第2話⁂デコボココンビ!⁂


 東京都台東区浅草に有る〔OUGI探偵事務所〕は、この下町で長きにわたり市民の相談窓口として頼りにされ続けて来た探偵事務所だ。

主な仕事内容は、浮気調査、人探し調査、嫌がらせ調査、身元調査、身辺調査等々。


 この〔OUGH探偵事務所〕は、娘の扇美咲が若干三十五歳で父親から会社を引き継いで社長になっていた。

 そして…副社長は同じ大学の同級生で夫の扇直樹三十五歳。


 何故こんなに若くして社長職を引き継いだのかというと、父親が脳梗塞で倒れ後遺症が残ってしまったからなのだ。


 そして…実はなんと、この若夫婦はあの偏差値最高峰東京大学時代の同級生で、同じ文学部出身という事も有り、気の合う友達から自然の成り行きで結婚していた。


 当然の如く二人の未来は約束されたも同然。

 日本最高峰の東京大学卒業の二人は、一般人にはおおよそ手の届かないハイスペック夫婦。


 大手出版社に就職出来た直樹の未来には、雲一つない、光り輝く未来が約束されていた筈なのだが、実は…就職して初めて分かった事なのだが、夫になる直樹は、世間一般のコミュニケーション能力がゼロで、おまけに「KY」を絵に書いたような変わり者。


 東大生の四人に一人は「アスペルガー症候群」 と言われ「東京アスペ大学」と呼ばれる事があるらしいが………。


 まぁ~?それは言い過ぎと言う感が否めないが、まぁ~『ネ タ ミ?』


 アスペルガー症候群(アスペ)は自閉症の一種で、友達のなかで浮いてしまうことが多く、幼児期には一人遊びが中心となる。また他人とのコミュニケーションや周りの空気を読むことを苦手とする一方で、高い集中力や優れた記憶力を持つといわれている。


 似た者同士、気が合う友達や仲間を見つけられ東大生活も難無くこなし、社会人になった途端に今まで普通だと思っていた世界は一変する。


 こうして直樹は、超一流企業に就職出来たのも束の間、 アスペルガー症候群で辞めざるをえなくなってしまった。

「東京アスペ大学」と呼ばれても仕方がない――。


 一方の妻となる美咲は〔OUGI探偵事務所〕の一人娘で、母方の実家は有名なスイ-ツ専門店。


 東京に五店舗構える老舗なのだが、どうも父親は栄えあるパテスリ—世界大会で優勝した事も有る逸材らしく、どこをどうとってもお金に困る筈がない。

 その為、就職せずに小説家を夢見て創作活動に従事している。


 そんな時に、直樹の度重なる退職騒ぎに業を煮やした美咲は結婚を決意する。

 それは……直樹とて同じ思い。

 社会人になって痛感する居心地の悪さ、唯一のより所は美咲しかいない。


 美咲にしても、確かに直樹は理屈っぽい偏屈者だが、頭脳明晰で美咲の言う事は何でも聞き入れてくれる、美咲の奴隷と言っても過言ではない、忠実な直樹を〔OUGI探偵事務所〕の跡継ぎである美咲の夫として、迎え入れようと考えるのは至極当然の事。

 こうして二人は結婚した。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 結婚六年目の二人には、長男も授かり傍目には幸せ一杯の家族に映っている。

 それはそうだろう⁈

 夫婦そろって東大卒のエリ-ト、傍目には絵に描いたような夫婦。


 だが、美咲は最近チョット後悔している。

 お客様とのコミュニケーションも重要な仕事の一つなのだが、直樹ときたら無表情で不愛想、更には話し口調がつっけんどんで、お世辞の一つも言えない。


 その為最近は東大卒の頭脳を活用して、難題の事務処理に当たってもらっている。

 それと家事全般、息子の子守と食事の準備、更には義父の介護。

 要は裏方さんで雑用係という事だ。


 また困った事に直樹は、自分で組み立てて仕事なり家事なりが出来ない為、いちいち指示を出さないと出来ない。


 ある時とんでもない事になった。

 二歳から三歳くらいの子供は、想像も付かない行動をとる事が有るのだが、直樹に子守をさせていたら、あわや子供が自動車の下敷きになり掛けた事が有った。


 黙って居たら何もしないし、何も出来ない。

 ただ自分の好きな事には異様な集中心を見せる。

 本当に困ったものだ。


 だが、それでも…取り柄はある。

 美咲のいう事は何でも素直に聞いてくれるのだ。


「直樹電話には出ないでね。理屈っぽいから苦情が入っているのよ。もうこれ以上クレ―ム対応に追われるのは真っ平ゴメン!だから電話に出たら絶対にダメ!」


 散々な物言いに、直樹も切れるかと思いきや、自分の力量を十分理解しているのか、にっこり笑って返事をしている。


「ハ~イ!」


 可愛い所もあるのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇

 二〇一五年四月某日この〔OUGI探偵事務所〕に若いカップルが現れた。


 そして…最近巷を賑わせている『オオカミ怪人』を何としても捕まえて欲しいとの依頼が入った。

 二人は早速捜査を開始した。


 すると早速その『オオカミ怪人』に関する情報がもたらされた。

 どうも、高名な医師が治療を口実に、研究の為に実験材料として入院させていたが、その狼のように体中に毛が生えた先天性多毛症の人間が、深夜に逃げ出して、それを目撃した人々によっての通報だったと言うのだが、まだはっきりとは分からない。


 だが、こんな一見KYのどうしようもない直樹たが?

 凄い集中力で難事件に取り組んでくれる。





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