ディスティニーチャイルド

「「「ふわぁぁ…」」」



 感嘆の声とともに、上を見上げたり服を指摘し合い、気にして振り向いたりと彼女達は童心に帰ったかのような表情をして惚けている。


 いつ見てもこの綺羅綺羅とした瞳はいいもんだ。それだけで異世界での日々が報われた気になる。


 まあ、巻き込んだのはそのせいなのだが、どうか許して欲しい。



「え、ああっ! 呪いが! おいにが! おいにがぁぁ…!」


「匂いをおいにって言うなし」


「ああっ! マンガ汁が! ノォォオオ!」


「我慢をマンガって言うなし」



 若干二名嘆いている子がいるがそれは気にしないでおこう。脳を突き刺すやらしい匂いや異性の未知の汁に興味深々になる気持ちはわからんでもないが、義妹が過って少々辛い。それに、いろいろ混ざった匂いが部屋に淫靡で、俺のこの小さな時代の脳と股間にまあまあキツい。


 しかし、魔力を極力抑えたいこの場合どうするか。


 彼女達自身にきちんと魔法を教えて魔力を消費させて願いを叶えさせるか? 


 いや、そんなに時間はかけられない。外に残した二人も気になる。


 アレフガルドではこういった罠は時間の流れから隔絶されていたりしていたが、ここではわからない。


 ならば、やはり丁寧に一人ずつだ。


 急がば回れ、だ。


 まあ、アレフガルドでは一度だってした事は無いのだが。


 いや、仕方あるまい。勇者の肩書きなど通用しないし、ましてやこの今のショタ状態。説明を尽くしたとて、完璧に聞いてもらえるかわからない。その上彼女達はこの閉鎖空間のせいでストレスもマックス状態のはず。


 慰め合うことで破綻はしていないが、おそらくギリギリのはずだ。


 パワープレイが出来ない今、だからあくまで優しく丁寧にお話しだ。


 流石に無理なお題は叶えられないが、対案を引き出し確実に一人ずつ仕留め…叶えてやる。


 流石に清恋お姉ちゃんみたいな陵辱的願望はもうないだろう。


 そう思って、一人部屋の隅に打ち捨てられ、死んだバジリスクみたいにしていた清恋お姉ちゃんを見たら、ビクンビクンとしてから起きた。


 おそらく断続的に訪れていた快感の波が、ようやく収まったのだろう。


 バトルドレスとこの身体では、やはり手加減は難しいな。



「はれ…? 今はどこ? 私の鬼畜ご主人様はどこ? まだもうひとつの──」


「セイちゃーん、こっちこっちぃ!」


「…ッ!? あ……ああ…はい…今…全て理解しました……んん」



 清恋お姉ちゃんは、おそらくまだ下半身が言うことを聞かないのだろう。着せてもらった貫頭衣姿で、生まれたての鹿の魔物のようにプルプルと足を震わせながらも、そのまま這い寄るようにしながら百合クラブの面々に近づいていく。


 だが、彼女はやり切ったかのような、それでいて気まずいような笑顔を浮かべている。


 その様子にみんな若干引いているが、優しい言葉を投げかけている。


 その優しさが、正気を取り戻したせいか、清恋お姉ちゃんに罪悪感というダメージを与えているのがわかる。そしてそれすらも快感に変えてしまおうかと葛藤しているのもわかる。


 まあ、興奮の材料に友人を利用したのだ。あの様子なら、起きたことや本当に願ったこと、そして俺のこともきちんと説明してくれるだろう。


 そう思った時だった。


 清恋お姉ちゃんを受け入れた途端に、彼女達の雰囲気が変わった。

 

 中心にいる清恋お姉ちゃんをまるで下手人のごとく包囲しているあの感じ…アレフガルドでも似たようなことがあった。


 今回は違うが、俺が祭り上げられる前触れだ。


 助けられてのふれあい感謝祭だ。


 いつもなら逃げ出す算段をつける瞬間だ。アレフガルド女性には位階と魔法がある。場合によってはいかに勇者と言えどその場に絡め取られてしまう場合がある。具体的にはそのままだとプロのお店に行けなくな───


「ッ?」


 瞬間、ゾクッとする悪寒が背筋を走り抜ける。反射的に天井を見るが、何もない。


 周囲には魔物の姿も気配も感じられなかった。


(シュピリアータ…ではない…なんだ? 魔王きぬちゃんか…?)


 すると、代表して赤髪の子が立ち上がった。



「セイちゃんをこんなにしただなんて、とても信じられないけど、服も綺麗になったし、乾いちゃったし、お漏らし波瑠ちゃんもご機嫌さんになった。君は一人一人のお願いを聞いてくれるんだよね?」


「そうだ。そうしなければ、おそらくこの部屋からは出られない…と思う」



 その俺の言葉を受けて、また座って何やらこしょこしょと話を再開した。お漏らしは別にバラさなくていいと思うが…あ、殴った。良いスナップだ。


(しかし…さっきもそうだったが、やはり彼女達の話が聞こえない。誰かが魔法を使っている…? 気のせいか?)



 その時、感極まった声が辺りに響いた。



「なんて、なんてディスティニー…チャイルド」



 赤髪の子は、そう言って再び立ち上がる。


 他の百合の面々も立ち上がり、ずらりと横一列に立ち並ぶ。



「ディスティニーチャイルド…?」



 いや、そんなこと言われても。


 俺は別に君達の運命の子ではないし、それにこれはそもそも仮初の姿なのだが。というかそう立ち並ばれると娼館みたいなんだが。


 歳の差ギャップのせいか、背の高さのせいか、彼女達からは何か異様な空気を感じる。


 しかも彼女達は後ろ手にして立っているせいでわかりにくいが指でリズムを取っている。足もか。なんだ? 何かミュージカルでも始まるのか?


 酒場の即興劇を思い出すな。


 そういえば演劇部だったか。


 まあいい。とりあえず確実に一人ずつ叶えてやる。



「俺の名は藤堂京介だ。この部屋に囚われた君達を──全力を尽くして助けよう」



 俺はそう言って、お股にナニを挟んだまま立ち上がる。もちろん彼女達のリズムに合わせて歌うように言う。



「さあ、誰からだ。悪夢が見せた本当の願いを一人ずつ教えてくれ」



 そして俺は少々内股気味のまま、キメ顔でそう言った。


 すると彼女達は割と食い気味で一斉に言い放ってきた。



「「「"その隠してるの/まずは見せてよ/ボーク?"」」」



 一人ずつだと言ったのだが…


 それにしても少しずつ微妙なズレ方をする言い方だな。歌うようにして言うのは聞いていて気持ちいいが、合わせるならきちんとして欲しい。


 それに多数の百合の前で竿など、まな板の上の突撃魚みたいになってしまう。ただでさえ本気の百合なんてトラウマものなんだ。そんな事、俺がするわけないだろう。


 それにそれは願いなどではなく、ただの興味だ。普段ならコミュニケーションから始めても構わないが今は違う。


 仕方ない。もう一度言うか……ん? なんだ? お股が…プルプル震えてくる…?


 ど真ん中に立っている清恋お姉ちゃんを見ると、彼女は申し訳無さそうに言ってきた。



「申し訳ございません、ご主人様。我々百合の園は、カードに例えますと一枚一枚は大したことのない端役なのですが、集まると革命だって起こせるのです」



 何の話かわからないが、彼女達をもう一度見ると、皆いつの間にか瞳をギラギラとさせ、ニヤニヤと笑っていた。

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