第3話
「いつまで立っていればいいのよ! 足が痛くなっちゃうじゃないの!」
だったらそんなややこしいデザインに急に変えさせなければいいと思います。
元々は花ではなく、チュールを張り渡らせるものだったのです。
ところが仕立屋から届いたそれを当ててみた途端。
「何これ! ちょっと前に流行った奴じゃない! 今は違うわよ!」
慌てて造花が取り寄せられて、何人かでチュールを外し、その上に造花を仕立屋の指示で上手い場所へと取り付けていきます。
「ああもう、ずっと立っていると喉が渇くわ、レモネードをちょうだい!」
私達、その時お針子役をしていた者達は、非常に嫌な予感がしました。
「あっ」
誰かが声を立てました。
ぐっ、とアリシアが呑んだ時、口の端から数滴が、ドレスの上に落ちたのです。
「きゃ! やだ!」
騒ぐと皆でドレスの裾を持ってる状態ですから、あっちこっちが引っ張られます。
そのせいで、アリシアはバランスを崩して転んでしまいました。
「痛い!」
私を含めた使用人達は真っ青になります。
それにその時、まだ持っていたレモネードが、今度はドレス一杯に降り注いでしまいました。
「ああ、何ってこと……」
仕立屋は涙目です。
いえ無論、私達も涙目です。
「あんたね! レッティ!」
ふと使用人の一人が私の名を出しました。いつも私にせこい嫌がらせをしてくるアルタです。
「え? マニュレットですって?」
いたたた、と尻餅をついたのでしょう、腰をさすりながらアリシアは声を上げます。
「マニュレット! あんたがドレスを引っ張ったの!?」
「……」
さてどう言ったものか。
引っ張って、はいます。
あの状態だったらまず皆そうでしょう。
と言うか、皆で引っ張ったのです。
だけど、ここでそう言ってしまったら、使用人全部の責任になる、とこの時アルタは思ったのでしょう。
だったら「お情けで置いてもらってる」私に全部責任を持ってもらおう。
そういうことでしょうね。
ともかく私は黙っていました。何か言ったら確実に曲解されます。言わなくてもされます。
だったら言わない方がましの様です。
*
――で、冒頭の場面へと移る訳です。
私は扉を開けて、この館から出て――
行きませんでした。
だってここは私の家です。
私はこの家の「すきま」を知っています。
誰も知らない、お母様と私だけの秘密を。
さあ、逆襲の時間です。
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