第11話 指導者として
アヤがミサキから離れれない事、魔法を使ってこないことを魔物達は気づいたのだろう。ますますアヤは戦いづらそうになっている。
近くに倒すべき相手がいるのに何もできないもどかしさが彼女の集中力までも奪っていく。
もちろん、何も試そうとしていないわけではない。余裕を見つけては俺の戦い方を見て何か得るものはないかとしているが魔法ですることを剣でするのは無理がある。だが、俺が風魔法を使ったのを見た後は何かと試すように何もない空間をひたすらに切っていた。
(まさか剣の風圧だけでかまいたちを起こす気なのか?)
何度も何度も繰り返し試すが中々思うようにはいっていない。いつしか疲労で息も絶え絶えとなっていた。これ以上は危ないと思い、条件を解く。その意図に気付いたようでアヤはすぐに魔物を倒した。
「さて、いい訓練になったかな?この辺りにはもういなさそうだから見回りを再開しよう。しばらくは俺一人で何とかするから2人は休んでいてくれ」
俺はこのパーティーでリーダーをすることになる。そのため、メンバーの育成もできなければいけない。特にアヤ、彼女は一人で強くなったようなものだ。そのため、本来鍛えられるべきものが抜けていたりする。そういった部分に気付いていないこともあるから俺が教えてあげなければいけない・・・と偉そうに言っているけど俺もジョンによく言われたんだけどな。
そしてその日の見回りを終える。まだまだ魔物はいるので明日も引き続き行わなければいけない。そのため、俺は早めに休んだ。
夜も静まり返った頃、何かを感じ取ったのかふと目が覚める。魔物かと思ったがそのような気配はない。
もしや、と思った俺はアヤの部屋をノックする。反応がないのでゆっくり開ける。予想通り彼女の姿はなかった。宿の外へ出ると微かに剣を振るっているような音がする。その音を頼りに音のする方向へと向かっていった。
一心不乱に剣を振り続ける彼女、俺がいることにも気づいていないのだろうか、振り終わるまで待つことにした。
「そんなに今日のことが悔しかったか?」
「い、いつからいたの・・・まぁいいわ。ええそうよ、無様にそこら辺の魔物にやられた剣士は私ですよ」
「それにしてもこんな時間まで頑張るとはな、俺としては疲れを取ることに集中して欲しいんだけど・・・まぁいい。気のすむまでやってくれ。但し、明日眠そうな顔を1つでもしたら許さないからな」
「ちょっと前まではこうやってみんなが寝ている時間も頑張らないとついていけなかったのよ、これぐらい慣れっこだわ」
「そうか、余計な気を遣ってしまったか。じゃあ俺は戻るから程々にな」
そして彼女の剣を振るう音は世闇に響き渡り続いた。いつまで続いていただろうか、それを知る者は誰もいない。
翌朝、3人揃って朝食を食べながら今日の方針について話し合う。昨日に引き続き、アヤには守る者がいる状況での戦いを身に着けてもらおう。
そして、昨日行かなかった場所を中心に見回りを行う。昨日よりは魔物の数は減ってはいるがそれでもまだ多いと言わざるを得ない。そして相変わらずアヤは苦戦していた。
だが、昨日のように乱れることはなく、冷静さを保っている。苦しい戦いが続いているが昨日のが堪えたのだろう。
そして何度か試すように剣を振るっているがやはり何も起きない。そして頃合いを見て昨日と同じように魔物を倒す。昨日から技術的な進歩はなかったが、精神的には大きな変化を感じれた。
「あぁー、やっぱりこういう戦闘は苦手だなー。なんとかして遠くの相手に対しても何かしらの有効打を用意できないと一方的にやられるってことがよく分かったわ」
「今なら魔法の訓練をすれば時間はかかるかもしれないが実戦でも十分使えると思うぞ。そんなに剣に拘るのか?」
「傍から見たら昨日と変わらなかったかもしれないけど何か掴めそうだったのよね。これが気のせいだったら魔法の練習も始めるわ。だからもう少し待ってほしいの」
「そうか・・・時間もまだあることだ。納得いくところまでやってみてくれ」
「ちょっと、アヤさんがこれ以上人外の力を手に入れたら・・・考えるだけで恐ろしい」
「だけど昨日今日とアヤが苦戦するところを見てただろ?ああいう状況に追い込まれた時に何もできないならやられてしまうかもしれない。確実に直しておくべき弱点だ」
俺の言うことに理があると思ったのだろう。それ以上ミサキは反論してこなかった。
「さて、残りはパパっと片付けちゃいましょうか。今から好きなだけ暴れてこい。そして今日中に依頼主に完了の報告をしてしまおう」
アヤの目が輝く。いくら戦闘中落ち着いていたとはいえ、内心はすごくモヤモヤとしていただろうからな・・・こういうストレスも適度に発散させてあげなければいざというときに十分なパフォーマンスが出せない。メンバーの管理もリーダーの仕事だからな。
俺も魔物の狩りを手伝い、1時間ほどで周囲の魔物の気配はほとんどなくなった。これでしばらくは魔物に困らされることもないだろう。
「そういえば・・・ミサキは収納魔法使えるか?ちょっと魔物狩り過ぎて持って帰ろうにも俺もアヤも収納魔法が使えない」
「ごめんなさい。私も使えないの。戦闘を任せているからこれくらいは使えたほうがいいわよね。これから時間を見つけて練習します」
「そうか、じゃあ俺も練習して使えるようにしよう。今までは戦闘に活かせる技ばかり磨いてきたがこれからはそうもいかない。しばらくは不便かもしれないが持ち運ぶしかないな」
倒した魔物を持てるだけ持って村へと戻り、買い取ってもらった。多くはないが、報酬の足しにはなる。これからのパーティーの運営資金も集めていかなければいけないので少しでも収入のチャンスがあれば逃さないように必死だ。
「いやー、2日で終わらせてしまうとは・・・これでしばらくはこの村も安全でしょう。さて、これが報酬です。野盗達の分も一緒に入ってます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。また何か問題があれば頼ってください。できる限りのことはしましょう」
そして、翌朝村を出る馬車に同乗して街へと戻る。行きと同じく長い旅だ。しかし、野盗を倒したこともあってか特に大きな出来事もなく無事に戻ることができた。今回の旅は成功だ。特に問題らしい問題もなく、この3人でパーティーを組んでやっていけそうだと感じさせるものだった。
「じゃあ、俺とアヤは今のパーティーの所に戻る。正式にパーティーを組むまでもう少し時間があるから、それまではこのお金で自由にしていてくれ。そしてこの日に憩いの宿に来てくれ。そこでパーティー結成だ」
今回の依頼達成でもらった金のうち20%をミサキに渡す。戦闘に参加しないメンバーにしてはもらいすぎではあるがまぁ引き留め料と思ってくれ。
その意図を感じ取ったのか頷いて彼女は俺達と別れた。
「じゃあ俺達も戻るか。ジョン達も心配しているかもしれないしな」
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