ダズンローズ14 - ダズンローズ
| 藤堂 京介
助け出した女の子達や、強姦未遂男子達、お仕置き駄目イドも含めて、僕らはコロシアム廃工場に戻ってきていた。
壁も金網も全て元通りになっていて、巻き込まれた子はいなかった。
良かった。
本当に良かった。
コロシアム廃工場にはエリカが居て、すぐに嘉多さんと話し合い、タッチ交代していた。更に僕のアイデアを先読みしていて、ショーにしたいとまで言った。
僕は快諾した。
「お嬢様。時代はまた巡ってきたのデス。やれやれ系デス。私は宗旨替えしましタ。オラオライケイケボーイにお仕置きされるのはそれ普通じゃんと気付いたのデス。やれやれと、さも怠そうで無気力なのに丁寧にきっちりと罰を与えられル。まるで愛のあるツンデレのようではありませんカ。お仕置きには愛がいル。んン! っはー。まだお仕置き残滓ガ…堪らなイィ」
「あなたは一体何を言っていますの?!」
「ズルい。京介くん」
お仕置きされた駄目イドを見て、嘉多さんと絹ちゃんはそう言った。
絹ちゃんリクエストの遠隔素直ローター。さっきまでは別に良いかなと思っていたけど、駄目イドの様子を見て思い出した。
人は可能性の獣だと。
そうだ。いくら位階の無い世界とはいえ、人は成長する。これ以上、絹ちゃんに耐性をつけては不味いんじゃなかろうか。齢15の女の子がこれ以上いろいろ失くすというか、身につけるというか、なんかこう、いろいろ駄目なんじゃなかろうか。
「絹子さん、今日は駄目ですわ。そのあくなき探究心には敬意を表しますが、今は懐に仕舞いましょう。それに、恥じらいは殿方にとって、興奮のスパイスと言います。あまり
「わかった。…ギリギリまで待つ」
「結構。それより早く一回りさせなくてはいけませんわ。嘉多さん、堀北さん、首塚さん。こちらへ。…京介さん、私達は今後の事を話し合ってきますわ。こちらの菜切さん、槙野さんをお使いください。お二人とも後はお願いしますわね。絹子さんもこちらで記録をお願いしますわ」
エリカは僕も思っていたことを言い残し、彼女達を連れて二階に上がって行った。途中、マスクメガネの嘉多さんと助けた女の子はチラチラと振り返りながら僕を見ていた。絹ちゃんも。
この廃工場の二階には休憩スペースや、更衣室などもあるそうで、そこで恋アポと円卓との話し合い、それと今回の落とし前をつけるのだそうな。
エリカの瞳には少し謀りが見えた。けど、まあエリカだし、気にしない。
「藤堂様、お初にお目にかかります。大前女子高校、高等部一年B組、マスメディア部所属、和光派閥の
「藤堂様。嘉多家使用人、グロース女学院二年A組、
そう言った二人の女の子の瞳の色は素直な興奮の色をしていた。
結局のところ、僕はあまりよくわかっていなかった。中ボスクエスト中に強姦未遂があり、変な剣を振り回したら無茶苦茶後悔し、本クエストに行き着いたと思ったら駄目イドにお仕置きし、変な剣の後始末に無茶苦茶悶絶したくらいだ。
わかっていたのは、今から薔薇のショーを始めるということだけだった。
だけど、思っていたのとは随分と違っていた。
コロシアム廃工場は丁寧に整えられていて、金網への入口も分かりやすくレッドカーペットが敷かれ、パイプ椅子の位置も変わっていた。
これは多分、真上から撮影すると花のような形に見える配置だろう。
「菜切さん、槙野さん、よろしくね。それにしても…エリカはすごいね」
そして、最大の特徴は…会場の空気が一体感で満たされていて、最初より人数は少なくなったというのに、熱かったことだ。
これは、純然たる熱意だ。
悟りの魔法を使うまでも無く、期待値が高い事がわかる。
修道女の集団で見たことあったな…
貴族令嬢の集いで見たことあったな…
狂信者集団もあったな…
こういう空気は集団一人一人の自らの意志が謀りなく一つに向かう事でしか生まれない。シラけたやつが一人でもいると伝播して、この一体感は生まれない。
ライブを見に来てるのに端に居て腕組みしながらわかった気になって頷いているやつなど一人もいないのだ。
みんな黙ってはいるが、全力だ。全力で熱い。
……悔しい。
僕の人身ジェンガでは無理だったのか…
細かすぎて伝わらなかったのだろうか。
獣風情に負けるなんて…
確かに異世界ではもっともっと出来た。
ブレーキは踏まなかった。
いや、こんなの…ただの言い訳だ…。
どんなに環境が変わったって、どんな道具を与えられたって、同じクオリティで仕上げなければ職人とは言えない。
言えないんだ!
違くて。
しかし、エリカは一体どんな扇動で味付けをしたのだろうか。…使ったアイテムはわかるが、それだけでは生まれないと思うんだけど。
まるで壊滅させたカルト集団のような…
「そうですね。エリカさんは中等部の頃から凄かったんですよ。彼女達"花束"の何名かは中等部からのお友だちで…わたしもですが…藤堂様のお噂…良く存じております」
「ここに残っているのは嘉多家に仕える使用人と、先程和光様からご紹介いただいた"花束"の姫達と、新たに"花束"に加わった姫ばかりです。藤堂様…あの、この方々が…?…」
「…ああ、成れの果てかな」
呼び出した葛川達は紫色のピチッとしたパンツ一枚の上に黒のビロードのマントだけを羽織った姿で現れた。
「まだ藤堂きゅんと果ててな──ごはあ!」
「カズきゅん! 酷いヨ! 藤堂きゅ─うぼぁ!」
「カケルっち! 藤堂きゅ…きゅ、きゅ、酷いじゃ──ぎゃばっ!」
「酷いにぇ──ばはぁっ!」
「僕もタコになりた──おぼぉぉぉ!」
花屋の仕切りに任せたら変態が出来上がっていた。
当然全員殴る。花屋はもう殴った後だった。
「ああ、まさに
「…壮絶な躾ですね…吊り橋効果かしら…ドキドキします…」
司会二人にそんな感想を言われてしまった。
「……お前らの研鑽を示せ。金網ハッピーマッチだ。…その金網には触れないほうがいいよ」
僕は葛川達が到着するまで暇だったので、過去勇者先輩が作った殺シアムに付与されていた雷の魔法を僕なりに少しアレンジして金網に施していた。
なんと、ロシアンルーレットじゃないんだ。
しかも、死なないんだ。
ハッピーだろ?
いや普通か。
それが普通か。
殺シアムにたまに殺されるとか浮かばれないよ。
だから今回の付与は出力は位階5以下、派手さ90パー、威力10パーの割と繊細な付与を施し────
「…わかったよ、藤堂きゅん。お約束、なんだね?」
「僕が行くにぇ」
「「「どーぞどーぞ」」」
「あば、ばば、ばばばばにぇ〜〜ん……」
「ああ! ズルいよ! ダイヤきゅん!」
「そこは僕に振ってよ! 一回目でそのまま行くとかそんなの無いよ! お約束だって言ったじゃないか! 僕だって藤堂きゅんの前でそんなアヘ顔…したいだけの人生だった…」
「早、いもの、勝ち、だ、にぇ…あへ…」
「ダイヤっちー!」
「………」
なんでだよ。
そういう忖度は要らないんだよ。そういうのしなくて良いんだよ。様式美とか女子高生には伝わらないんだよ。ほらー会場の熱気、少し下がったじゃん。
ああ、早く"檻"から放逐したい…
こんな可能性の獣、要らないよ…
「……それとフレディ。行け。僕には隠せない」
「OKボス! 本当にあのキュートボーイ達を? 少し恥ずかしいヨ」
嘉多さん家の護衛、フレディは最初っから僕のお尻を舐め回すように見ていた。
だから参加だ。本人も満更でもなさそうだ。
僕に挑んだ護衛達はとりあえず回復しておいた。一瞬で意識を刈り取ったから指固結びされたことなど実感がないだろう。
あの、とフレディが指差した先にはロープ無しのビリビリ金網リングがあり、その中には先程の強姦未遂男子たちが固まって困っていた。
「…恭くんコレなんなんだよ。なんで俺らがこんな目に…」
「恭!お前のせいだからな!」
「何が始まるってんだよ…」
「金網とかなんでこんなもんが鎌田にあるんだ…」
「なあ恭くん、土下座しろって!」
「お、お、俺だって…なあ、永遠、永遠、なんだよコレ───!」
その永遠ちゃんなんですが。
目を覚ましてからずーっと黙って僕の右腕に抱きつきスリスリと顎を擦り付けまくっていた。おっきなおっぱいもだ。いたた。
そう、永遠ちゃんには先程の強姦未者男子たちの言葉などまったく耳には届いてなかった。僕の耳にはゴロゴロと小さな喉を鳴らす永遠ちゃんの音しか届いてなかった。
どこから出ているのだろうか…
ま、可愛いからなんでもいっか。
「さあ、準備はいいな。ならいけ。…花屋、後は菜切さんの下でお前が監督しろ──」
「ウィ、ボス。菜切様ノ指示ニ従イマス。───獣ノ皆サン準備ハイイデスカ?」
「やります、か」
「だな」
「ああ」
「藤堂きゅんのために」
「みんな行くにぇ。いい夢────」
「「「見ろよ!」」」
「俗世に────」
「「「あばよ! フゥ──────!」」」
そう言って葛川達五匹はマントを脱ぎ、パンイチのままハイタッチし出した。いや、フレディもいつの間にかパンイチで混ざっていた。星条旗のピチパンだった。
「………もういいよ。何だっていいよ。えっと、菜切さん。お願い。ハジメテ」
「はい! ああっと、と、藤堂様…お会いできて嬉しいです…これを…お暇な時にでも…。ひっ! ぁははは…」
菜切さんからもらったメモ用紙を開けてみると、連絡先とスリーサイズが書かれていた。中身がわかっていたのか、にゃんこになった永遠ちゃんにフシャーと睨まれていた。
だから、とりあえず永遠ちゃんの頭を撫でた。
正解だった。
「…くっ…
「「「きゃ────っ」」」
菜切さんの合図でショーが始まった。六匹の獣達はルンルンと檻に入っていった。
「なんかキモイの来たぞ!」
「おい! お前ら! 助けろよ!おかしいだろ、こんなの! 犯罪だろ! くそ、殴ってやる!」
「永遠ちゃ〜〜ん! 反省したから!」
「お、おい! この金網ビリビリするぞ! これネタじゃねーぞ!」
「こっちもだ! これ…逃げらんねぇ…」
「永遠───────助けてくれ! もうしないから!」
強姦未遂男子達は一様に騒ぎ出した。頼みの綱である永遠ちゃんに乞い願うが、蜘蛛の糸の最後のような感じだし、まあ無理かな。
「同じことしようとしたし。これが動画の向こう側だし。
「──在れ〝ルデエリ〟……復讐、見なくて良いの?」
「良いの! こんなヌルヌル、キモイし…それにダーリンに助けて貰えたし、良い薬味になったって言うか〜あ〜詩ちーん。遊ちーん。行くよー、賠償で隣もぎ取ったから〜なんかいろいろご休憩出来るんだって〜」
「永遠さーん、ズットモですぅ〜」
「永瀬先輩超好きー」
久しぶりに会ったノノメちゃんはずっと顔を逸らしていた。エリカと話していたり、嘉多さんと話していたり、パイプ椅子をひたすら拭いていたりと、忙しくしていたから僕も声を掛けずらかった…なんだ嫌われてはなかったのか。
もう一人の緑がかった薄茶色のリボンをした黒髪の子は知らない子だった。いや、多分出会ってるパターンだな。コレ。
僕は学んだんだ。
それに休憩か…流石に喉乾いたし、ソファとかあるかな。横になりたい。
ちょっと帰る前に仮眠したいくらい精神を消耗していた。
絶対あの変な剣と駄目イドのせいだ。
「なら……みんなで休憩に行こっか。僕もいろいろ疲れたよ…」
そうみんなに言った時、僕の腕を永遠ちゃんがグイっと引っ張り顔を寄せてきた。なになに? 内緒の話かな?
「…ダーリンは…動かなくって…良いからね。永遠が助けてくれたお礼にゃんにゃんするからね。…にゃんニャンしよ?」
「……ごくり」
そうだ。
本クエストはこれからだったんだ。
助け出した姫は、だいたいご褒美をくれるんだった。
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