第7話『いざ、外へ』

 ストロングカリカリことトーストを食べ終え、気まずくなった食堂を離れ、一旦自分の部屋に戻り、外出する準備をした。


 帰って来た後、ゴールドちゃんと赤髪ちゃんに謝っておこう。


 俺が悪いわけではないとはいえ、食パンだけ普通に食パンと書いてあった事に不思議に思わなかったわけじゃなかったからな……その時に聞かなかった俺も俺だ。


『んー、準備といっても、外へ行く用の服を着る以外ないよな』


 俺は既に用意された外出用の服に着替えた後、玄関前で待ってるあおいちゃんと合流した。


『ダスト様、ちょっと遅かったですね。何かあったんですか?』


『何でもないです……あの……聞きたいんですけど、ここの食堂のメニュー表って誰が作ったんですか?』


『メニュー表ですか? ゴールドさん達ですけど、でも確かブロンズさんが主に作ってましたね』


『ブロンズちゃん……ですか?』


『ええ、しかもブロンズさんはいたずらがお好きなので、例えばメニュー表の1番下とかに変な事を書いたり……』


『変な事……ですか……』


『ええ……もしかして何か変な事書いてありました?』


『い、いやいやいや、か、書いてないで、ですよ』


 ゴールドちゃんの勘違いで、ゴールドちゃんのパンツを焼いて食うことになりかけたなんて、口が裂けても言えない。ゴールドちゃんの黒歴史は俺が守る!


『めちゃくちゃ動揺してるじゃないですか……』


 動揺が隠しきれなかった俺は、あおいちゃんに訝しい目で見られている。


『ど、動揺なんて、し、し、してな、ないですよ!』


 苦し紛れに否定してみるが、絶対嘘だとバレてるだろうな。すまないゴールドちゃん……後であおいちゃんにバレるかもしれない。


『……まあ、いいでしょう。とにかく街に向かいますよ』


 これ以上聞くのは良くないと思ったのか、あおいちゃんから話を終わらせて街へ向かおうと促してきた。


 俺はホッと胸を撫で下ろした。


 それにしても、外の世界か……どんな感じなんだろう……。部屋に窓はあっても、外の景色が見えないようになってるからな。


『それでは……ダスト様には初めての外に出ますよ』


『は、はい』


 あおいちゃんは、大きな玄関のドアを開けた。


 外の光がスポットライトのように俺の身体ごと照らす。


『これが……外の景色……』


 外の景色を見渡してみた。俺がイメージしていた魔王城の外観とは異なり、実際のは聖域かというくらい自然豊かで、魔王城を囲むように大樹がやたら多く生えていた。


 魔王城の外って言ったら、もっとこう、暗くてコウモリが飛び交ってそうなダークなイメージがあったが、これは……。


『周りの大樹は全て、魔王様による、結界魔法が貼られておりまして、魔王様が認めた人以外の人には、魔王城を見ることも立ち入りできないようになっております』


『へえ……』


 それにしたって大樹ばっかり生えすぎだろ。しかも立ち入りできないって……とてもじゃないが、街へ向かおうって雰囲気じゃねえ。


『ダスト様、こっちですよ』


 あおいちゃんは、丁寧に俺を誘導してくれた。


『あ、はい』


 なんか冒険してるみたいでワクワクしてきた。景色もキレイだしこんなトレーニングなら大歓迎だ……と思ってた俺は、後になんてのんきで浅はかで、愚かだったのだろうと思うような出来事が発生する。


 ――魔王城から出掛けて10分後。


 俺らの前に、グルルルルルルルルと唸る猪モンスターの群れが現れたのだった。


 当然仲良く……というわけにもいかず、猪モンスターの方も、ヒャッハーこりゃ良い肉だぜえ! 喰い尽くしてやらあ! と言わんばかりによだれを垂らしている。


『ああ……そういえばここ異世界だったな……異世界といえばモンスターがいるのは、分かっていた……分かっていたはずなのに……なぜ忘れてたんだ……バカ野郎……俺のバカ野郎!』


 そんな俺の独り言を聞いたからか、あおいちゃんは俺を安心させるために、自ら前に出た。


『ダスト様、ご安心下さい。私がやりますので、下がっていてください』


『え? あおいちゃん?』


 あおいちゃんは、右手から青い水の球体の光を出して、それを水に変換させてから剣の形にすることで“水の剣”を生成した。


 お、おお……かっこいい……。


『覚悟して下さい』


 あおいちゃんは水の剣を華麗に使いこなし、猪モンスター達をあっという間に殲滅させた。


『うおお……すげえ……』


 なるほど……これが戦闘か。生で見ることなんてこの先一生ないと思っていたが、まさかこうして見ることになるとは……。


『さあ、行きましょう。ダスト様』


『は、はい』


 あおいちゃんには傷がつかないのはもちろん、息も一切上がっていなかった。


 彼女にとっては、この程度ウォーミングアップくらいの感覚なんだろうな。


『あおいちゃん、強いんですね。俺、感動しました!』


 俺はあおいちゃんに拍手を送った。888888888888888888。


『いえいえ、私なんて……おね……赤髪ちゃんの方が強いですよ』


 ん? 今もしかしてお姉ちゃんって言おうとした? 何で隠してるんだろう?


『赤髪ちゃんも強いんですか』


『ええ、おね……赤髪ちゃんも、私と同じ剣士なんですけど、私よりも強くて、特に可憐で麗しいあの剣技には、私も魅了されました!』


 あおいちゃんは目を輝かせながら赤髪ちゃんの事を嬉しそうに話してくれた。


 きっとお姉ちゃん大好きなんだろうな。ああ尊い。いいぞもっとやれ。


『あ、街が見えてきましたよ』


 そうこう話している内に、そろそろ街に着くようだ。


 さっきまで森だったのに急に緑の平地に足を踏み入れていた。


『ここまで来れば、あともう少しです。行きましょう』


 景色を見てから街へ向かおうとすると、突然横から鉄の甲冑を纏った緑髪の美女が俺らに話しかけてきた。


『あの、ちょっといいかな?』


『はい、何か御用ですか?』


『私はバレスという者だ、君達は冒険者かな? さっき、そこの森から出てこなかったかい?』


『はい、そうですが』


『この森には、魔王城があるという噂がある、危険だから森にはもう入らない方がいい』


 噂じゃなくて本当にあるんだよな……。


『そうだったんですか、ご忠告ありがとうございます。ですが、それって本当なんですか? 私たちはここ十年以上、この森で魔物を狩ってきましたが、魔王城どころか建物すら見かけなかったですよ?』


 あおいちゃんは魔王城の場所が割れないように冷静に嘘をついた。


 うまい。これなら変に魔王城があると警戒されなくなり、勇者かなにかが結界を剥がされる可能性が低くなった。


『そうなのか? じゃあやはり噂か……。うん、ありがとう、じゃあ気を付けてね』


 バレスさんはそう別れの挨拶をすると、バイバイと手を振り去っていった。


『あの人、何だったんだ?』


『恐らくどこかの王国の騎士ですかね、正義教団の紋章は無かったので、別の王国の騎士でしょう』


 正義教団以外にも王国があったのか、まあそりゃそうか。そもそも俺はこの世界の事をよく知らない。


 そう、知らないはずなのだ。なのにあの魔王城はなぜか懐かしく感じた。ということは他の王国や街とかも懐かしく感じたりするのだろうか……。


『あ、もう着きますよ』


 おっともう着いたようだ。いよいよ異世界の街か……なんか緊張してきたな。


『……』


『さっきから無言でどうしたんですか? 私のこと嫌いだからもう話したくないんですか?』


 俺が無視してしまったばかりに、あおいちゃんはネガティブになってしまった。


『いやいや、違う、違うから! むしろ、俺はあおいちゃんと、もっと話したいと思ってますから!』


 慰めるための建前ではなく、わりとマジで話したい。だってめっちゃ可愛いし。


『本当ですか?』


 あおいちゃんは上目遣いで見つめてきた。可愛い。


『本当ですよ! さっき無言だったのは……ほら、考え事をしてたから……』


『考え事……分かりました……ダスト様を信用しますよ?』


 なんか重い。


『はい、信用して下さい』


『分かりました! ダスト様を信用します!』


 あおいちゃんのネガティブモードは停止し、笑顔を取り戻した。良かった。


 それにしても本当にネガティブな娘なんだな……。さっき圧倒的な力で魔物を無双してたあの華麗な姿が嘘のようだ。


『コホン、はいそれでは、今からこの“スーパーグレートベンリ街”を案内しますので、私から決して離れないで下さいね』


『スーパーグレートベンリ街』


『はい、スーパーグレートベンリ街です』


 こうして俺達は、この“スーパーグレートベンリ街”に足を踏み入れた。


 いやあのさ……マジでこの世界のネーミングセンスどうなってんの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る