第10話対等に

「教えて下さい少尉。貴方の事を知りたいんです」


「わ、分かった」


 2年前のナーランド市街地にての再開、半年前2回目の再開。


 結局俺たちは互いの事を何も知らないまま今日まで生きてきた。二人の空白の期間はあまりにも長過ぎたためかマトモな言葉も無くなあなあで過ごしてしまった。


 これでは、何も出来ないし幸せにもなれないのでは無いだろうか。もしかしたらこの時間が全ての空白を埋めるのではないかとそう願い会話を始めた。


「俺は12年前の事件の後、廃墟と化した故郷を後ろに一人でうずくまっていたんだ」


「はい」


 カーマはただ首を頷きながら聞き及んでいた。


「そして幾ばくの時が経ってから若い男が俺を拾い世話をしてくれたんだ」


 そうそれが運命の出会いとも言えるだろう。当時の俺は12歳だったがその人は多分19、20程度だっただろう。


「衣食住どころ魔術まで教えてくれてな、今でもそれが活かせられて師匠には感謝してるよ」


「良い人だったんですね」


 カーマは少し微笑みながら感想を言った。


「良い人だったったのかな。感謝してはいるけど基本指導以外は無口だから結構気まずい思いしてる時間が長かったな」


「そうだったんですか」


「ああ。んで、ある時師匠が魔法を使ってるのは見ちまったんだ」


 その時は大いに動揺したものだ。俺としては魔法の憧れがどこへやら恨みしか持っていなかった。そんなものを次の憧れともいえる師匠が有しているなんてあってはならないものだ。


「俺は怒り狂って問い詰めた。そしたらあの師匠が哀愁を帯びた顔をしながらも苦笑いしつつ言ったんだよ」


「なんと?」


「俺もお前と同じくらいこの力が嫌いだ。でもな、目的の為には必要なんだよってさ」


「…」


「顔とは裏腹にあんまりにも圧迫した雰囲気出すもんだから開いた口が塞がらなかったよ」


 一体どういう意味だったのかは今でも分からない。でも簡単にガキが口を挟んで良いもんじゃないって事は分かる。


「一つ良いですか?」


 突然カーマが質問を投げた。


「どうした」


 俺は先を促した。


「少尉もそうですが何故その師匠も魔術と魔法を併用出来るのでしょうか」


「それが教えてくれなかったんだよ」


 後々師匠が俺にも魔法の資質があると伝えそれも指導してくれたのだが終ぞ使える理由を教えてくれることは無かった。


「普通人間はどっちかしか使えないはずですよね。もしかしたら一人くらいは突然変異として両方使えたとしてその場で偶々出会った二人共扱えるなんて都合が良すぎるとしか…」


「それは俺もずっと疑問を感じていた。だが考えても仕方ない事だしとりあえず保留かな」


 カーマは暫く思案をしてたようだが一向に答えは見つからないようだ。


「すみません、大丈夫です」


「だな」


 答えが見つからないならどうしようもない。カーマも納得したようだ。


「結局さ、俺は魔法を恨んでいたが師匠の言葉もあって生きる術としては必要なものであるって思い直したんだ」


「そうですね、使い方によっては多くの人を助けられると思います。…現に私は昔助けられました」


 最後の言葉は早口ながらも嬉しそうな表情で言われた。カーマの真意が分からず首を傾げてしまう。


「で、俺は使えることを知ったから最大限活用してやろうって今に至る訳だ。カーマこれでどうだ?」


「…はい」


 俺の全てを話したとカーマにさいを投げることにした。


「やはり少尉は何も変わっていませんでした。昔から貴方は強い人だったんですね」


「そんなことないって。流されるままに生きてるだけだよ」


「違います」


 はっきりと否定される。


「少尉の本当の気持ちは違うかもしれませんがそれで助けられた人たちは沢山いるんです!」


「そう…なのか」


「私とペアを組む前も組んだ後もその手で命を救ってきたでしょう?今も魔物を倒したことでこの先にある街から一つの脅威を排除しました」


「それはそうだけど…」


「動機が確かではないにしろ現状の功績は間違いなく存在し続けるんです」


「…カーマ!」


 彼女は涙を流していた。


「私は少尉が居なければ弱いままでした。あの事件の時も2年前も逃げることしか思い浮かば無かったんです。でもいつか強くなった私となり貴方と肩を並べるんです!」


 それはまるで宣言のようだった。とても俺がそんな先を進んでる様には思えなくても彼女にとっては違うのだろう。


「それで半年前から敬語を崩さないのか?」


「はい」


 嗚咽を洩らし眼を赤く腫らしながらも出てくる言葉は確固たるものだ。


「これは仮面なんですよ、少尉」


「仮面?」


「いつか本当に強くなったらこの仮面を外して貴方と対等になるんです。誓いの儀みたいなものかもしれません」


 彼女の石は硬い。そして、何人も彼女の決意を汚してはならないほど高潔である。それにカーマは天才であるという自負を持っていたはずだ。だから俺に対して敬語をするなど相当の決心だ。


 だけど、俺の本心としては彼女といつかの時みたく笑い合いたい。


「俺は…、ふぅー」


「?」


 思わず緊張して言葉が途切れてしまう。中々に恥ずかしいものだ。


「俺の気持ちとしては強いとか弱いとか関係なくずっとカーマと対等にいたい」


「し、少尉…」


 少し告白みたいだなと内心茶化しながらも続ける。


「でもカーマの気持ちも大事にしたい。俺の気持ちは押し殺してでも君の誓いを守りたいって思うよ」


「そう…ですか。有難うございます!」


 急にカーマは立ち上がり感謝と共に頭を下げる。


「そ、そんなことしなくていいって」


 それでもすぐに元に戻ることは無かった。


「少尉待っててください。きっといつの日か貴方と全部取り払って会話出来るようにしますから!」


「分かったよ。まあこれからも相棒として宜しくな」


「はい!」



 その仮面とは何処に行ったのか12年前や2年前に見た満面の笑みを浮かべたカーマと手を取り合ったのだった。

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