俺が座れって言わなくても座ってくれるようになって嬉しいよ。
「オトノハ、城に着いたらすぐに魔力収集装置の設置を始めてくれ。作業を手伝える人材が居ないから一人での作業になってしまうが……」
「ははっ、大丈夫だよ大将。五日はかかっちまうけど……」
こっちの世界に来た最初の頃、他の開発部の子達と設置して五日かかっていたのに……一人で同じ時間で出来るようになったのか。
それって、オトノハ一人で二人……いや、三人か四人分働けるようになったってことだよね?
凄すぎひん?
「十分だ。よろしく頼む。設置が終わればようやく城に帰れるな。一応フィオやキリクから話は聞いているが、向こうで何か問題は起きていないか?」
「国内では特に問題は起きておりません。海の向こうから来た者達への対応が中途半端ではありますが……」
俺の問いかけにリーンフェリアが生真面目な様子で答える。
あぁ、そういえば大陸の外から船でやってきた連中……ほったらかしだったな。
「あぁ、連中か。言語の習得および連中の本国の情報は可能な限り得ているんだったな?」
「はい。クーガーとシャイナが徹底的に情報を搾り取りました」
外交官が二人がかりで徹底的に……怖すぎる。
「あの愚か者共の本国は南方にあるようです。この大陸程離れた位置には無いようですが……」
「ふむ。こちらが片付いたら、次はその連中にもきっちり我が国の事を知らしめる必要があるな」
すっかり忘れていたけど、外洋を渡る技術を持っている国だ……技術的にはうちの大陸やこっちの大陸以上のものを有しているという事だろう。
油断は出来ないが、同時にうちの子達が居ればどうとでも出来ると思ってしまうのは……久しぶりにリーンフェリア達に会えて、気が大きくなっているのかもしれないね。
しかしアレだな……何とか迎えが到着する前にオロ神教とオロ神聖国をどうにかしたかったけど、いざ合流してみたら……リーンフェリア達も自制が効かない程じゃないみたいだし、俺の威厳的なものにもダメージが入った様子はない。
慌てる事は無かったかもしれないな。
「リーンフェリアがここに居るという事は、フィオの護衛はサリアかレンゲか?」
「はい、サリアとレンゲが担当しています。カミラと私が今回探索担当なので、二人が護衛を担当となっています」
「そうか。フィオにも合流出来たことを知らせないとな」
俺がそう言うと、三人が穏やかな笑みで頷く。
……でも席から立とうとはしないけど。
うん……なんか、人に見られながら電話とかするのって、妙に気恥しいというか、やり難くない?
いや、そもそもこの子達は電話を知らないか。
……とはいえ、流石に今フィオに連絡するのは無理だ。
そうだ、キリクにしよう。
俺はどこぞの古都に行くようなノリでキリクに連絡することを決める。
「キリク、聞こえるか?」
フィオに連絡しないとなって言った直後にキリクに『鷹の声』を繋いだことを疑問に思われるかもしれないけど、深く考えてはいけない。
『フェルズ様!聞こえております!どうされましたか?』
とても元気なキリクの声を聴きつつ、今向こう夜中じゃね?と気付いてしまった。
「すまん、キリク。寝ていたか?」
『いえ!問題ありません!』
その返事は……つまり寝てたってことだよね?
「変な時間に済まない。急ぎ伝えておくことができたのでな」
『何か問題でしょうか?』
「いや……先程、リーンフェリア達と合流した」
『おぉ!!あっ……失礼いたしました』
「くくっ……気にするな」
バツが悪そうに謝るキリクに笑みがこぼれる。
心の底からキリクが安堵しているのが伝わってきたが、他の誰に連絡をしても同じような反応をしてくれることだろう。
うん……早いところフィオに連絡しないと、後が怖いな。
何とか一人になるタイミングを見つけたいものだが……。
『はっ……リーンフェリアと合流したという事は、オトノハも一緒ですね?』
「あぁ。魔力収集装置の設置が済み次第、一度そちらに戻るつもりだ」
『はっ!フェルズ様の御帰還をお待ちしております!』
……なんか式典とか準備しそうで怖いな。
「大仰に出迎える必要はないからな?」
『はっ!承知いたしました!』
物凄く朗らかな感じに返事をするキリク。
うん……なんか危険な香りがするから、フィオにお願いしておこう。
『今回の探索は、リーンフェリアチームとカミラチーム、シュヴァルツチームの三チームが行っておりましたが、リーンフェリアチームのお手柄でしたね』
「ふむ。三チームも出ていたのか。カミラチームとシュヴァルツチームは誰がいるんだ?」
『カミラチームには、クーガーとイルミット、コリン。シュヴァルツチームにはリオ、ロッズ、ケインです』
どちらも遠近のバランスが良いチームだ……それにコリンとケインは開発部だし、魔力収集装置の設置もばっちりってところか。
しかし、イルミットはちょっと意外な人選かもしれない。
「イルミットが城を離れて大丈夫なのか?」
『はい。彼女が探索に出る時は、その仕事は私が。私が探索に出る時は彼女がその仕事を引き継げるように整えております』
「ふむ。お前達が大丈夫というのであれば問題はない」
他のチームの子達にも連絡を入れて帰還を促すか……そんなことを考えているとプレアがリーンフェリアに耳打ちをする姿が目に入った。
「フェルズ様。お話し中申し訳ありません。目的地に到着したようです」
何かあったのか俺が尋ねるよりも早く、リーンフェリアが報告してくれる。
「分かった。キリク、また後で連絡を入れる」
『はっ!畏まりました!』
……寝てていいんじゃよ?
「そちらの日が昇ってから連絡を入れるからゆっくり休んでくれ」
『はっ!ありがとうございます!』
……これで多分大丈夫。
一抹の不安を覚えつつ、俺は立ちあがり飛行船から降りるべく甲板へと向かった。
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