第9話⁂殺人事件の幕開け⁈⁂



 一週間前に恐怖のあまり逃げ惑う二五歳と二三歳の姉妹を、立て続けに時間差で強姦しながら次々に刃物で突き刺し殺害した稀代の大殺人鬼が、実は…あの日の仮面舞踏会の日に、〔スカイブルーホテル〕に紛れ込んでいたらしいとの情報がもたらされた。


{エエエエ————————ッ!これは一大事!}


 一体どういう事なのか?

まあ~興味本意のデマという事も十分考えられるが?


 この狂った殺人鬼の正体。

 その殺人鬼の生い立ちを振り返ると同情の余地もあるのだが、それでも殺害方法が余りにもむご過ぎて正気の沙汰とは思えない。

 全く酷い話だ!


 その男の名前は寺内琢磨、岐阜県の片田舎で育った。

 彼が小学五年だった十六年前、肝硬変を患っていた父が自宅で血を吐き、搬送先の病院で死亡する。

 享年四〇歳だった。


 だが、その時の母や親族の態度に対し、子供ながらに憎しみを募らせていった。

それはどういう事かと言うと、母の里美は父親の死を待ち望んでいるような口ぶりだったのだ。


 ある日のこと『お父ちゃんが血を吐いて苦しんでいる』

 寺内が慌てて母親の職場に電話したところ、『放っておきなさい』と言われたことが忘れられないようだ。

 その夜、母親の里美が帰って来て救急車を呼んだが父親は死亡。


 さらに頭に来た事が有った。

 それは……父親の通夜の席で母親が『死んでせいせいした』と話していることを耳にして、父親の死は母親のせいだと、更に母里美に対しての憎しみを募らせて行った。


『大切な父親を死なせた許せない母』と表現している。


 こんな事から父が死んでから、寺内の問題行動はいっそう目立つようになる。

 弱い者虐めに走り、逆に同級生からイジメの対象にされ不登校になった。

 

 更に家庭でも行き場のない思いに直面する。

 どうも父親が存命の内から、母親には男が居たらしく、段々化粧が濃くなり、服装もだんだん派手になっていき、その内電気やガスが止まり、借金取りが自宅に押しかけてくるようになった。


 そんな現状化、パートに出ても僅か十二万円にしか貰っていないにも拘わらず、母里美は息子のお金を当てにして、好きな男には散々貢いでいたのだ。


 寺内は「そんな男とは別れろ!」と言いながらも、バカな母親とは思いながら我慢していた。


 男に夢中になり貢ぎ、更にはおしゃれにおカネを遣う余裕はなかった筈なのに、どうもローンを組んだり借金をしてまかなっていたようなのだ。



 そして…寺内にも問題が有るからなのだが、益々学校での虐めも酷くなり、二年の三学期からはとうとう登校しなくなった。

 同級生による教室からの締め出しなどの、イジメに反発しての行動だった。


 やがて借金返済の為に新聞配達のアルバイトを始める。

 そして何とか中学を卒業して、寺内は住み込みで働ける、岐阜市の建設工事の仕事に就いたが、中学を卒業したばかりでまだ体も出来上がっていない為、体力的に無理があり、すぐに辞めてしまった。


 そうこうしていると、中学時代の友人に誘われ、宅配便のアルバイトを始めることになった。

 だが、宅配便の仕事は寺内に合っていたようで、熱心に働き認められ、初めて自分自身で稼ぐ喜びを知った。


 その店で二年の月日が流れて、新たに女性店員が入って来た。


 栗毛色のショ-ㇳヘア—の小柄でかわいらしい顔をした彼女・山埼真理さんに、密かに憧れを抱くようになっていた。

 彼女は一七歳の寺内よりも五歳年上の二二歳だった。


 仕事は充実し、思い人も出来た。

 だが、母と暮らす自宅は、いよいよ末期的な状態に陥って来た。


 母の里美が組んだ無謀なローンによって、借金取りが次から次へと押し寄せ、電話や電気が止められた。


 ある日、寺内は母里美に借金の額を問い詰めた。最初はとぼけていた母だが、根負けして全部で200万円くらいあると明かした。

 月に4、5万円の返済と聞いて寺内は引き下がったが、実際の借金額はその倍の、六〇〇円ほどに膨らんでいた。


 一方、寺内が憧れる真理さんには、どうも彼氏がいるようだ。

 だが、彼女は彼氏との付き合いに迷いがあるような口ぶりで、チャンスが有ると思い愛を告白した。

 やがて真理さんも一人暮らしの部屋に招き入れてくれるようになり、肉体関係を持った。


 そんな時に真理さんの携帯に、無言電話がチョクチョクかかってくることを聞かされた。

 何と、その相手は寺内の母里美なのだ。

 どうして分かったのかと言うと、うっかり非通知にするのを忘れたらしい。

 そこで真理ちゃんが、最近頻繫に掛かって来るうっかり非通知番号にし忘れた番号を、琢磨に見せた。


 こうして相手が母親である事が分かった。

 今、息子に彼女が出来ては借金返済に支障が出るので、二人を引き裂く為だ。


 寺内は不安で揺れていた。

というのも、関係を持った後も真理さんが彼氏と自分の、二股をかけている事が分かったからだ。

 そんな状態の時に、母里美が借金で自分を苦しめるだけでなく、恋路までも邪魔しようとしていると確信してカ———ッ!となった。


 六月某日、寺内は自宅で母親が帰宅するのを待った。


 最近とみに化粧が濃くなり、帰宅の遅くなった母里美が、自分の財布からカネをくすねていることに不満だったが、更には、大事な彼女への無言電話、母に言いたいことは、山ほどある。


 その日の夜母親は午後十時ごろに帰宅した。

 寺内はまず借金について尋ねた。

 そして…自分の財布からくすねている事も聞いてみた。


 だが母親は「あんたには関係ない」とにべもない。


 その言葉にキレた寺内は「真理に無言電話したろう」と声を荒げた。しかし母の里美は「知らんわ」と切り捨てた。


  カ———ッ!となった寺内は顔を拳で殴り、顔や背中を蹴り、近くにあった金属バットを手にすると足や胸や腹を殴った。また、執拗に顔や腹を踏みつけた。金属バットでは、頭ではなく、より苦しむ躰を殴った。


 我に返った時には、目の前に血まみれで横たわる母の姿があった。

 翌朝、寺内は普段通りに宅配便の仕事に出かけた。


 だが、『困ったものだ』もう時期的にも六月という事も有り。血が滴るのは言うに及ばず、更には暖かいので腐敗が進み、これでは近所に知れたら大変な事、それから余りの匂いにとうとう我慢できなくなったので、母の死体を毛布でくるみ、首のあたりと足首のあたりを紐で結ぶと玄関の土間へと運んだ。

 更に腐敗が進む。


 身体は大きいがまだ子供なので、とうとう怖くなり110番にダイヤルした。

そしてこう告げた。


「母親が死んでいる」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 こうして少年送りになり、模範生だった寺内は一年半近い少年院での生活を終えて出所した。

 だが、寺内は世にも恐ろしい殺人事件の首謀者になってしまう。


 彼を何がそうさせたのか⁈

 こうして恐ろしい事件の幕開けが⁈

 二五歳と二三歳の姉妹を立て続けに時間差で強姦しながら、刃物で突き刺し殺害した稀代の殺人鬼がこの後…………。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る