第22話

 一心は優と付き合いのあった足立淳が、飲み屋街で吉井遼を路上でぶつかったことから喧嘩になり、刺し殺した事件に疑問を持った。足立は2年前に刑期を終えて出所している話だが、優が電化製品販売店で働いているときに、二人とも店を訪れている。互いに顔見知りだとすると、殺害の理由は単純な喧嘩では無いはず。まして、仁美も両者を知っていた節がある。

 それで警部に足立淳の取引を調べてくれるように頼んであった。根拠があったわけでは無かったが、優が仁美を殺そうとする動機は、優の夫の鷗州の子供を仁美が産む事への怒り。そして誰かに殺害を頼もうとすると、足立、吉井の名前が上がってくる。吉井は殺されているので、足立を足掛かりにするほかない。と考えた。

 頼んでから、3週間後警部が取引内容を持ってきた。 

 足立の口座に毎月40万円の振込があり20万円の送金がある。振込人は「トミマイユウ」で、送金相手は「ヨシイリョウ」となっている。それが仁美が亡くなった翌々月から始まり吉井の死亡時期まで続き、それ以降は足立への振込だけが続いている。

「これ強請りじゃないか?吉井が足立を強請り、足立が優を強請る。何でだ?」

一心は腑に落ちない顔をしてる。一助が胸を張って

「優が足立に仁美殺害を委託する。足立が仁美を殺したとこを吉井が目撃する。それで、吉井が足立を強請る。足立は優に相談して毎月金を払う事にする。ってのはどうだ?」

確かに筋が通っている。

一心が待ったをかける。

「足立が優に仁美殺害を頼まれたとして、見返りは?まさか毎月40万が見返りというのは無いんじゃないか?金で頼むなら一括だろう?ねえ、警部」

「確かに、分割払いの殺人依頼料って聞いた事ない」

「ただ、吉井が足立を揺すって毎月20万てのは、足立が金ないのを吉井が知ってるとすれば、あり得る。足立が優を強請るのもわかるが、一般論で言うと、一括払って、数年して金を使い切ってから強請る。てのが普通」

「一助の言うことも、一心の言うことも、一理ある。核心付近ををついてる。と思う」警部もある程度同調する。

「先ず一助の言うことを前提に足立宅を捜査しようと思う。一心どうだ?」

「いいんじゃないか?あまり絞り過ぎるのも良くないし」

「とすると、足立が吉井を殺したのは、単なる喧嘩じゃない。強請られた仕返しだ」

美紗も参加してくる。

「待てよ、写真を撮ったか?強請りのネタは何だ?」数馬が何気なく呟いた。

「足立は殺害後吉井からネタを取り戻したんじゃないか。でないと優から金取れないじゃん」一助が話を聞いていてピンときたようだ。

「ちょっと待って。殺してから、鍵とって、部屋行って、探して、見つかって現場に戻ってから逮捕された?」美紗は以外に細かい。

警部が自分用にコピーした当時の調書をみる。

「ん〜、一旦逃げたけど、逃げ切れないと自首してる。その間2時間だわ」

「渋谷と神田は電車で20分くらいかしら?駅まで走って20分、往復80分。探す時間は30分くらいは有るんじゃない?」

「警部!足立宅の家宅捜査だ!」

目を輝かせる一心。

一呼吸おいて

「そうね。それしか考えられないわね。任せて、令状とってくるから」

素早く立ち上がり、署へ戻っていく。

足立は最近になって、また喧嘩で服役中の筈だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る