聖女ですが、堕落した人間に嫌気が差したので魔王と組んで滅ぼすことにしました。

友斗さと

プロローグ

序章





『建国の聖女』


かつて、魔族が人間を虐げていた時代に、魔族から人間を救った伝説の聖魔法使い。

彼女は人間の国・ヒュストリアル国を建てた。

しかし、500年の時が経ち、人間は汚職にまみれ、差別をするようになっていたのだった。






◆◆◆





 ここはヒュストリアル国の聖地と呼ばれる町。聖地に相応しい白で統一された質素な町には、信仰者たちが集まってくる。彼らが目指すのは、町の中央にそびえ立つ塔だった。

 国を一望できそうなほど高い白くて大きなその建物こそ、ヒュストリアル国を建国した『建国の聖女』を崇める教会である。華美な装飾など一切ないが、繭のような独特な形状をしている。

 国民が一度は訪れるその教会は、国の象徴そのものであった。

 そんな教会の中に入ると、長くて広い廊下が一直線に続いている。その両壁には建国の聖女の伝説を描いた絵画が並んでいる。特に、一番大きい絵画は、金髪碧眼の聖女が民衆を率いて、建国を宣言している絵だった。

 その絵画の前にマヤは一人、立っていた。聖職者の証である白いポンチョのような服を身にまとっているため、性別が分かりにくいが、彼女は国の最高位である「聖女」として教会に勤めている。

 民衆を率いる『建国の聖女』の瞳は迷いのない真っ直ぐな目として描かれていた。


ーー今、この国は『建国の聖女』が目指した国なのだろうか。 


 マヤは思い返していた。

 太った商人が黄金の杯を片手に美女を侍らせ、山積みにされた黄金に囲まれて笑っている姿を何度も見てきた。またある時は、白い聖職者の服を着たヒョロ長い男が、小太りの男から金を受け取っている場面を見た。そんな司教の後ろにはボロボロの服を来て鎖に繋がれた孤児の子ども達がいるのだ。

 マヤが見ただけでも数え切れないほどの愚行が行われてきた。きっと、見えないところにはまだまだ沢山あるのだとすぐにわかる。この腐り切った国に憂いてマヤは眉間に皺を寄せる。建国の聖女の絵画の前で、毎日のように現状に悩むのだ。


ーーどうすれば、この国は良くなるのだろうか。


 マヤは絵画の前から離れ、歩き始めた。絵画の並んだ廊下の先には、礼拝堂がある。多くの信仰者達が毎朝足を運んで祈りと感謝を捧げる場所である。その礼拝堂の一番奥の祭壇には、人々を見守るように『建国の聖女』の銅像が立っている。

 毎朝人々が手を合わせるのと同じように、マヤも聖女の銅像に祈るように手を合わせた。


 そして、ゆっくりと顔をあげ、迷いのない真っ直ぐな目で銅像を見つめた。


「そうだ。人間、滅ぼそう。」


 誰もいない、静かな礼拝堂に、聖女の言葉が優しく、響いたのだった。



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