点と点

 巻き込まれた人達の救助は順調だ。


 今のところ、俺を含めて14名に増えている。


 あと何人いるかはわからないが、大所帯になってしまったのは痛い。


 二つ目のセーブポイントが滞在するには都合良く出来ていたからそこに突っ込んでおけば良いんじゃなかろうか。



「京が順調にハーレムメンバーを増やしてる件について」


「……」



 合流してからクロエの機嫌が悪い。がしかし、俺には麻理お姉ちゃんがついている。



「全員うちの派閥なだけじゃないか」


「だってさっきの見ただろ! セイレーンのあの態度!」


「いや、純粋な疑問なのだけど、こんな幼い子と何というか、同衾というか……できると思うか?」


「そりゃあ……そっか。それに莉里衣のことだってあるもんね。そんなことしてる場合じゃないよね? 京、そうだよね?」


「……だな」



 具体的な名詞を出さない限りそれは嘘じゃない。


 この国の民の奥ゆかしさこそが俺にとって有利に傾いてしまうのだとわかってしまった。


 なんとあの世界の魔法には穴があったんだっ!


 なんとなく愛香との一件でわかっていたけど。ま、いっか。



「なんか怪しい…」



 そんなことも怪しいのも具体的に言ってもらわないと何を指しているのかわからないが、彼女達に手を出したのには違いない。


 だが本人たちからの釈明が欲しい所だ。


 彼女達、出られない部屋グループは手を合わせながら俯いて青くなったり赤くなったりしながらチラチラと顔を見合わせながらついてきていた。


 借りてきたウォーウルフ、いや娼館で怯えていたベルクァヘンプの民みたいに縮こまっている。


 やり過ぎてしまったか…。


 しかし、あれは望まれたからであって、俺は本来イジメっ子ではないのだが。


 むしろ、特戦隊を除けば助ける側最強クラスの勇者なんだが。


 むしろいじめられたからこそ異世界なんてものにぶち込まれてしまったのだが。


 そしてその結果、開花してしまったのだが。


 まあいい。


 全ては密室の中のナカでの出来事だ。



「気持ち悪くないか?」


「ああ、平気だ」



 現在の俺は何故か麻里に抱っこされながら歩いていた。正確には足が着いてないのでポーターされている。


 全然勇者じゃなかった。


 ただの歳の離れたイキがった弟キャラにしか見えない。


 その上、ゆさゆさと揺られるからか、眠くなってくる。


 先程の願いを叶えないと絶対に出られない部屋において、全員から魔力みたいなナニかとちょっと言えないナニかを頑張って吸い出したり出し入れしたり洗体特訓にダメ出ししたり違うダメぇ出ししたりしたのだが、避妊魔法のせいで、またもやすっからかんになってしまった。


 しかし、麻理とクロエの頑張りで、ドロップアイテムは集まり少しは補給出来た。


 娼館の裏口で本日の上がりを受け取る紐男みたいで情け無いことこの上ないが魔力は供給された。


 流石に全員分は無理だが、何人かのバトルドレスは増やせる。


 どうしたものか。



「私とクロだけじゃ満足できないのか?」



 そんな俺の考えを見透かしたのか、身体の正面で背中から抱っこして二つの丘をまるで擦りつけてくるように小さく上下させている麻理が、悲しそうな目を向けてくる。


 「クゥン」と言った態度に、つい違うことを言いそうになるが、これは戦闘の話だろう。



「…ボクも無駄撃ちしてごめん」


「不甲斐ない」


「いや、満足してるよ。ありがとう」



 彼女達は扉の前で必死に戦っていたそうだ。


 すまん。


 狂乱に耽っていて本当に申し訳なく思うが、俺のせいではない。


 ダンジョンと可能性の獣たちが悪い。


 しかし、ロリなクロエ、ロリエはともかく、麻理にこれ以上頑張られると剣が不味いのだが。


 この遊戯内で手に入れていることから俺の持つ剣と同じ魔法錬成の類いだとは思うが、刀身がもうガタガタとしている。


 武器を潰さずに戦うには、少しコツがいる。多くの場合、耐久性の違いはあれど、武器の形状と相手の特性に左右される。今回の敵ならば上手くやればそこまで傷まない。だが、これは口で説明したところで難しいだろう。


 シュピリアータや魔剣なら勝手に治るのだが。


 あまり気にしたことは無かったが、そういえば何であいつら勝手に治っていたのだろうか。いや魔力だな。魔力。ファンタジー様々だ。

 

 まあ、とりあえず今後の探索についてセーブポイントで話し合おうか。



「その、よろしくお願い、します!」


「ああ、休憩場所までもう少し頑張ろうか」


「は、はい! 御休憩ですね! また頑張りますよお姉ちゃんは!」



 波瑠お姉ちゃんのその発言は、多少ニュアンスが違ように聞こえるが、おそらく気のせいだろう。



「ねぇ、おかしくない? ボクの可愛さが目に入らないのかな?」


「良かったじゃないか。可愛がられるの苦手だろう」


「そうだけど! そうじゃなくて!」



 クロエのことは、助けたみんなにはすでに伝えてあるが、あまり興味がないようだ。俺たちの容姿は割と突っ込みどころが山盛りあると思うのだが。


 タトゥーショタに痴女ロリにザ痴女の組み合わせはなかなかないと思うのだが。


 むしろ突っ込むしか無いと思うのだが、なぜか皆スルーしている。


 派閥とやらのせいだろうか。


 異世界の方がまだ反応してくれるのだが、娯楽に溢れた現代の若者にはこれくらいワケがないのかも知れない。


 ある意味異世界より恐ろしいな、この世界。



「俺たちだけで攻略しようとしていたわけだけど、どうしようか」


「最初のプランのままでいいんじゃないか? 麻理お姉ちゃんはそう思う」



 柔らかい物言いに笑顔だが、麻理の目は笑っていない。おそらく自身の修行のチャンスを半端に妥協して逃したくないのだろう。手応えも充分に感じているのか、ヤル気が見て取れる。


 ここまでの道中で感じたことだが、基本的に情に厚く、見捨てられないお人好しの部分もあるし、どこかローゼンマリーのようで安心する。


 それはクロエもそうだが、このダンジョン内では何故かそう思えてくる。


 名前が似ているだけで容姿は全然違うのに、どこかあの冒険の日々を思い出す。



『フハハハハハッッ! 見ていたか京介! 私のこの華麗な剣捌きを! 新たな位階と魔法がこのような戦果を──』


『馬鹿マリーッ! お馬鹿ッ! この馬鹿ッ! 一人で突っ込むなって言っただろ! 今回のパーティ指揮はボクだろ! 言うこと聞かないと後衛に回すからね! ほらやっぱりマリーが真似したじゃん! この馬鹿京! いっつも先走るからだろ! リリィ! 反省会! こいつら説教するよ!』


『まあまあ、マリーさんもわざとではないのですから。それに新たな位階や魔法は誰にとっても祝福です。使って馴染ませ血肉にし糧を得る。京介さんもそのようにして新しいものを作ってしまうのですから。この間だって──』


『んもぉ! そんな話はしてないんだよー! もうやだこのパーティーッ!』



 ああ、懐かしいな…。


 このダンジョンのせいか、この眠気のせいか、何処かはぐらされていた点と点が繋がりそうな、そんな予感がある。



「京介。とりあえず彼女達には待って貰おうか。私達で攻略しよう」


「そう、だな」



 麻理は力強くそう言うが、まあ、そもそも大人数での行軍は想定していない。


 おそらくこちらの世界もそうだろう。


 何故なら人族は大人数の中にいると無意識に手を抜いてしまう生き物だからだ。


 大規模な編成の場合、勝率100%間違い無しな状況でも必ずと言っていいほど損害が出る。逆に人数が減れば減るほど損害率が減る。ジョブや位階に装備、攻略難易度が例え違ったとしても、討伐における推奨人数は四名から六名だ。


 だから帯同していた神殿騎士や修道女は戦闘範囲には決して入らなかった。たまに撃ち漏らしなどを始末してもらっていたが、大抵は見ているだけだった。


 これは過去勇者先輩達の血と汗で編み出した伝統的な戦闘スタイルだ。娼館に全力を注いでいるきらいはあったが、こと戦闘においてはなるほどといった事が多かった。


 まあ、脳筋パワープレイなど、俺以外誰もしなかったとも言うが。


 そして、そのせいで正規の攻略法がわからないのだが。


 迷宮やダンジョンの攻略はアートリリィに頼りきりだった。俺が何も知らないと知っていただろうに、彼女は俺を常に立て、そして買い被りし過ぎていた。


 彼女のいない攻略は、型破りなんて通用しても一回きりだと言う事実を如実に突きつけてくるかのようだ。



『──型は身につけてこその型破りよ、京介。あなたは心で動き過ぎるから駄目なのよ──』



 藤堂か…。


 もう少し母さんの言う事をちゃんと聞けば良かったのかも知れない。そういえば、父さんの記憶は何故か薄っすらとしかないのだが、何故だろうか。


 一度田舎帰ろうかな。



「お腹空いてないか? 喉は?」


「ああ、大丈夫だ」



 割と頻繁にそうやって麻理が聞いてくるが、ここではお腹が空かないし、喉も渇かない。


 そういえば、過去勇者先輩方の多くは食生活に不満など漏らしてなかった。らしい。


 おそらく加護か恩寵だとは思うが、いくら位階を上げても俺のお腹はダメだった。


 なぜ俺の胃の強さはチートでは無かったのか、是非「神」とやらに問いただしたい。



「な、何? そんなに見つめられるとボク照れるんだけど…」



 それに先輩方の内政無双や、食文化革命は、何故か歴史に埋没していた。もしかしたらその「神」とやらの怒りに触れたのかも知れないが、俺の素材革命だけはどうか残してやって欲しい。



「…なんでもない」


「な、なんでもないって何さ! この女誑し!」


「否定はデキない」


「しなよ! この馬鹿京! 絶対それ治してやるから!」


「それな」


「それな、じゃなーい!」


「ははははは」


「何笑ってんのさ! んもぉ!」



 ティアクロィエが好きだったしな。


 


 


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