ダンジョンと敵

| 藤堂 京介



 このダンジョンはどうやら上に登るタイプのようで、何度かアップダウンを繰り返しながら頂上を目指すように仕向けられていた。


 通路はおおよそ2メーター程で、壁と床は時折罠を生成していて、全体的に薄暗く、等間隔にある松明のオブジェクトは触れない仕様だった。


 いらいらするな…


 だいたいのオブジェクトは捥ぐのが一般的なのに、魔法と力が足りない。壁も床も天井もぶち抜けない。


 リミッターを完全に外せばいけないことはないと思うけど…後が怖いし、魔力が足りない。



「にしても…こうも同じ敵ばかりだと気が滅入るな…藤堂君は平気なのか?」


「あんまり詳しくないけどさ。これってこういうものなの? 京介君」



 今のパーティメンバーは元勇者一人に成り立て踊り子の二人。格好から判断したが、赤城さんはなかなかの太刀筋をしていて、雨宮さんはまあ、遊び人な感じだった。


 そして敵がいた。それは全て同一の花の魔物で、言うなれば触手系だった。本体は1メートルほどの白い百合のような姿でその黄金の花弁が伸びてきて拘束しようとしてくる。



「うーん…だいたいはボスの属性…じゃわかんないか。そうだね…趣味というか趣向が反映されてる事が多いと思うよ」



 一度腕を掴まれた時は軽い麻痺…ジンジンとした痛みのない感触を与えてきていた。決して難敵ではないが、今のステとメンバーだと少し厳しい。


 アレフガルドにいた白い百合のような魔物、ホワイトリリィによく似た魔物で、こいつらは見つけたら焼くのが一般的だ。


 しなを作るからか、打撃に強く、並の剣では弾かれる。今の僕の生身の技術のみで対応しなければならず、相手の力を利用し、入刀角度を工夫しなければ上手く切れない。



「だとしたらなんて嫌らしいボスなんだ! こうもニュルニュルとしていて…」


「なんか突いても切ってもしつこいし…」



 赤城さんと雨宮さんは、気づけば僕の居た部屋の隣にいたそうだ。そして僕を起こし、三人で攻略に出た。


 その二人は、この環境に慣れた訳じゃない理由があるが、与えられた武器で懸命に攻撃していた。



「クロは当たってないからな。むしろこっちが危ないからな。振り回すのはやめろ」


「当たり前だよ! 戦いなんてしたことないし! 何よりボクの手は繊細なんだよ!」


「違う。そうじゃない。ドジっ子なんだから下がってろ。罠を踏みすぎだ」



 そう、忘れた頃にやってくる罠。索敵や探査の魔法がアウトなので、判別しにくい罠もあった。


 勘というか、製作者ならこうする、そう言った意識で僕は躱していたけど、赤城さん、雨宮さんはそうはいかないし、僕の口も手も足りない。


 そしてだいたいは蔦のような束縛系で、偶にテニスボールサイズの魔弾が飛んできて、今のところ全て切っているから効果は不明だが、そうじゃない。


 僕も数多くの罠を見てきたからわかるが、あそこまで芸術的に罠にかかる人、雨宮さんみたいな人は見た事がない。


 何というか、雨宮さんは、二発の莫大な爆弾で自分の顔を打ち付けたりしていた。



「う、うっさいなぁ! 麻理も苦戦してるじゃん!」


「この剣の切れ味が悪いんだ!」


「京介君切ってるじゃん」


「ぅ…本当にな…私なんて…私なんて…」


「あーまた! もーめんどくさいなぁ…麻理もただの女の子ってことでいいじゃん。全然修行が足らないだけのイキがった蛙だったっていうか」


「うわーん! このぉ! 触手ぅぅ!」


「……」



 二人は結構たくましかった。しかし…気持ち悪く無いのかな…いや、どの世界でも女性は芯が強いということか。覚悟を決めれば男に引けは取らない。



「まあまあ。なかなか厄介だよ。この魔物…生物は」


「そ、そうだよね…ボクも……恥ずかしかったし…」


「おい、言うんじゃない。思い出すじゃないか…」



 そう、覚悟を決めたのは本当だ。彼女達は一度あの白い花の魔物によってあんなことやこんなことをされた後だ。



『見、見ないでぇぇ欲し…い…ぃぃ!』


『駄目だよぉ! 今のボクを見ちゃダメぇぇ!』


『……ごめん』



 彼女達は助ける前に魔物の大群に飲み込まれていた。魔法を封じられていたからとか、身体が動きにくいとか、考えごとをしていたとか、いろいろ言い訳したいが、元勇者として恥ずべきことだった。


 駆けつけると、彼女達二人は花弁のようなその触手に縛られていた。本体はホワイトリリィなのに、花弁型の黄金の触手を伸ばしていたのだ。そんな魔物は見た事がなかったから油断していた。


 その花弁の触手の体表はホコリと呼ばれるスライムの亜種のように白濁にニチャニチャとしていて、それに塗れた彼女達二人はかなり不徳な感じで居た堪れなかった。


 とりあえず助けはしたが、何というか、かける声が見つからなかった。


 多分エクスタってしまっていたのだろう。


 僕も助け時を悩んでしまったくらいだ。


 何とは言わないけど、途中は辛いらしいからね。わかるよ。わかる。途中で止めるプレイは奥が深い。


 違くて。


 元々水着姿だったのに、粘液に塗れ、それが扇情感を増してしまったのだ。一応花びらで拭ったり、隠そうかと思ったけど、魔物は倒すと魔素っぽい何かに変換され消えてしまった。そしてドロップもない。


 だから誤魔化すものなどないからと、そのまま進み、そして探索中に何度も罠に掛かりキレたのか、もう恥ずかしげな表情も理由を考えもしなくなっていた。


 一旦イキきるところまで進めるような慰め方ならば…上書きならば、そう、例えば異世界の女の子だといろいろと思いつくけど…こちらでそれは不味い気がする。



「……行こうか」



 まあ、後でボスをお仕置きするから許してくれ。


 お仕置きはまあまあ得意なんだ。

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