第158話 北と西の話



 ドワーフ達のエインヘリア観光にはついて行かず、俺はキリク達と共に会議室に居た。


 因みにドワーフ達の案内役にはヘパイがついているが……その人選の時点で観光内容が推し量れるという物だ。


 まぁ、彼らの観光の事は置いておこう、それよりもこれからギギル・ポーの事も含めてエインヘリアの今後についての話し合いをしなければならない。


 最近ギギル・ポーの事で色々と忙しかったから、ちょっと自国の事がおざなりだったところもあるし、真面目にやらないとね。


「フェルズ様。ギギル・ポーおよびドワーフの併合、誠におめでとうございます」


 会議の始まりに、キリクが代表して祝賀の言葉をくれる。


 うん……その件については、すごくびっくりしたけどね?


 まさかギギル・ポーを併合することになるとは思ってなかった……普通に協力してもらうつもりだっただけだし……。


 何がドワーフ達の琴線に触れたのか……いや、まぁ、未知の技術ってやつだろうな。


 自分達の好きな事にどこまでも真っ直ぐなドワーフ達だ、あの技術が学べるなら国とかどうでも良くない?寧ろ国を渡してしっかり面倒見て貰った方が色々良くない?みたいな感じで軽く決めたんじゃないだろうか?


 うん、物凄くありそうだな。


「これで開発部の人材不足も解消できそうだな」


 キリクの言葉に微笑を返した俺は、狙い通りと言った雰囲気を滲ませながら言う。


「あぁ、ドワーフ達は流石に器用だし魔力の扱いに関しても悪くない。簡易版の魔力収集装置の設置は、来週あたりから現場に出られると思うよ。まぁ、まだ暫くは一基設置するのにあたい達の倍くらいは時間がかかるだろうけど、慣れてくれば手際も良くなるだろうしすぐに戦力になってくれる筈さ」


「頼もしい限りだ。その調子でドワーフ達の教育を頼む」


 オトノハの報告に俺が満足気に答えながら笑みを浮かべると、オトノハの表情が一瞬固まったが、すぐに元気に了承を告げて来る。


「あ、あいよ!任せとくれ!」


「それと、ドワーフに教える魔力収集装置の件だが……今後オトノハが信用出来ると思った相手に転移、通信機能ありの魔力収集装置の設置についても習得させていいかもしれん」


「そうですね。相手は厳選する必要がありますが、その方がドワーフ達をより効率的に動かすことが出来ると思います」


 俺の案にキリクが賛同してくれたのでほっと胸をなでおろす。


 魔力収集装置はうちの中でもトップクラスの機密だけど、ドワーフ達が自ら併合を望んで来た以上、技術の流出を恐れる心配は以前に比べれば格段に低下している。


 それならば限られた者にのみ上位の技術を習得させることで、より高みを目指そうと奮起させた方が色々と扱いやすくなるはずだ。


 技術力に関しては問題ないと思うが、ドワーフ達はノリで色々とやらかしそうな雰囲気があるから、その辺だけはしっかりと管理しておかないとね……。


「大将、ドワーフ達の扱いだけど、魔力収集装置以外の部分に関しても教えて行ってもいいかい?」


 オトノハの質問に、俺は少しだけ考えるようなそぶりを見せる。


「そうだな……開発部によって開発出来るアイテムや装備は、ドワーフ達の目から見ても格別の性能を持っている事が分かった。俺達にとってはわざわざ使う必要の無いようなヒートナイフや下級ポーションであってもだ」


 俺の言葉に会議室にいる全員が頷く。


 それらのアイテムを、どうやって開発部の子達が作っているかは俺も良く知らないけど、オトノハが技術を教えると言っている以上ドワーフ達でも習得可能な技術なのだろう。


「技術とはそのまま国力に直結する力だ。むやみやたらとそれを教え広めることは避けたいが、だからと言って秘匿するだけでは新たな発想や技術を得る機会を喪失するだけとなろう」


 開発部で生産できるアイテムが俺達を脅かすことが出来る程強力かと聞かれれば、それは否だ。


 勿論、レギオンズのゲーム時代に手に入れた素材を使えば、最強クラスの汎用装備を作る事は出来る。しかし、ゲーム時代のボスモンスターの素材なんかは、この世界で入手する事は出来ないだろう。


 貧乏性な俺は、例え大量に在庫があったとしても補充出来ない素材をホイホイと使いたくはないのだ。


 ドラゴンの血の様に代用出来る物は見つかるかも知れないけど……魔王の角とか邪神の欠片とか……何かで代用できる気がしない。フィオに角は生えてないし、邪神の欠片なんてどこの欠片かすら分からん……。


「ドワーフ達に技術を教えるのは構わん。オトノハ達もドワーフ達から学ぶこともあるかも知れんしな。その結果、今までには無かった新たなアイテムや武具が生み出されるかもしれんし、その可能性は十分にあると言えるだろう。だが、そうやって生み出されたものは、我々の制御下になくてはならない」


 技術は一度外に流れてしまえば、確実に俺達の敵の元までたどり着くことになる……現時点で明確な敵ってのはいないけど、将来的に敵になるであろう奴らはいくらでもいる。


「魔力収集装置と同じように段階を追って教えるって感じかい?」


「そうだな。それと、教えるのは下級レシピかつ今現在我々が素材を入手する事が可能な物のみとする」


「じゃぁ教える技術も『下級職人』以下ってことだね?」


 オトノハの確認に俺は頷いて見せる。


 オトノハが今言った『下級職人』とは生産系のアビリティで、これを持っていないと下級レシピで生産可能なアイテムを製造することが出来ない。


 その上には『中級職人』『上級職人』『高級職人』と続きそれぞれのレシピがあるのだが、ドワーフ達に見せたヒートナイフや下級ポーションなんかは『下級職人』で生産する事が可能なので問題ない。


 万能薬は無理だけど……まぁそれはいいだろう。


「あぁ、まずはその辺りで様子見だな。どちらにせよ中級以上のレシピは素材を安定して得る事が出来ないから、教えたところで生産は不可能だろうが……『中級職人』以上の技術はあまり教えたくはないな」


 アビリティによって得られる技術がどんなものか知らないけど、レシピ以上に技術は危険だろうしね。


「分かった。その辺は気を付けておくよ」


「ならばドワーフの件についてはオトノハに任せるとしよう。キリク何かあるか?」


「ドワーフ達の技術や運用に関してはありません。ギギル・ポー地方に派遣する代官の件ですが、こちらで選出を進めておりますが、よろしいでしょうか?」


「あぁ、問題ない。キリク達が最適な人材だと判断して任命したのだから否はない。良くドワーフ達を治めてやってくれ」


「畏まりました」


 ドワーフ達を治めるのに人族の代官で大丈夫なのだろうかとか、色々と気になる所はあるけど、下手に俺が口を挟むよりもキリク達に任せておいた方が良いからね。


 そう考えた俺は今度はウルルに問いかける。


「ウルル、例の魔道具についてだが、何か分かったか?」


「魔道具は……オスカーと開発部に……調べて貰ってるけど……まだ有力な情報は……ない。でも……ドワーフ達から……三か月程前に……坑道付近をうろつく……人族らしき者を見たと……」


「ほう?」


「今……そいつの足取りを追ってるけど……ギギル・ポーの外での追跡は……難しい……」


 街を出たら山だしな……情報が人族かもってだけじゃ、ギギル・ポーの外で聞き込みをするにしても弱すぎる。


「分かった。あの魔道具を採掘場に設置した者とは、いずれぶつかるはずだ。調査の優先度は高めに考えておいてくれ」


「了解……です」


 採掘場の魔物の腹にあった魔道具は、やはりというか当然というか、他の魔物に占拠された採掘場でも見つかっている。


 それだけ各地で動いたのだからもう少し情報があるかと思っていたのだが、相手も中々用心深かったようだな。まぁ、そのくらいの用心は当然だろうけど。


 それにしても人族か……いや、そうと確定した訳じゃないけど、ここで魔族の名が出て来ていれば色々と推測が進んだんだが、まぁ、仕方ないか。


 別に種族ごとに対立している訳でもないし、人族と魔族や魔神が手を組んでいてもおかしくはない……魔術回路の技術は人族の物らしいしね。


 魔神と人族が手を組むか……あの魔道具の技術的な事だけで考えれば、一番怪しいのは東の方にある魔法大国ってところだが……それは流石にあからさま過ぎるか?


 いや、推論は止めておこう……今は少しでも良いから、確実な情報をウルルやオスカー達が発見してくれるのを待つべきだ。


「周辺国の動きはどうだ?」


「ソラキル王国は後継者争いが激化しております。まず継承権第六位の王子……その母親の王妃が早々に継承争いから脱落。当の王子は継承権を放棄の上、母親の母国に移動中野盗に襲われて命を落としたそうです」


 うわぁ……これ以上無いくらいに分かりやすい事に……第六位の王子は幼いって話だったし、中々気の毒だな。本人の意思がそこに無さそうだし。


「そして第四位の王子は事前の情報通り継承権の放棄を帝国で宣言、留学期間終了後もソラキル王国には戻らないと言っているそうです」


 第四位の王子は決断も動きも早いね……まぁ、母国を捨てるって判断だけど。こいつが王になっていたらソラキル王国は中々面倒な国になっていたかもしれないね。


 まぁ、一瞬で降伏する可能性もあるけど……裏でこそこそやりそうで気が抜けない感じがする。


「第三位の王女は以前と変わらず全く動いておりません。少なくとも表向きは完全に静観しているようです。そして第二位と第五位が手を組んだ勢力ですが……第二位の王子が急死、そして第二位の王子を殺したとして第五位の王子が捕縛され、すぐに刑が執行……処刑されました」


 血みどろだなぁ……それがこの一ヵ月余りの間に……俺がドワーフ達の殴り合いを見ている間に起こったの?


 王族何人死んでるんだよ……いや、多分その勢力の人間も含めたら相当な数が死んでるんじゃ……そうまでして王様なんかなりたいかね?


 うちの子がエインヘリアの王になりたいって言ったら、普通に譲ってもいいくらいじゃが……まぁ、俺は普通の王様連中よりかなり楽をさせて貰っているとは思うけど、それでも結構大変よ?


 少なくとも肉親を殺してまでやりたい仕事じゃないと思うけどねぇ……。


「残っているのは第一位と第三位、そして第七位か。次の王は第一位で決定か?」


「そうとも言えないようです。まだ王が崩御しておりませんし……第一位はまだ継承権を持っている者が残っている以上気は抜けないでしょうし、ルフェロン聖王国での事や、第七位が王位を諦めるとは考えにくいですね」


 確かにねぇ……第七位のクレイジーサイコは、ルフェロン聖王国から逃げ出した情報局の副局長との会話も、端々になんかやべぇ感じを出していたし……。


 暗躍が好きって感じより、権力を握って好き放題するのが好きそうなタイプって感じがした。


 となると……第七位の王子にとって第一位と第三位が邪魔だよな。


 でも第一位にとって第三位は不気味ではあっても、何が何でも排除しなきゃいけないって事も無いだろう。でも第七位の王子にとっては第三位の王女は邪魔……第一位を潰す前にそっちをやるか……?


 いや、第三位は邪魔だけど、それをやったら第一位に野心があるのがバレるしな……そうなると、第一位を先に潰してから第三位ってのがいいのか?


 ……それはそれで、今度は第三位が全力で警戒するか。


 こうなると、何もしなかった第三位の存在が、第一位にとっても第七位にとっても厄介な存在になるな。


 これで人の命が掛かっていないんだったら面白い見物だと思うんだけど……ばりばり人が死んでるからな……流石にそれを楽しめる程、悪趣味にはなれんな。


「ソラキル王国はまだ暫く混乱しそうですが……その終わりはある程度見えて来たと思います」


「キリクは次期国王は誰になると考えている?」


「恐らく第一位の王子は無理です。直情的なタイプですし、今回他の勢力を潰したのも、殆ど第七位の王子の暗躍によるものです。ここまで動いていない第三位か、積極的に動いた第七位……おそらくこのどちらかが王位につくでしょう」


「第三位の目もあるのか?」


「はい。彼女は今まで目立った動きは何もしていませんが……本当に何もせずにここまで生き残る事が出来るとは思えません。私の見立てでは第三位の王女はかなりの狸かと」


 キリクがそう言い切るってことは……王女は随分と厄介な相手みたいだな。


 正直与しやすそうな第一位が王位について貰いたい……後押しするか?


 ……ソラキル王国は潰すつもりだけど、潰しやすそうだからって介入するのも……中々の外道感があるというか……そんなことするくらいなら今すぐ潰せって気もするしね。


 まぁ、王女か王子か……どちらが王になるにせよ面倒くさそうな事には変わりない気もするが、キリクやイルミットが居れば相手の陰謀に翻弄されるような事は無いだろうし問題ないか。


「ソラキル王国に関しては向こうの動き次第だが……誰が王になろうと問題ないな?」


「問題ありません」


 キリクだけでなく、この場にいる全員が俺の言葉に頷く。


 実に頼もしい限りだね……やっぱ俺、だいぶ楽させて貰ってるよな。


 うちの子達を見ながらしみじみと俺がそんなことを考えていると、キリクが口を開く。


「ソラキル王国に関しては以上ですが、以前から私の方で仕掛けていたことに動きがありまして……西の商人が釣れました」


「西の商人……商協連盟か?」


「はい。ポーションの製造元である我々まで、そろそろ辿り着きそうな者が現れました。商協連盟というよりも、連盟に参加している国の一商人ではありますが、使える人材かと」


 キリクは以前から、エインヘリア特有の特産品や開発部で生産できるアイテムの販路を作ろうと画策していたのだが、中々組んでも良いと思える相手が見つからず独自に使える商人を探していたらしい。


 それがようやくお眼鏡にかなった奴が現れたってことのようだ。


 キリクが使えると称するのだから、相当優秀なのだろう……是非ともうちに組み込みたいところだね。


「我々の外交官は優秀ですが、やはり人数が足りませんし……見習い外交官達はやはり重要な仕事を任せるのは荷が重すぎます。ですがその商人の情報網と見習い外交官達を使えば、今まで以上に他国の情報を集められるようになります」


 ラーグレイ王国で革命を扇動させるのは重要な仕事じゃなかったんだな……キリクの求めるレベルの高さが果てしなさ過ぎて、見習い達が可哀想に感じるが……随分その商人の事をキリクが買っているのも伝わって来るな。


 俺はいつものようにキリクにその件を上手くやるようにと全部丸投げしつつ、部屋にいる面々の顔を見渡す。


 人材不足の件もかなりマシになってきた所にキリクの商人の話だ。少しは楽になってきたと考えても良さそうだ……まぁ、その分支配地域が広がり、今後も広がっていくのだからトントンかもしれないけど。


 さてさて、次の相手はソラキル王国か、それとも商協連盟か……それとも全く名の上がっていない第三勢力か……。


 まぁ、どんな相手であろうと、うちの子達が居れば何の問題も無いだろう。


 俺はフェルズ……覇王フェルズ。


 何の因果か覇王になってから異世界に来てしまい、魔王の事は気に入っているが魔王の魔力の事は気に入らない、自分がやりたい事をやりたいようにやる唯我独尊の覇王だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る