レイン・オブ・テラー ~〝卑怯〟をもつエルフ~
まさか☆
第1話 追従と裏切り
「いや~、さすがマレブランケの勇、リビクーコ様です。神に与する人間どもなど、手羽先を捻るように……、否、手羽先を手も汚さずに食すように、イチコロでございますね」
そこには勇者をふくむ冒険者たち、人間の無数の死体が転がる。それを見下ろし、愉悦を得るのは薄い緑色の肌をもち、頭には三本の瘤のようなものが生え、耳が尖る魔族のリビクーコだ。
そんなリビクーコに揉み手、擦り手、満面に愛想笑いをうかべて近づくのはエルフの若い男――。元よりエルフ族は、見目麗しい容姿をもち、またその声はまるでハープを奏でるようだ。それが太鼓もち、阿諛追従してくれるのだから、悪い気がしようはずもない。
「くくく……。人間など、所詮は神どものコマ、ただの雑魚。勇者だの、大魔法使いなどとほざいていたが、モノの数ではないわ。それを殲滅したところで勇を誇ることすら憚られる」
「ご謙遜でございましょう」
「何、キサマが知らせてくれた賜物よ。微力ながら、我が力となった。その方は人族に協力していたのでは?」
「協力? 滅相もございません。わずかな路銀を求め、助力したまでのこと。しかし彼我の戦力差、リビクーコ様のご尊顔を拝し、真に仕えるべき主に目覚めたまでのこと。その手土産にと、物足りないかもしれませんが、冒険者バーティーをさしだしたのでございます」
その結果が、人族の精鋭として結成された冒険者パーティーの全滅――。噎ぶほどの血の匂いが漂う中を、リビクーコは歩く。そこにパーティーのヒーラー役、白魔導士の少女の遺体をみつけた。
戦いの最中から目をつけていた。背中を爪で切り裂いたのも、きれいな顔をのこすため。
そうして絶命し、横たわる体を足で仰向けに転がすと、うっすらと開いた目、口ももう閉ざされることがない。
リビクーコは、神のご加護をうけた聖衣を、その首元から爪で一気に切り裂く。無垢な白い肌、膨らみかけた胸、やっと少し茂りかけた下腹部も、すべて露わとなってしまう。
「久しぶりの人間の体、味わっておくか……」
屍姦――。リビクーコは死んだ少女と、まぐわうつもりだ。何しろ、どうせ魔族の相手をすると、脆弱な人族など、すぐに死ぬ……。死んでいるからといって気にすることもない。
特に、白魔導士は純潔が求められる。そういう相手を凌辱することに、リビクーコは殊更に愉悦を覚えるのだ。
「じゃあ、いただきま……」
リビクーコが少女の股の間に立ち、跪いて前にすすもうとしたとき、背中に焼けるような痛みを感じた。
「キ、キサマ……、何を……?」
リビクーコも体を動かすことができない。首の骨が折れんばかりに、ぐるりと捻ると、そこにはエルフの男が立って、短剣を背中から突き刺す姿があった。
「へぇ。心臓を貫いてもまだ生きているなんて、さすが魔族」
「う、裏切ったなッ⁈」
「仲間になったつもりもないけど……。そう勘違いさせたとしたら、悪いね。ただの思い込みだ」
冷たい目で見下ろしつつ、背中に刺した短剣を抉りこむように、ぐりぐりとさらに奥へと突き立てる。
「冒険者パーティーを贄にして、我に取り入り、油断させた……か。この……、卑怯者めッ!」
「戦略といってくれ。もっとも、オレはその〝卑怯〟で、この世界を生き抜く。誉め言葉と受け取っておくよ」
エルフの男が握った刃、その先から炎が舞い上がり、それが魔族の体を貫いて、胸から噴きだす。それはすぐに魔族の体を内側から焼き尽くし、あまりの苦痛に激しく身悶えしていたリビクーコは、やがて動きを止めた。
死んだ……。不死を謳われる魔族も、内臓から数回も焼き尽くされたことにより、最早復活することさえできずに……。
悪臭ただようそこでただ一人、立ち尽くすエルフの男は高笑いをする。
「これで報酬は、独り占めだ!」
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