明晰夢を見る方法
浅野ハル
プロローグ
「素敵な夢を見た」
朝、ある若い夫婦がベッドの中でくつろいでいた。やわらかい朝日に包まれて彼女は目をこすりながらそうつぶやいた。
「どんな夢を見たの?」男が彼女の髪を撫でながら聞いた。
「夢の中で夢だと気付いたの。それであなたを見つけて公園を一緒に歩いた。それだけ」
「夢だって気付いたなら、もっと自由にいろんなことをすればいいのに」
「あなたといるだけでよかったの。起きてもあなたがいる。こんなに幸せなことってあるかしら」彼女はそう言って微笑んだ。
男は嬉しく思い、そっと彼女の唇にキスをした。
毛布の中から猫がのそのそと這い出てきて猫もまた彼女のほっぺたに鼻をちょんと押し付けた。猫は「にゃー」と言ってごはんの催促をした。
自宅のボロアパートで女が目を覚ますと、全身に汗をじっとりとかいていた。
女は今さっき見た夢を思いだす。自然と顔がニヤけてしまい体が熱くなってしまう。
夢の中で女は、今人気のアイドルたちと裸で抱き合っていた。あの逞しい肉体に優しい微笑み、アイドルたちがその女を取り合って喧嘩して、女は「私のために争わないで」と言ってアイドルたちにそれぞれキスをした。そしてアイドルたちは貪るようにその女を抱きしめた。女の思うままにそのアイドルたちは動いてくれた。
女は思った。
「なんて美しい夢なんだろう。もっと見ていたいのに」
女はベッドから出て台所で紅茶を淹れた。夢の余韻に浸りながら紅茶を一口飲み、ため息を吐く。早く夜になれば良いのに。一日の始まりに夜のことを考えた。
世界中の人々に平等に夜は訪れる。いくつもの夜があり、いくつもの夢がある。
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