線を引く
シヨゥ
第1話
「引き際というかなんというか。ここまでやったら十分っていう線を引くのは大事だよね」
友達は言う。
「100点満点にたどり着くなんて土台無理なんだからさ。もちろんそれに限りなく近づくことはできるよ。99.9点ぐらいまではいくかもしれない。でも残りを埋めるのは無理なんだ。君が100点満点だと思っても他人から見たらそうじゃない。ということはそれは100点満点とは言えないんだ」
身振りも加えながら彼はつづけた。
「だからベストを尽くす。そして十分という線を越えたら完成と自分で言う。そうやって自分で完成だと言わなきゃ終わりがないんだよ」
肩に手を置かれた。
「お疲れ様。君はすでに十分の線を越えている。君がしたことに誰も文句は言わないよ。だから『これで完成』と、『これで終わり』と言ってくれ」
懇願にも似たその言葉に僕は、
「でも」
と反論してしまう。
「でも、僕はまだ完成を見たとは言えないんだ。これは職人としての矜持であり、手を抜くことは魂を売り渡すことど同じだと思うから」
何もなかった僕に与えられたたった一つの仕事だから。それを裏切るわけにはいかないのだ。
「……分かったよ」
僕の言い分に彼が折れた。
「ただ約束してくれ。限界を超えないでくれ」
「……分かったよ」
懇願にも似た彼の願いには首を縦に振るしかない。仕事もそうだが彼との関係も大事なのだ。
「その言葉、信じたからな」
彼が去っていく。線を引けない僕とは違い彼はここで線を引いたらしい。これ以上の説得は無意味だと察したのだろう。彼のように線を引けるようになること。それが今の僕に求められていることなのかもしれない。
線を引く シヨゥ @Shiyoxu
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