駑馬十駕

 ギラついた獣みたいな瞳の彼女達は、リズムを取り続けていた。


 一定のリズムは、少しずつ微妙なズレ方をしていた。

 

 そういえば、連歌魔法──修練を積んだ修道女が得意としていて、主に結界を張るのに使っていた魔法を思い出す。


 …? ズレた…ズレる残響に反響…このリズム、微妙に合ってないか…? いや、これは魔力…による連鎖…?


 そんな繊細な魔力の使い方を彼女達が出来るわけ…勘違いではない! いつの間にか動けない! しかもこんな魔法の使い方など知らないぞ!?


 その俺の知らない歪な魔法に、キメ顔のまま縛られ、彼女達の望む姿に変えられようとしている!?


 具体的にはお股が開こうとしている!


 ちょっと待て! 百合に竿は本当に危険なんだぞッ!!


 愛に狂い、切り落とそうとしてきた奴なんて、アレフガルドにはいっぱいいたんだぞッ!


 俺のトラウマ第二位なんだぞッ!


 いかに勇者といえど、ナニとは言わないが、ヒュンって! ヒュンってなるんだからなァァァァァッ!


 それに身体を思いのまま操るなど、例外はあれど本来は魔族の技だぞ! たまに人族にも居たが…だがアウロラはちゃんと振ったはずだ! 魔族なら反応があるはずなのにない…


 つまり全員清恋お姉ちゃんと同じ獣人タイプか…! 厄介な!


 くそっ! 手が頭の上に勝手に! これではショタンポは守れない!


 これは拙い! 拙いぞッ!


 幻惑を使うか? いや、バトルドレスによる制御不安と魔力残量が心許ない…これに混乱など与えたらこの今の薄い身体が捻じ切れるかもしれない…!


 すると再び清恋お姉ちゃんが歌うようにして語り出した。



「我々のスローガンは駑馬十駕。凡人たる私達だって、走り続ければいつか駿馬に追いつける。そう思って今まで苦楽を共にしてきたのです」


「ぐっ?! 強くなったッ!?」


「ですから、清恋お姉ちゃんはお友達を裏切れないのです。小さな男の子であるご主人様は知らないかも知れませんが、女子グループ内の、ましてや高校二年生における一夏の性…青春一人勝ちなど、決して許されるものではないのです。沙良莉さん」


「君は神がこの箱庭で悪夢に怯える我々に齎したギフト、ご褒美。夏休み後はみんなでマウントを取る。シル」


「いやぁ年下彼氏がぁ〜離してくれなくってぇ〜いーっぱい可愛がられちゃった〜なんてね。波瑠ちゃーん」


「と、年下坊やをくりくりと可愛がってやったです! 懸命にへこへこ振っててとっても可愛かったのですっ! 次っ! 夏生くん!」


「異世界デスゲームの中、小さな部屋の片隅で…愛を確かめ合う小さな僕と君。今からどうなるかなんてわからないからこそ! 二人の愛は昂り燃えるのさ! ん〜いいシチュって感じだ! し、しかもみんな見てる前でなんて……くぅ〜清恋ちゃん!」



 彼女達は左側から順に答え、真ん中の清恋お姉ちゃんに繋ぐ。そして今度は右側に向けて語りかける。



「そうそう私の初体験直後の歩く演技はいかがでしたか? 希星さん」


「あさましい雌の本能を開花させた後に回復したのは失敗したな、キミ。清恋を前に油断が過ぎる。やはりキミは我々が保護し囲うしかあるまい。これは人道的措置だ。佳樹もそう思うだろう?」


「ふ、ふん! ま、まあ良いんじゃないかしら! 知らないけど! 摩訶不思議体験の最中もなかなか良いんじゃないかしら! 知らないけど! ねぇ凛音!」


「ポーズポーズ、佳樹さんは素直じゃありませんね。私もイエス。マンガ汁の正体に迫ります。にぱさん」


「……セっちゃんとシルフィが正直何したのかわからないけど、身体熱いし。ムラつくし。早くGOするし。チェリーもでしょ?」


「ええそうですわ。ああ、この胎の底から脳髄まで湧き上がる力…堪りません…まさに全・能・感…! こんなの初めてですわ…これが噂のキメセク…清恋さんまだですの?」


「ふふ。あと…もう少しだけ。我々には財がありませんから、チャンスはいつだって一期に一会。それを最大限に生かす、それが私達の主義でもあるのです。それに…ふふ。大前の女はそれはもうこってりとしていて、大方、蛇のようにしつこいのです。その気にさせた蛙のようにお覚悟を」


「「「"覚悟しようね〜"」」」


「ぐぉぉぉぉ!!?」



 動けない! 何なんだこの子達は!?


 よくわからない言葉を使う子や魔力酔いの症状のような子、宗教団体の幹部みたいに煽ってくる子もいる。俺の想定していた百合の気配はいつの間にか無かったかのようになっている。


 つまりこの子達は百合ではなくペドだったのか? ナニヒュンではなくて願いはナニで良いのか…? 


 そんな馬鹿な…


 俺の目は節穴だったのか…


 どうやってか、ここの遊戯の主が何かしらの方法で彼女達を操っているとしか思えない…しかも彼女達のこの感じは、まるで色欲に飢えた獣人みたいだぞ…!



「ああっ! これが罪だと言うのならっ! 喜んで罰を受けようじゃありませんかっ! ええ、それが目的ではありませんので。ええ、ええ、そんなつもりじゃ全然ありませんので」


「し、白々しいな…! 嘘はよくないぞ!」


「むふふ。嘘だなんて。淑女の恥じらいです。きゃっ、ご主人様…こんな姿…恥ずかしいです…み、見ないでください…」


 

 合ってない! 全然言葉と合ってないぞ! 何をテキパキと服を脱いでせっせとおたたみしてるんだ! 手櫛で前髪をパッパと整えてるんだ! チラチラと見せつけてくるんじゃない! 


 しかもこっちは動けないし、目を瞑れないんだぞ!


 いかん…このままではお股の力が俺自身のナニ力によって食い破られる! 内からと外からなど、まるで城塞都市の攻略方法じゃないか!


 これでは一方的に嬲られてしまう…!


 ナニとは言わないが開門し開花させられてしまうような気がする!


 ドMなら喜ぶだろうしご褒美だろうが、俺は違うぞ!


 いや、もしかしてこれが噂に聞くトラップ部屋に訪れるというざまぁというやつなのか…!


 というか、これのどこが凡人だ!


 めちゃくちゃ魔法使いこなしてるだろう!


 しかも身体以外にも魔法と言葉を縛ろうと画策していたのが今になってわかる! 


 面妖な魔法だ…!


 清恋お姉ちゃんを中心にして、右翼と左翼で音階をズラすことで、おそらく結界と同じように作用させて俺の力を縛っているのだと推測は出来る。


 それに状況はすこぶる悪い。状態麻痺の俺1対状態異常女子10。敵性タイプ獣人、位階ジョブ共に不明、精霊の遊戯によるフィールド効果は催淫以外不明、向こうの戦術も不明だがガンガンきそうだ。


 つまり魔力がつき、麻痺が終わり俺のターンに戻るまで1対多の一方的な嬲り殺しバトル。


 強引に抵抗したいがバトルドレスがどう作用するのかわからない。


 うっかりで殺してしまいそうだ。


 くっ、正直舐めていた。幼馴染達の行き過ぎた奇行によって女子高生ってこうなんだとワカラセられていたつもりだったが…いや、彼女達はどこか変な俺を労ってくれていた。


 そう、いつも労ってくれて……いたっけか…?


 何だか思い出すのは行動の監視と把握と失神させられたことばかりなんだが…


 まあ今はいい。それに例え幼馴染達が歪んでいても俺も歪んでいるから構わない。


 そうだ。思い出せ。ここにいる彼女達は被害者だ。この遊戯も何もかもは俺のせいだ。


 ならば致し方あるまい。


 受け入れるしか……あるまいか?


 彼女達の願いが無抵抗な少年を嬲りたいのなら──いや、それ山賊とか悪虐な村長とか奴隷商とかしか思いつかないんだが。


 こんな俺が言うのもなんだが良識を疑うんだが。


 異世界より異世界過ぎるんだが。



「これは正常ではない」


「でも異常でもない」


「恋愛に綺麗事なんてなーい」


「余裕ぶると一番危ない」


「後悔の日々はもうこないの」


「良い子ぶっていてはー」


「掴めるものも掴めない」


「運命が味方をした今」


「私達は挑み登りたい」



 彼女達はニヤニヤしながらもリズムよく歌うように言ってくるが、正直何言ってるか全然わからない。


 というかこれ恋愛じゃないと思うんだが…出会って5秒でマジで恋する女の子は見たことはあるにはあるが…


 くそ、女子集団にニヤニヤされるなど、ラニエッタ以来だぞ…なかなか煽ってくれる…!


 ふっ、だが君たちは知らない。


 圧倒的優位に立ち、美味しく骨の随まで味わい尽くし頂こうとしている、何だったらペットまで視野に入れているこのメインディッシュの正体を君たちは知らない。


 世に一騎当千、娼館で100人斬りと謳われたこの俺を前に、瑞々しいほどのハリのある無垢で無防備な裸体をまるで見せつけるかのようにして晒し、あたかも鶴翼の陣のように包囲してくるとは……


 ははは、命知らずにもほどがある…!


 例え今このようなショタ状態だとしても!

 

 この異世界娼館歴5年の元勇者を!


 舐めてくれるなよっ!!



「はーい、みんなリズムもういいよぉ。抵抗全然無くなったーふぃ〜…少しつかれたの」



 うん? 赤髪の彼女がこれを…え、あ、ちょ、お姉ちゃん達、今大事なことだか…あ、やめ、お股力入らな…や、持ち上げな…あ! 蟻のとことか舐めないでぇ!


 この身体15歳よりアレだからぁ! 


 いま超絶敏感屋さんだからぁ!



「ご主人様、簡単には逝かせませんから、辛くなったらいつでもセーフワードを言ってくださいね。はーむっ」



 魔王さま助けてぇぇっ!


 僕壊されちゃうっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る