第80話 私が恐れているもの

バイト先の心療内科で、常勤の看護師を募集するから、私の契約は8月くらいまでかな、と言われた。


正直、限界を感じていたところだ。

本当ならもう辞めてしまいたい。


私はどこにも必要ない存在だ。


代わりのバイトを探さなきゃ、と今日もバイトを探す。

そして、お小遣い稼ぎに殿方と会う。

全て、お金がなくなるのでは、という焦燥感に駆られて、だ。


鬱状態にいるからか、記憶が曖昧。

でも今日会った人は、好きなバンドも一緒だし、もはやギターとか教えてほしいし、もっと話したいと思った。


身体の関係なく、プラトニックでありたいと思った人。

でも、記憶が曖昧。


私の病気は、何だか忘れっぽいらしい。


私が怖いのは、忘れたくないことも忘れていってしまうことだ。


尊敬する祖父の顔も、おぼろげになっていく。

昔もらった手紙を読み返す。


「父の日には、忘れずに喜ぶ品をありがとう」とあった。


今年も、花を贈った。

もう、受け取る人はいないけれど。


空に行って3年。

でも私は変わらず贈る。


忘れないためにも、やっぱり写真って大事だなって思った。


忘れちゃいけないことは忘れてしまって、覚えてなくていいことはちゃんと覚えている。


人間はポンコツな生き物だ。

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