第21話⁂何故母里美を殺さねばならなかったのか?⁂
2015年年6月某日東京都内の超豪華ホテル、〔スカイブルーホテル〕で、何とも非日常的な仮面舞踏会『マスカレード』が開催されていたが————
その、華やかな仮面舞踏会のあの日から、遡る事30年ほど前の事である。
その時代に、琢磨の母親里美はキャバレーのホステスとして働いていた。
美人だった里美はこんな場末のキャバレーにはもったいない評判の美人。
早速社長の目に留まり、このキャバレーの経営者である社長と愛人関係になった。
実は…この社長日本有数の指定暴力団柳田組の組長でもあり実業家。
それは丁度日本が好景気に差し掛かった時代。
何も出来ないと言っても時代は里美に味方してくれた。
1985年から1991年日本中が空前のバブル景気に沸いた時代
そんな1985年丁度バブルの波に乗り、美人の誉れ高い里美ママ目当てに、クラブ『クイーン』には連日連夜お客様が押し寄せ溢れ返った。
だが、時は残酷であれだけ華やかだったバブル景気もあっけなく泡の如く弾けて、クラブ『クイーン』もご多分に漏れず泡の如く消え去った。
計画性のない里美はお金を湯水のごとく使い、貯金など有ろうハズが無い。
バブル時代には、こんな里美でも美貌一つでクラブ『クイーン』を盛り上げてこれたが、計画性のない、経営手腕の無い里美にバブルが弾けた今何が出来よう。
30代中半の里美は社長との間に、すでに双子の男の子を授かっていたが、出来の悪い里美はとうとう社長に捨てられてしまった。
その理由は幾つかあるが、こんな里美ではあるが、一時は社長から寵愛を受けていた。
ママ時代には、これだけ美しい里美に思いを寄せるお客様は数知れず。その為、お客様に絡まれたり、スト-カ-被害に遭ったりと散々な思いをしていた里美なのだが、そんな時に里美の用心棒として社長が就けてくれたのが、誰有ろう結婚した寺内なのだ。
だが、時の移ろいは残酷なもので、30代中半の美しさも半減した何の取り柄もない里美に、社長は金銭的な援助も徐々に無くなり、滅多と家にも帰らなくなった。
そんな状態に追い詰められた里美は働いてくれている寺内に、この辛い思いを打ち明け相談に乗って貰っていたが、そこは男女の事、いつの間にか深い関係なってしまった。
だが、なんとそれを理由に追い出されてしまった。
こうして社長の最後の言葉に打ちのめさせられる事になった。
「子供1人は置いていけ!さもなければ浮気したお前なんかに一切のお金を払ってやるもんか!慰謝料と養育費が欲しかったら2人の内1人だけ連れてこの家を出て行け!」
こうして里美は、琢磨だけ連れて家を出て行かざるを得なくなった。
要はそういう風に持って行った。
厄介払いをされた。
だが、社長とて人の子、息子が可愛いので、息子だけは路頭に迷わせたくない。
用心棒寺内を若頭補佐に取り立てて送り出した。
若干35歳で若頭補佐に取り立ててもらい、寺内と里美の生活は始まった。
その為、我が子でもない琢磨を心の中では疎んじていても、精いっぱい大切に育てたのだった。
理由は一にも二にも出世したいからに他ならない。
だが、博打好きで大酒飲みの父は肝硬変を患い若干40歳でこの世を去った。
◆◇◆
そこで子供達の事になるが、実は一卵性双生児で琢磨と〔少年A〕翔は実はれっきとした実の兄弟なのだ。
残された〔少年A〕翔は実は、この豪邸の長男なのだが、若い愛人にも息子が生まれ跡目相続に巻き込まれ、若い母親から酷い虐待を受けて成長した。
一卵性双生児の琢磨と翔は、里美とは実の親子だと言うのに何故こんなに歪んだ親子関係になったのか?
琢磨が母を恨む気持ちは嫌と言うほど分かるのだが………。
例え捨てられたにせよ、何故翔があそこまで残酷に、母里美を殺す必要が有ったのか?
*◆◇◆◇*
柳田組長の本妻さんは『うまずめ』といって子供の産めない女なのだ。
もし本妻さんに子供がいたら、このような恐ろしい殺害事件は起きなかったかもしれない。
不妊治療を試みるも断念。
実は…姐さんは先代組長の一人娘で、婿養子に入ったのが現組長の柳田だから頭が上がらないのである。
主たる登記簿、預貯金などは本妻が全て握っている。
こんな経緯もあり追い出す訳には行かない。
あの実母里美を、最も残酷な形で殺害した翔は、実はこの豪邸の長男なので行く行くは柳田組の組長を継承していく事になる人物なのだが、あそこまで酷い事をするには成長過程で耐え難い何かが有ったに違いない?
若い愛人涼子にも息子が生まれ、跡目相続に巻き込まれ、若い義母から相当酷い虐待を受けて成長したらしい。
どういう事かと言うと、異母兄弟徹は、組長にも義母涼子にも甘やかされ可愛がられて育ったせいなのか、何をやるにも甘えが出てしまう。
まだ子供だから分からないのだが、成績も運動能力も振るわない徹。
一方の翔は成績優秀でイケメン、歴然とした差が有る。
それが我慢ならない涼子は、事あるごとに翔に辛く当たっていた。
更には、本妻さんも愛人達の子供に跡目を譲るのは、腹に据え兼ねるものが有る。
本妻さんにも冷たくあしらわれる事はしょっちゅう。
母が出て行った翔は後ろ盾が無いので、家に居場所のない少年期を送っていた。
◆◇◆◇◆
跡目相続の話になるが、本妻さんは組長と一回り以上も年上なので、もう年齢的にも到底子供は望めない。
夫を奪った愛人たちの子供に、跡目を譲りたくない気持ちは山々なのだが、そんな気持ちを払拭する出来事が起こる。
それはどういう事かと言うと、翔はどういう訳か、そんな垣根を取っ払い本妻さんを『ママ!ママ!』と言って甘えて来るのだ。
{もう子供なんて夢のまた夢と思って諦めていた私に………ましてや里美も居なくなった今、こんな夢のような出来事が起きるなんて!あぁ~!夢のようだわ!}
本妻さんは翔が可愛くて可愛くて仕方がない。
こうして翔は、実質上の権力者でもあり、裏の権力者でもある本妻さんの寵愛を一身に浴びて成長した。
また、それに輪をかけたように、組長も翔に全幅の信頼を寄せている。
一方の若い愛人涼子は面白くない。
{私の息子徹が、一番次期組長に近い存在だと思っていたのに、あんなどうしようもない。出来の悪い追い出された里美の息子を、跡目に取り立てようなどと……許せない!}
それでも…組長だって本当は、愛する涼子の息子徹を、次期組長に押したいのは山々なのだが、本妻が頑として首を縦に振らない。
それと徹の余りにも不甲斐なさに、どうしようもないのだ。
まだ子供なので分からないのだが?
それと………本妻さんにしたら涼子の息子になど、死んでも跡目を譲りたくない気持ちが有るのだ。
「愛する夫を独り占めしている憎い涼子の、出来の悪い息子徹なんかに、死んでも跡目は譲るもんか!ましてや翔は超イケメンで、この私を『ママ』と呼んで甘えてくれるこんな嬉しい事は無い。もう里美だって二度と私達の前に現れる事は無い。という事は翔の母は、実質上この私という事になる。絶対に翔をこの日本有数の柳田組の組長にして見せる。ワッハッハッハッハ~!オッホッホッホ————ッ!」
「もう完全に包囲網が出来てしまい徹の出る幕などどこにも無い。あんなジジイの組長に身も心も捧げて来たのに……これでは只の体のいいお手伝いさんじゃなの………
バカにしないでよ!」
ある日の夕食時に事件は起きる。
とうとう耐えられなくなり、腹に据えかねた涼子は、翔が食事を取っている横から この日の為に買っておいた硫酸を顔目掛けてぶっ掛けた。
「ギャアアア————————————ッ!」
【硫酸入手方法*塩酸、硫酸は、劇物の取扱い許可のある薬局や理化学機器販売小売店などで購入可能。購入の際は、必要事項(住所、氏名など)を記入し、捺印した譲受書の提出が必要】
この後大事件が————
こうして里美殺しに突き進む事になる。
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