第4話 社食もバカに出来ない。

「久我さん、こんにちは。お昼一緒しましょうよ!」

 社食の列に並んでいると、背後から声がかかった。

「け・・・榎本くんも、これからお昼なんだ?昼シフト?」

「慧也でいいですってば。はい。今日は、店が定休日なんで、昼シフト入れてもらいました。何食べるんですか?A定食?Bセット?」

「野菜うどん。」

「だけ?それだけですか?」

 苦笑いしながら軽く頷く。

 野菜うどんは、社食の一番安い、いやリーズナブルな値段のメニューだから。

「もっと食べないと、大きくなれないですよ。ね、今日はA定食にしましょ。お揃いで。」

 30歳を過ぎてこれ以上大きくなる必要はないと思う。

 まあ、美優はどちらかと言うと151センチと言う小柄な背丈なので、身長だけは今も欲しいと思うがこれから伸びるとはとても思えない。

「いやいや。そんなに食べられないんで。」

「ええー・・・少食だな。あ、じゃあ、俺のA定食に乗ってる唐揚げ上げます。少しはタンパク質取らなきゃ駄目っすよ。髪の毛だってタンパク質で出来てるんですからね。美容のためにも、食べなきゃ駄目です。」

「いやいや。慧也くんは若いんだから、それこそちゃんと食べないと身体が持たないでしょ。わたしの箸先気にしてる場合じゃないよ。」

 食券を買ってカウンターに出せば、社食の調理員が引き換えに出してくれるのだ。

 うどんや丼ものはすぐに出てくるが、定食はすこし時間がかかる。

「よければ、席を取っておきましょうか?」

 トレイに野菜うどんを乗せた美優がそう言うと、慧也が嬉しそうにはい、と答えた。屈託なくて、可愛い。息子のようだ。

 昼シフトは、10時半に昼休みになるため、12時過ぎのランチタイムほど混雑していない。だから、わざわざ席を取っておく必要はないのだが、一緒に食べようと言われた手前、席くらいは確保してやらないと。

「久我さん、ショート可愛いっす。皆にも言われたでしょ?」

 向かい側に座った慧也が、大盛りライスを片手に箸を持ってそう言う。

「うん、おかげさまで評判もいいよ。ありがとう。切ってよかった。」

「本当の所は、ロングもすっげ可愛いと思ってたんですけどね。ショートにすると、月イチで美容院来なくちゃならないっしょ。」

「さては営業戦略だったんだ。やられたなぁ、うまく乗せられちゃった。」

「へへ、うまくやりました。来月も、お待ちしております。」

 営業戦略と言われても別にかまわなかった。

 新しい髪型は本当に好評だし、なんとなく慧也との距離も近づいた気がして、嬉しい。・・・勿論、美優の心の中だけの話で。

 そう、思うだけなら自由だ。

 韓流スターや芸能人を好きになるのと同じだ。

 そうそう、会いに行けるアイドルってのが流行ってたじゃないか。アレと同じ。

「これ、一個でも食べてくださいよ。」

 慧也の箸が、自分の皿から唐揚げを一つつまんで、美優のうどんの上に乗せる。そうまでされれば断りづらい。いや、唐揚げ好きだし、むしろ嬉しいけど。 

 揚げたての唐揚げを口に運ぶ。

「じゃ、お言葉に甘えて。うん、美味しい。」

「でしょ。社食だってバカに出来ないですよね。」

 なんだか、年下の男に面倒を見てもらっている子供のような気がして、気恥ずかしい。陽気な慧也はニコニコしながら、白いご飯を頬張っている。

 その箸でつまんだ唐揚げを食べてしまった。そんなくだらないことを意識してしまう自分がおかしかった。

 




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