ダズンローズ15 - イカすじゃんね

| 鷲崎 聖奈



薄暗く、金網の中のリングしか照らされてないこの廃工場の中。


純様の彼氏と噂されていた男の正体は……



優男系拷問鼻歌野郎だった。



声出しNGとは言っていたが…出せるわけねえよ。


声を…出すわきゃねーじゃんね…


今もまた、瞬殺……敗者が出た…


家のもんと張るくらい強そうな男達が…一撃で…



ああああ、そしてこっから…こっからじゃんね! こっからぁぁ! 砕く砕く…あ、あ、あ、


また人差し指と、小指のセット…



そんなにお母さん指が憎いのかよお。


そんなに赤ちゃん指が憎いのかよお。



「ひっ──んぐっ! ん、んん?!」


隣の奴が声を上げようとした! 反射的にマスクを片手で押し付けてやる! どこの女子高だ馬鹿! 錯乱すんじゃねーよぉ! あの拷問野郎がこっち見るじゃんね! 


こういう時は嵐が去るの待つんだよぉ! このままだと真っ先に殺されるじゃんね!


ホラー映画とかで見たことあんだろぉ!


ああああ、ほらこっちをランランとした目で…無表情で見てる見てる見てるじゃんよぉ…こんなの漏らすじゃんよぉ…


もぅ手遅れじゃんよぉ…


首を傾げて…はひ…逸らしてくれた…あ! まただ…また指を砕いた…なんの道具も、無しに…ぃひひぃぃぃぃ! 


そうして…指を結んだ…なんの躊躇もな、く…ぅぐくく…


ぁぁぁ、また漏らした… まただ…いい年して…こんなん…仕方ねーじゃんね…


でも目が…離せないじゃんかよぉ…うち…マスクの下は…笑ってる…なんでだよぉ…?…


みんなは…目だけ左右に動かして周りを見たら…なんだよぉ? みんな目が笑って…パイプ椅子を伝って…漏らして…オナってる…?


いくら女子ばかりでリング以外は薄暗いからってそんな事! 馬鹿じゃんよぉ! いや、現実逃避か…もしかしたら…すごい…のか? ……もう…漏らしたし…みんなやってるし…怖いし…動けないし…


スカートの中に手を突っ込んで、いつもの場所を探す。


あ、なんか敏感になってる…あ、あ、あ、あ。





「よくもマイクを! お前は───ウボァ…」



やっぱり瞬殺…ん! ああこれ…タイミング合わせたら…良い…じゃんね…ぃっ…く…



「サイズは…Mか…ハズレだ…。次。……うん? 嘉多さ──ん! 次の方─ど─ぞ─。なるはやで──倒れちゃう──」



優男系拷問鼻歌野郎の声! すっげぇ良いじゃん! なんだこの廃工場に一人響く透明感のあるこの声わぁ!


やってる事は鬼畜きちくいのにこの軽やかな声ぇ! もっと聖奈せいなに聞かせてよぉ! あ、く!


しかも呼びかけしつつも流れりゅように、


指!ん、


指!ぁ、


指!っん、


指!んんん! 


あ〜はは…またきたよぉ、また砕いたよぉ…はは…あー駄目〜マイク! 逃げて! 逃げないと結ばれちゃうじゃんよぉ! あ、マイクじゃないか…んぁん! あー結ばれちゃったよお! 一人寂しく結ばれちゃったじゃんよお! ぁんん!


二本目も!んぁ! は、は、ぁぁぁ結ぶ!っく!


そして〜積んだ! 寂しくないようにってさ! ん───っ! っは、っは、っはー…また……きた。


なんだ…優しいじゃんかよぉ…


これは…クセになる…こんなになんて初めてだ…うちもぅ…倒れちゃうじゃんね…



酷い…拷問…快感…拷問…快感…鬼畜ぅ…


ああ! 拷問王子×純様…見たい…じゃんね…


ああ! 快感王子×うちも…したい…死体よお…う? 死体? ああ! 死体! 死体! 死体! うち…ははっ! そっか…指砕かれて死んでから……結ばれたん…じゃんね……





「いゃ──っ! んむぐっ! んんん?! ぷは──、はー、はー…」



「…起きましたか? Cの鷲崎…組の聖奈さん? 随分と可愛らしい声で…」



なんだ…夢か…いや…違う…ああ、金網リングだ…


マスクを押さえたのは…こいつか…うちとタメ…緩いロングの茶髪に…メガネ越しにもわかる大きな黒目…に…この声…



「…もしか…B組の…名前斬り…か?…」


「カンミィィアーン! その名で呼ぶな…極道ごときペンで切り刻みますよ…なんて、あは。菜切ちゃんで、いろはちゃんですよ〜。さあさあいきなりですが選択です。今から薔薇が咲きます! ど〜します〜、か!?」



「何語じゃんね…テンション高っ…薔薇だと…? つか、あの王…藤堂京介…さん…は…てかなんだこの穴…おっきいじゃんね…」



…やっぱ名斬りか…こいついっつもキャンキャンうるさいじゃんね…裏新聞に要らんこと書きやがって…ぶっ殺すぞ…


つか、周りを見渡したら…壁に穴が…壁の花が咲いてるじゃんね…これ薔薇じゃねーだろ…どっちかと言ったら…あ? なんだよ…?



「あれ…なんか…ぼんやりする…じゃんね」


「あ、壁穴は見ない方が良いらしいよー。ふらふらーと吸い込まれそうになるみたい…王子様は…その洞窟を抜け、姫を助けに…ああああ! そのシチュエーション裏山死ぃぃ!」



本当だ…目を背けたらおさまった…こいつうっせ、うっせ。


でも、そこにあの拷問快感王子が?


大丈夫なのか? 


最初はただの興味本位で見に来たけど…


あれが純様のオトコ…


しかもおさなか…純様さすがっス。純様の格好良さに惚れてたけど…あんなクソつえーやつ、純様に合うに決まってんじゃんよ。


他の右派連中は殺る気満々だったけど…一体どーなってるか…


藤堂京介、さん…か…なら聞かねーと。



「何か知ってんのかゴシップ女…」


「ふふん。ペン走らせますよチンピラぁ! …まあ今日は記念日だから良いですけど。もちろん。わたくし、円卓二期生筆頭ですので。中等部の頃よりお慕いしておりますわ。お会いしたのは今日が初めてだけどね。あなた秦野派でしょ? 和光様はもちろん知ってると思うけど……夜光は?」


「あ、ああ…夜光組は…手を出しちゃいけねぇじゃんよ。うちよりおっかねー。特にあっこのあの双子はやべえ。…最近会合であったけど、目がやべえ。死んでるじゃんね…つか円卓ってなんだ?」



最近は会合なんて呼ばねーけどな。交流会って名前のゴルフ大会だ。親父もそんなんばっかにしときゃ良いのに…その後の夜の懇親会に夜光組が居た。


夜光の双羽姫…がいた。


超可愛い双子なのに、あいつらのおっかない死んだような目。双子ともども…絶対何人か殺ってる。



「ふふん。和光様もそのおっかない夜光ツインズもあの秦野さえも…みーんな円卓初期メンバー! みーんな夢中なの! あの王子様に! もちろんわたしも! 知らなかったなあ! 素敵なんだなあ! ああ…骨を砕き、指を結ぶ…そして〜積む! ああなんて…発想ハッソーサイコー…なおとこの子…どこの歌を鼻歌ってたのかしら……そうそう、手を出したいならご相談くださいね。あなたのとこ表は金貸しでしょ? ならご利用は計画的に、プロミスしーましょ?」


「…このサイコ女が…何言ってるか全然わかんねーじゃんね……で…何すればそれに入れる?」


「ぅふん。あなたもオナって失神してたでしょ。変わらないじゃない。まーオッケ。なら手伝って。今から王子様が獣を連れてくるから、そのショーのお手伝いをしましょう。まずはそれからね。王子のために愚民はぴちゃぴちゃ汗を掻くものよ。ああ、連れてきた秦野派はあなたが選別して纏めてください。一本化しましょう。それから…あー…そのお召し物を着替えましょ。王子様に失礼ですし。和光様がご用意してますから〜、ね?」



「…何かわかんねーけど、わかった…着替え…頼む」


「和光派閥…別名…王子様を生捕隊いけどりたーいへようこそ。C組、鷲崎聖奈わしざき せいなさん。一緒に王子様のおり建造けんぞーしーましょ?」



なんだそのネーミングは……


くはっ…イカすじゃんね。

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