第233話 フィーーーーーッシュ!!



「ありえない……まぁ、分かっていて言っているのだろうが、中々良い性格をしているな、エインヘリア王?」


「そうか?分かり切った事であろうと、確認は必要だろう?俺の知る限り、喉元に剣を突きつけられることで相手の信頼を得ようとした国もあるしな」


 何処とは言わんけど……いや、最初はそれしか選択肢が無かったのだろうけど。それが常態化して、上層部も民も剣を突きつけている国に任せておけば良いと考えるようになったりすることもあるからね。


「ふ……平時であれば何の問題も無いのかもしれぬが、一度情勢が変わればあっという間にその国は無くなるだろう。そもそも、情勢が変わらずとも他国の気分一つであっという間に窮地に陥る国に、誰がその身を預けるというのだ?」


「くくっ……そうだな。信頼出来る出来ない以前の問題だ」


 さて、そんなたとえ話はどうでもいいとして……どうしたものかね。


 元々今回の件で帝国に魔力収集装置の設置が認められるとは思っていない。キリクの計画もそうではないしね。


 魔力収集装置の機能を伝えなかったとしても、そんな得体のしれない魔道具……の様な物を、自国内の全ての集落に設置するなんて認めないだろうし、機能を伝えたら尚更認めないだろう。


 『魔物や人族、妖精族の狂化を防げるよ!でもその代わりエインヘリアは自由に転移して、召喚兵を呼び出せるけどね!』って受け入れる国があるわけがない。


 仮に、簡易版の魔力収集装置で転移や通信機能がないタイプの設置を提案したとしても、自分達では理解出来ない技術で作られた物を受け入れることはないだろう。


 なんせ、本当にその機能がないかどうか分からない……突然大爆発するような兵器であったりする可能性もあるのだ。


 出来る事は証明できても出来ない事は証明できない……それを証明できるとしたら、自国の信頼できる技術を持った者だけだろうけど……魔力収集装置の解明は無理だろう。


 少なくともエインヘリアに所属する研究者たちは、全然理解出来ないけど何故か動く……そんな感じらしいし、オトノハ達にとっても、魔力収集装置とはそういう物だって感じみたいだからね。


 原理だなんだは説明が出来ない……ゲームの設定でもそこまで細かく作り込まれていなかったと割り切るしかない。つまり、安全の保障なんてものは何処にもないのだ。


 思考が少々逸れてしまったが、結局こちらの要求したい事を帝国が受け入れる余地は現時点では欠片もない……それで十分だ。


 皇帝の言う通り聞くまでもない事だけどね。


「誠意を見せる事と媚びへつらうは別だ。そして我等が貴国に見せるのは媚ではない」


 そう言って、こちらに鋭い視線を向けて来る皇帝。


 その姿はどう見てもこちらにビビっている様には見えない……ううむ、圧倒的な技術力の差を見せつけてビビらせる作戦だったはずだけど、皇帝には効いて無くない?


 なんか、今にも『よろしい、ならば戦争だ』的な感じの事を言い出しそうな雰囲気がある。


 いや……今までいろんなお偉いさんと話す機会はあったけど、こちらが既に戦争に勝利しているか、圧倒的に有利な状況でしか相対することはなかった。


 そんな状態だった彼等は、勝ちをもぎ取るというよりも、これ以上負けないという雰囲気の方が強かった。


 しかし、皇帝は違う。


 隙あらば食い殺す気満々、自分達はいつでもお前を殺せる……そういった、対等な敵に対する目で俺の事を見ている。


 うぐ……いや、ここまで想定通りだし、何も失敗してない……と思う。


 このまま最後まで行けば問題ない……出来ればとっとと終わらわせ帰りたいけど、慌てる様な素振りは敵にも味方にも見せられない……もっと、もっと強気に押して行かねば!


「かの大帝国を侮るつもりなど微塵もなかったが……皇帝、やはり素晴らしいな」


「……何が言いたい?」


「いや、我々の事を必死に調べたようだが……あまり調べることが出来なかっただろう?それなのにその姿勢、感服するな」


 俺が皮肉気に口元を歪ませながら言うと、皇帝は一切の反応を見せなかったがその周りを固める者達の間に動揺が走った。


「必死と言われると少し語弊があるように感じられるが……確かに貴国の情報はあまり多いとは言えないな。いや、我々も貴国を侮るつもりはないのだが……やはり新興国の情報は少なくなってしまうよ」


 しかし、皇帝の言葉ですぐに周りの者達の動揺が収まる。


 うん、カリスマ……いや、統率力?もばっちりだね。


「なるほど……確かに我々の国はあまり知られていないだろうな。貴国に限らず周辺諸国で我々の事を詳しく知る国は……まぁ、ルフェロン聖王国くらいだな」


「……ルフェロン聖王国か。そういえば貴国はあの国を傘下に収めたのだったな」


「傘下に収めたか……ふむ、庇護下に置いたというのが正しくはあるな。聖王殿から直々に助けを求められたのでな」


「確か、ルフェロン聖王国の聖王は年端も行かぬ少女だったと記憶しているが……」


「そうだな。しかし中々見どころのある人物だよ」


 うん、多分エファリアの王としての器は、ヒューイよりも上だと思う。


 後、俺よりも確実に。


 俺とヒューイどちらが上かと聞かれたら……アレには負けてないと思いたいけど、アレはアレで王様っぽいんだよなぁ。


「ほう。エインヘリア王がそう評価するとは……一度会ってみたいものだな」


 おっさんの事はさて置き……この皇帝にエファリアを会わせたくないなぁ。


 エファリアが裏切るとは思えないけど……流石にこの皇帝相手じゃ、いくらエファリアでもいいように使われそうだしな。


 って人の心配している場合じゃないか。


「それはそうと、皇帝。あまり我々の事を知らないとのことだが……そちらのリズバーンから色々と聞いているのではないか?」


「……」


 俺は顎で皇帝の近くに座っているリズバーンを示す。


 当の本人は、俺がこの場に来てからずっと穏やかな笑みを浮かべており、何を考えているのか一切読めない。


 やっぱり一つの感情だけを見せ続けるってのは、考えを隠す手としては有りだな……まぁ、俺には無理だけど……。


「仮に……我等の技術があれば、帝国の統治がどれだけ楽になるか。考えた事があるのではないか?」


「……そうだな。転移……というものがどのくらいの事が出来るのかは知らぬが、今帝都の外に停まっている飛行船……あれがあるだけでも、随分と帝国内が狭くなるであろうよ」


「であろうな。聞けば帝国は、主な移動手段として馬車を使っているとか?はっきり言ってアレは乗り心地が悪いな。いや、道のせいもあるのだろうがな?」


 俺がそう言うと、何人かが不快気に顔を歪ませる。


「今我が国では街道整備を進めているが……ふむ、快適な馬車も開発するべきか?」


 俺は皇帝ではなく、隣にいるキリクに話しかける。


「馬車ですか。陛下がお使いになられることはないかと存じますが……」


「くくっ……当然だ。だが、民は使うであろう?折角街道整備を進めたのだから、そこを走る馬車も我々が良い物を作ってやるべきではないか?」


 暗に馬車なんか民くらいしか使わんやろ?と言ってみる。


 先程帝国が俺達を迎える為に出したのは、非常に豪華な馬車だったからね……相手さんはさぞ憤懣やるせないと言った感じだろう。


 でも、飛行船という代物を見せつけられて、うちの馬車凄かっただろ?とは言える筈もない。


 言える奴がいたとしたら、そいつは多分記憶力に絶大な欠陥を持っている。


「なるほど……でしたらいっそのこと、馬に牽かせるの止めるのは如何でしょうか?」


「なるほど、自走する車か。どうせ開発するならその方が良いか……そうそう、馬車とは違うが、実は鉄道と言うものを考えていてな?」


 完全にスラージアン帝国の面々を無視して、俺はキリクとの会話に耽る。


 向こうの様子を確認する限り、皇帝やリズバーン、宰相はともかく、他の面々はめっちゃ怒ってる感じだな。まぁ、当然だろうけど。


「鉄道……陛下。その件については後程詳しくお聞かせいただきたいのですが……」


 帝国に見せつける為にふった会話だったけど、キリクがちょっと本気で食いついた気がする。


 ちょっと目の色に本気が見えた……。


「ん?そうか?ならばもう帰るか?」


「よろしいので?」


「俺が興味があったのは、スラージアン帝国ではなく皇帝本人だからな」


 俺が肩を竦めながら言うと、帝国側の出席者から怒気が膨れ上がる。


「……私に興味?」


 皇帝が反応したので、俺はキリクとの会話を止めて皇帝へと向き直る。


「あぁ。スラージアン帝国の現皇帝。俺はお前に興味があった。だからわざわざ俺自身がここまで来たのだ」


「……どういう意味だ?」


 ほんの一瞬、能面の様だった皇帝の表情が揺れたが、それはすぐに消える。


 一瞬だったからそれがどんな感情かは分からなかったけど……。


「そのままの意味だ。先々代と先代によって大きくその領土を広げたスラージアン帝国。だがそれは野蛮な力で殴りつけ奪い取っただけ……帝国領ではあっても帝国その物ではなかったと言える」


 俺の言葉に、皇帝の右手側に座る者達が顔を怒りに染め、その中の一人が椅子を撥ね飛ばすように立ち上がった。


「貴様!帝国を愚弄するか!」


 顔を真っ赤にしながら怒声を上げたその男……皇帝の座る位置からそれなりに離れた場所に座っているし、そこまで重役という訳ではないのだろうが……それでもこの場に座る事が出来る程度には偉い筈。


 うん、皇帝相手にするよりアレを弄った方がやり易そうだな。


 そう思い俺が口を開こうとしたのだが……それよりも一瞬早く別の人物が声を上げた。


「ビフロ!貴様一体何を考えておる!」


「か、閣下……!しかし、奴は……!」


 皇帝のすぐ傍……宰相とは反対側に座る人物が、先程立ち上がった人物に対し叫ぶ。


 その迫力は中々の物で、直接怒鳴られたわけではない俺も下っ腹に力が入ってしまう。


「馬鹿者!!」


「ぐ……で、ですが……」


 おっと、そろそろ口を挟まないとアレが退場させられてはマズいな。


「くくっ……驚いたぞ?」


 俺の言葉にこの場が一気に静まり返り……俺に注目が集まる。


 いや、まぁ、皇帝と一対一で話している時から常に注視されていたけど……一度外れた視線が集まると、なんかこう……色々来るものがあるよね。


 俺は不敵な笑みを消さないように表情筋を応援しながら、ゆっくりと口を開いた。


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